「日本(U−23代表)は立ち上がりがよく、先制されてしまいました。クオリティが高く、精力的に動き、スピードのあるチームです」

 U−23マリ代表のバダラ・アル・ディアロ監督は1−3と完勝した試合後、そう言って敵を称賛すると、戦勝気分で饒舌になった。

「日本が開始15分間、積極的なプレスを仕掛けてくることは想定済みでした。だから、いつもどおり慌てずに、というところで、失点はしましたが、平常心でプレーできました。後半は主導権を握って1−3と勝利できましたね。新布陣も試し、(パリ五輪に向けて)いい準備ができたと思います。日本も後半途中からはイニシアチブを取り戻し、我々が失点する可能性も十分ありました」

 マリの指揮官は、敗者である日本へのリスペクトを忘れなかった。

 ただ、マリは日本を圧倒していた。手足が伸びてくるようなリーチの差、爆発的なスプリント、五分五分のボールを自分のものにするパワー。その強度で日本を凌駕していた。

 実は、彼らは最高のコンディションには程遠かった。2日前に来日し、長旅と時差ボケを抱え、イスラム教徒が多いことからラマダンで日が暮れるまで食事が取れなかった。おまけにアル・ディアロ監督が「我々は全体的に(金銭的に)恵まれないチームなので、親善試合で用具一式を揃えるのが難しい」と語っているような状況だ。

 次の日本サッカーを背負うU−23日本代表は、そのマリにとことん苦しんでいる。

「世界との遭遇」

 そう括るべきなのか――。


U−23マリ代表に1−3で敗れたU−23日本代表の選手たちphoto by Fujita Masato

 U−23日本代表は今年4月、カタールで行なわれるパリ五輪アジア最終予選を兼ねたU−23アジアカップに挑む。すでにアフリカ代表を決めたマリとの試合は、格好のテストだった。まさしく世界との遭遇だった。

 開始2分、FKからこぼれを平河悠が蹴り込んで先制するも、その後は徐々にペースを奪われ、局面で力負け。押し込まれると、失点を重ねた。終盤には疲労が出た相手を押し込むが、むしろカウンターでトドメを刺された。

「ビルドアップでゴールまで行く回数が少なく、停滞したところ(同点弾を)やられてしまいました」

 右サイドバックの半田陸はそう言って、淀みなく説明した。

【「戦える」マリの選手たち】

「後半はボールを持てるようになりましたが、相手は持たせてカウンターを狙ってきた。ガチャガチャしたところをいけてしまう力強さを感じて、そこはふたり目、3人目で守備をするべきでした。前から来ていたので、背後をうまく使えていたら......。自分自身、効果的なプレーをできた感触はないので、試合を見返して立ち位置など改善したいです」

 選手個々の力の差も目立った。たとえば後半8分に逆転されたシーンは、エリア外からのミドルシュートをGK野澤大志ブランドンが"お手玉"でこぼすと、それを頭で突かれて失点。世界照準だったら、苛烈な批判に晒されるプレーだろう。

「最終予選に勢いがつく試合を、と意識していましたが、GKとしては、してはいけないミスをしてしまいました」

 そう語る野澤自身、沈痛な表情だった。今シーズン、彼は所属するFC東京で試合に出ていない。

「試合勘は、どうなんですかね......? いい状態ではあったと思うんですが、ああいうミスをしているので......。(今後に向けては)修正はできると思います」

 マリの選手たちは、すでにフランス、ドイツ、イングランド、ポルトガル、スペインなどヨーロッパ各国でプレーしている。その多くは1部リーグのセカンドチームで、主戦場は下部リーグ。ただ、実戦で研鑽を積んでいるだけに、適応力など"戦える"選手が多い。

 たとえばGKラシン・ディアラは名門リヨンのBチームの正GK、DFイブライマ・シセはドイツ、シャルケのBチームでプレーし、元U−20フランス代表FWサマケ・ウィルソンはレンヌBで今シーズンは19試合16得点を記録。貴重な逆転弾を決めたママドゥ・サンギャレは、オーストリアのザルツブルクからレンタルされ同1部TSVハルトベルクのレギュラーだ。

「前半から瞬発力などフィジカルの差を見せつけられました。自分がピッチに入った時は、相手もエネルギー切れで、少しチャンスにつながりそうなプレーも見せられましたが......」

 そう振り返った藤田譲瑠チマは、このチームではエース格と言える。ベルギーのシント・トロイデンでは準レギュラーで、場数も踏みつつある。しかし、マリのMFで3点目を決めたキャプテン、ブバカル・トラオレはプレミアリーグ、ウルバーハンプトンの準レギュラーだ。

 突きつけられた戦力差があった。

 もっとも、選手たちは卑屈になることはない。この年代まではしばしば逆転現象が起きるし、かつての長友佑都のように、大会直前までの短い間に急速に力をつける選手もいる。日本人はこうした「世界との遭遇」を触媒に成長を重ねてきた。さらに言えば、長谷部誠、遠藤保仁、川島永嗣のように、五輪代表組を追い越す選手が代表の軸になるケースも少なくないのだ。

 マリ戦の敗北はどのようにも捉えられる。パリ五輪世代すべての選手が、向き合うべき試合と言える。そこに「世界」はあるのだ。

 3月25日、U‐23日本代表はU‐23ウクライナ代表と対戦する。パリ五輪欧州代表で評判の高いウクライナは、最高のライバルになる。