強いチームには必ず名捕手がいる──。健大高崎(群馬)の試合を見ていると、その鉄則を思い出す。

 捕手・4番・主将と重責を担う箱山遥人(はこやま・はると)。3月19日のセンバツ初戦・学法石川(福島)では、その存在感が際立っていた。


健大高崎の強肩・強打の捕手、箱山遥人 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【試合開始直後にビッグプレー】

 まずは、試合開始直後の守備。一死一塁から学法石川の岸波璃空(きしなみ・りく)が送りバントを試みる。ホームベース前に転がった打球を箱山が素早くチャージ。ボールをつかむと、箱山は迷うことなく二塁へ矢のような送球を放つ。際どいタイミングだったが、二塁はアウト。広がりかけたピンチの芽を摘んだ。

 緊張感のある大会初戦の初回にビッグプレーをやってのけるところに、箱山の役者ぶりを感じずにはいられない。4対0で勝利した試合後、箱山に「迷いはなかったのですか?」と尋ねると、このプレーに至るまでの経緯を明かしてくれた。

「試合前のミーティングでは『2アウト二塁はオーケー』という話はしていたんですけど、先取点を取られるのは嫌だったので。ギリギリのプレーでしたが、ランナーを見た瞬間に『いける』と思ったので攻めました」

 箱山には超高校級の肩がある。捕手の位置から二塁ベースまで、投手に当たるのではないかと心配になるほど低い軌道で届く。だが、試合中の箱山を見ていると、この捕手が鉄砲肩だけを頼りにプレーしているわけではないことが伝わってくる。

 学法石川戦の2回の守備では、こんなシーンがあった。2年生左腕の佐藤龍月(りゅうが)が1アウトを取ったあと、死球を与えた。すると、箱山はすぐさまマウンドへと駆け寄り、佐藤に声をかけている。

 高校野球は今大会からタイムに関する規定が変わっており、捕手を含む内野手がタイムをとってマウンドに行く回数が「1イニングにつき1回、ひとりまで」に制限されている。貴重な1回をここで使うのかと驚いたが、箱山には明確な意図があった。

「アウトを取ったあとに四死球を与えると、長打やエラーが出たりして、意外と点が入るケースが多いと経験上感じていて。そこで1回間(ま)を取って、佐藤をしっかりと落ち着かせようと(マウンドに)行きました」

【高校通算29本塁打の打撃も魅力】

 1年秋から正捕手を務めており、捕手らしい細やかさを持ち合わせている。昨年はプロ注目投手だった小玉湧斗(現・法政大)とバッテリーを組み、現在は1学年下の佐藤や石垣元気をリードする。佐藤は精度の高い変化球を操る実戦派左腕、石垣は今大会に最速147キロをマークした速球派右腕とタイプが異なる。

 箱山は、投手によって声のかけ方を変えているという。

「佐藤は自分で考える力があって経験もあるので、落ち着いて『ここを攻めるよ』と明確に意図を伝えます。石垣は何もあまり考えていないタイプなので、ピンチの場面でも『大丈夫っしょ』とちょっとリラックスさせてやることを意識しています。あまり気にしすぎることなく、持っているものを出してくれればいいので」

 試合中はベンチを頼ることなく、自分の判断で内外野のポジショニングまで目を配る。まさにグラウンドの司令塔だ。

 高校通算29本塁打を放っている打撃面では、学法石川戦の7回に貴重なタイムリーヒットを放ったものの「力みがありました」と不満げだった。内角の厳しいストレートや緩い変化球に対してフルスイングをさせてもらえないケースが目立ち、次戦への課題になりそうだ。

 そして、もうひとつ。箱山は学法石川戦の試合後に決然とした口調で、こんなことを語っている。

「『機動破壊は終わった』とか、『もうやっていない』とか言われているんですけど、今年の冬は機動破壊のノウハウをやりこんできて、いろんなバリエーションを増やしてきたつもりです。今日はあまり出す機会がなかったんですけど、これから出せる走塁術もあるので。相手にプレッシャーをかける走塁をしていきたいです」

 2回戦は明豊(大分)と対戦する。走・攻・守に箱山遥人が支配力を発揮したその時、どのチームであっても健大高崎を止めるのは難しいはずだ。