柿澤勇人、全身全霊で挑む『ハムレット』。演出・吉田鋼太郎からは3年前に「柿澤はハムレットが出来る」
栗山民也さん、蜷川幸雄さん、三谷幸喜さんなど名だたる演出家に起用され、数多くの舞台に出演してきた柿澤勇人さん。
2024年、第31回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。映像作品も、連続テレビ小説『エール』(NHK)、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)など話題作への出演が続く。
2024年5月7日(火)からはタイトルロールを務める舞台『ハムレット』(演出・吉田鋼太郎)の公演が始まる。
◆朝ドラで国民的歌手をモデルにした役に
柿澤さんは、数多くの舞台に出演しながら映画、ドラマにも出演。2015年には、ホストクラブを舞台にしたシチュエーションコメディ映画『明烏』(福田雄一監督)に出演。この映画は、借金返済に追われるホスト・ナオキ(菅田将暉)と頼りにならない仲間たちが巻き起こす騒動を描いたもの。柿澤さんは、ホストのレイ役で出演。
――お札を燃やしたりして傲慢なひどい男だなと思っていたら、実は芝居だったというギャップはすごかったですね。
「そうですね。一見傲慢に見えて、実は小心者の新人ホストという役は楽しかったですね。そして福田さんの現場はやっぱりおもしろいです。役者がイキイキとしている感じ。みんなが何か仕掛けてやろうって企(たくら)んでいるような現場なんですよ(笑)。
福田さんから『舞台で何かやろうよ』ってお声がけいただいていたのですが、僕は『福田さんの映像作品がやりたい!』と言っていたんです。撮影はすごく楽しかった。
『明烏』の前に福田さんの『勇者ヨシヒコと悪霊の鍵』(テレビ東京系)というドラマにも出たのですが、それも本当に楽しかったです」
――完成した『明烏』をご覧になっていかがでした?
「菅田(将暉)くんをはじめ、みんなすごかったですよね。あとはやっぱりムロ(ツヨシ)さんとか佐藤二朗さんとか、福田組の常連の皆さんが本当に上手な方ばかりで、福田組はやっぱりおもしろいなあって思いました」
2020年、柿澤さんは連続テレビ小説『エール』に出演。このドラマの舞台は明治末期。福島に生まれ、独学で作曲の才能を開花させた古山裕一(窪田正孝)は、音楽に導かれるように関内音(二階堂ふみ)と結婚。不遇の時代を乗り越えヒット曲を生み出していく様を描いたもの。
柿澤さんは、作曲家、指揮者、コーラスの指導者でもあった国民的歌手・藤山一郎さんをモデルにした歌手・山藤太郎を演じた。劇中『丘を越えて』『長崎の鐘』というヒット曲も披露し、美声が話題に。
――藤山一郎さんがモデルの役で、納得という感じのキャスティングでした。撮影はいかがでした?
「国民栄誉賞も受賞された国民的な歌手・藤山一郎さんをモデルにした役だったので、歌は正直めちゃくちゃプレッシャーでしたね。日本の歌を歌うための歌唱指導の方にも入ってもらって、いろいろ教わりながら演じました。
その後、藤山さんご本人の娘さん、お孫さん、ひ孫さんとお会いする機会があったのですが、そのときに『父の歌をちゃんと研究なさって撮影に臨まれていましたね』って言っていただいたのが何よりの励みの言葉だったなと思います、頑張って良かった(笑)」
◆映画でもサッカーとピアノの腕前を発揮
柿澤さんは、『エール』と同年、『トップナイフ−天才脳外科医の条件−』(日本テレビ系)では、天才ピアニスト・景浦役。2021年、『真犯人フラグ』(日本テレビ系)ではサッカー教室のコーチ・山田元哉役を演じた。
――天才ピアニストとサッカーのコーチ、どちらも合っていましたね。
「ピアノとサッカーは実際にやっていましたからね。『真犯人フラグ』は真相がわかるまで僕らもだいぶ引っ張られました(笑)。20話ありましたが、犯人が誰なのか、出演者も最後のほうまでわからなかったんです」
――そうだったのですか。みんなが疑わしく思えてきましたよね。最後はエンバーミングを施された遺体が。
「驚きましたよね(笑)。視聴者の皆さんと同じで『誰が犯人なんだろう?』って現場でもみんなで言いながら撮影していたのですが、ビックリしました」
同年、舞台での共演歴もある尾上松也さんの主演映画『すくってごらん』(真壁幸紀監督)に出演。この映画は、エリート銀行マン(尾上松也)が左遷先で出会った金魚すくいを通じて成長していく様を描いたもの。柿澤さんは、金魚を乗せた車で放浪している金魚好きの謎の男・王寺昇役を演じた。
――尾上松也さんとは舞台で恋人役を演じたこともあるので、やりやすかったのでは?
「真夏に奈良の橿原(かしはら)神宮の近くで撮影していたのですが、奈良に入った初日から松也と飲んじゃって翌日二日酔い(笑)」
――飄々としている感じもお帽子も合っていましたね。ピアノを弾いて歌って踊って…魅力がいっぱい詰まっていて絵になっていました。
「ありがとうございます。不思議なというか、独特な世界観でしたよね。ファンタジックな部分があって楽しくて、美しくて」
――映像もとてもきれいでした。完成した作品をご覧になっていかがでした?
「真壁さんはミュージックビデオも撮られている監督さんなので、音楽シーンはとにかく本当にすごくきれいだったし、色とりどりの金魚と映像の美しさが繋がっていましたよね。キャラクターも全員見事にハマッているなあって」
彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念
彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1
『ハムレット』
2024年5月7日(火)〜26日(日)
演出・上演台本:吉田鋼太郎
出演:柿澤勇人 北香那 白洲迅 渡部豪太 豊田裕大 正名僕蔵 高橋ひとみ 吉田鋼太郎 ほか
◆舞台でハムレット役を演じることに
2024年、柿澤さんは、『ジキル&ハイド』『スクールオブロック』で第31回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞した。
「本当にうれしかったです。芝居って正解はないと言われていて。でも正解はないようであると思うんですけど、何点というのもないですからね。励みにもなるし、今までやってきたことは間違っていなかったんだと自信にもなりました」
柿澤さんは、三谷幸喜さんが3年半ぶりに書き下ろし演出した舞台『オデッサ』の大千穐楽を3月3日(日)に終えたばかり。5月7日(火)からは、吉田鋼太郎さんが演出を務める舞台『ハムレット』でハムレットを演じる。
シェイクスピア作品を深く愛する吉田鋼太郎さんが「シェイクスピア作品の中でも最高傑作」という『ハムレット』で演出を担当。さらにハムレットの父を毒殺し、母と再婚してデンマーク国王となるクローディアス役で出演。吉田さんは、自ら上演台本を手がけることで、より理解しやすいシェイクスピア演劇を届けるという。
――吉田鋼太郎さんは、3年前に舞台で共演されたときに、柿澤さんをハムレット役にと決めてらしたそうですね。
「はい。3年前に僕に『柿澤はハムレットができる』って言ってくださって。僕も『ぜひやらせてほしい!!』とお伝えしましたが、こんな未来になるとはまったく思ってなかったです(笑)」
――やりたいと思ったことが実現するというのは、すばらしいじゃないですか。
「大変ですよ、本当に。心からやりたいことだけれども、実際にそれが迫ってくると、目の前に来ると恐怖です。寝られなくなりますから」
――それをどういう風にして乗り越えるのですか。
「乗り越える術(すべ)はないです。誰か教えてくれないですかね(笑)。今と比べて劇団四季時代のはじめの頃は、とにかく楽しかったし元気でした。それに比べたらどんどん、どんどん怖くなっていって、もう板の上には立てないなんて思うこともあります」
――今でもですか。
「はい。舞台は怖いですね。なので日々すごいことをやっているんだなって思いますよ。倒れられないし、やり直しもきかないし…。もちろん映像も大変ですが、全然別物ですよね」
――制作発表会見で吉田鋼太郎さんの熱い思いが伝わってきましたね。
「そうですね。相当気合いが入っていますね。蜷川さんっぽくなってきたな、蜷川さんと似ているなあって(笑)」
――好きなお酒も控えていると伺いましたが、気分転換とかリフレッシュはどのようにされるのですか。
「実は、最近はほとんど飲めていないんです。だから、癒しを求めてプールで泳いだり、サウナに行ったり…みたいな感じです」
――何かしてみたいことはありますか。
「何かするにしても『ハムレット』が終わってからかな。それまではちょっと考えられないので、4カ月ぐらい先になりますね(笑)。僕は結構いつも悩んでいるし、何かあるたびに落ち込むので、『ハムレット』が終わるまでは気が抜けない感じになると思います。
僕の役者としての大きな分岐点になるのがここだと思うので、『ハムレット』の先のことはまったく考えてないです。まずはこれを乗り越えなければ」
凛とした佇まいと身のこなしが美しい。悲劇の人というイメージのハムレットだが、ポスターでは満面の笑顔。「生半可な気持ちでできるものではありません。全身全霊で挑みます」と話す柿澤さん。どんな『ハムレット』になるのか楽しみ。(津島令子)
ヘアメイク:大和田一美
スタイリスト:ゴウダアツコ