若い部下から尊敬されない上司の特徴とは(写真:studio-sonic/PIXTA)

「優しく接していたら、成長できないと不安を持たれる」

「成長を願って厳しくしたら、パワハラと言われる」

ゆるくてもダメ、ブラックはもちろんダメな時代には、どのようなマネジメントが必要なのか。このたび、経営コンサルタントとして200社以上の経営者・マネジャーを支援した実績を持つ横山信弘氏が、部下を成長させつつ、良好な関係を保つ「ちょうどよいマネジメント」を解説した『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』を出版した。

本記事では、若い部下からがっかりされるダメな上司の特徴を紹介する。彼らがどのような理由からそうなってしまっているのか? そしてどのように軌道修正をしていくべきか? 書籍の内容に沿って解説していく。

上司には上司なりの「変われない事情」


「辞められると困るので、若い人には強く言えません」

このように言う上司が、世の中にはとても多い。なぜ、昨今の上司たちはそのように決めつけてしまうのか?

私は、上司と若者との「情報の非対称性」に大きな問題があると考えている。

上司が知っている情報、若者が得ている情報のズレが広がっているのだ。そのため「早とちり」や「誤解」がなくならない。なくならないどころか、致命的な問題が、いろいろな職場で見られるようになってきた。

たとえば成長して会社に貢献したいと若者が願っても、冒頭のセリフと同じように、

「キツイこと言うとすぐに辞めるから、扱いづらい」

などと上司がレッテルを貼っていたらどうか。若者に十分な成長の機会が与えられないだろう。

一方、上司が親身になってコミュニケーションをとろうとしても、若者側が

「そんなの無駄」

「飲みニケーションなんて、タイパが悪い」

などと言っていたら、いつまで経っても相互理解の機会が得られない。

相思相愛なのに、お互いが変な勘違いをして別れなければならなくなったカップルのようだ。こんな悲劇を繰り返してはいけない。

では、どうしたらいいのか? 

結論から言おう。上司が変わるしかない。若者が得ている知識や情報に偏りがあるのは、ある意味しかたがない。それを批判しても先に進めないだろう。誰かが、

「それは一見無駄のように見えて、無駄ではないのだ」

と諭す必要がある。しかし、その言葉に説得力を持たせるためには、上司がまず本当に無駄なことを減らしていかなければならない。何が無駄かをわかっていない上司から指導されても、

「タイパが悪い」

と一蹴されてしまうだけだからだ。ただ、実のところ、上司は上司で変わることができない理由がある。それを理解してほしい。だから

「高給取りなのに、給料分も働かない上司が増えた」

などと、一方的に失望してほしくない。その理由とは、上司たちが「部下化」している、という現実だ。

「部下化」する上司の4特徴

昨今、世の中で「上司」と呼ばれている人たちが「部下化」している。肩書は「課長」や「部長」なのに、まるで部下のような思考の上司たちのことだ。

もちろん、上司のような振る舞いはしている。会議で人を招集し、進捗管理し、経営陣に逐一現状を報告している。しかし考え方、価値観が部下そのものなのだ。

ちなみに、「上司と部下との違いは何か?」と聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか?

実力や実績だろうか? 

それともスキルや経験だろうか? 

それとも人望だろうか?

すべて違う、と私は考えている。なぜなら、上司よりも実績の高い部下はいるからだ。スキルが高い部下もいるし、年齢が上で、経験も人望もある部下もいる。

では、上司と部下との違いは何なのか? それは、責任と権限の種類の重さだろう。上司には上司の責任があり、上司としての権限がある(もちろん、部下は部下の責任があり、権限もある)。

肩書が違うのだから、責任と権限の中身が変わってくるのは、当然だ。

しかし、このような責任と権限を意識していないマネジャーが増えている。まさに「部下化」している上司のことだ。その特徴4つを紹介しよう。

(1)低い視座
(2)受け身
(3)今を優先
(4)世間知らず

上司も目の前のことで「いっぱいいっぱい」

それでは、まず「(1)低い視座」から解説する。

昨今、多くの上司は組織のマネジメントよりも、目の前の仕事で頭がいっぱいである。ドンドン環境が変化しているため、自分自身の成果を出し続けることも昔ほど簡単ではなくなった。いくら経験が豊かであっても、である。

それだけではない。

40代、50代にもなると、過去に経験しなかった、さまざまなライフイベントに直面する。子どもの入学、卒業、結婚、親のリタイヤ、入院、看病、地域社会における役員就任など……。

仕事以外のことでも役割(責任と権限)が増え、心配事が増える。子どものこと、配偶者のこと、親のことで頭がいっぱいになることもある。

他にもある。

このままずっと同じ会社でいいのか。セカンドキャリアを考えて、学び直し(リスキリング)に力を入れるべきではないか。自分の将来についても悩みは尽きない。

もちろん部下のことは気にかけている。組織の目標達成にも意識を向けている。しかし、常に焦点を合わせられるほど余裕のあるマネジャーは少ない。

この感覚は、実のところ部下と似通っている。

目先の仕事や将来のキャリアについて思いを馳せること。自己成長について考えること。自分の結婚や子育てについて悩むこと。目先のことでいっぱいいっぱいになっている状態は、上司や部下も同じなのだ。

だから、多くのマネジャーは定期的に立ち止まらないと、組織全体を俯瞰できない。長い時間軸で考えることができない。

上司も部下と同じ。

「いま、ここ、わたし」

に焦点を合わせてしまっている。だから、視座がいつも低いのだ。

部下にかまう余裕がない

2つ目の「(2)受け身」は、どういうことか?

この特徴は「(1)低い視座」と強く連動している。視座が低く、視野が狭くなっているため、周りがよく見えなくなっているのだ。

プロ野球の監督のように、試合に勝つためにどうするかを、選手全員を洞察しているか。スタメンのみならず、ベンチ入りした選手も含めて、気を配っているか、というと、なかなか難しい。

だから、ついつい

「何かあれば、いつでも相談して」

と部下に言ってしまうのである。上司は監督でもなく、コーチでもない。上司も同じように選手で、自分の成績を上げるのに必死だ。いちいち他の選手の状態をチェックして声をかける余裕がない。

だから受け身になってしまう。なぜ上司が部下に対して、

「もっと主体的になって」「当事者意識を持てよ」

と繰り返し言うのか。それは、自分のことで精いっぱいで、かまっている余裕がないからだ。

このように、上司も部下も「受け身」であるから、いっこうに埒が明かない。「指示待ち部下」と「相談待ち上司」の組み合わせだと、双方が不信感を募らせるばかりだ。

部下の成長よりも、部下と揉めないことを選ぶ

3つ目の「(3)今を優先」も、「(1)低い視座」と強い関係がある。

視座が低いから、

「将来の大きな報酬よりも、目先の小さな報酬」

を優先してしまう。経験の浅い部下なら、そのような思考に陥ることも多いだろう。だから上司は憎まれ役を演じる。

「今が苦しくてもやり切りなさい。そうすることで、君の未来につながるんだから」

このように、言いづらいことも部下に伝え、指導するものだ。これは子どもへの躾と同じである。

しかし、

「いま、ここ、わたし」

に焦点を合わせてしまう上司は、部下との衝突や軋轢を避けようとする。憎まれ役を演じられないのだ。

「どうして、最近の若い子は、もっと主体的に行動しないんでしょうね」

と私に愚痴は言っても、部下本人には、なかなか本音を伝えようとしない。今感じるストレスから逃れたい、とする傾向が上司にも強いからだ。

上司がZ世代の若者に完敗する事柄とは?

最後に「(4)世間知らず」である。

これは顕著だ。

「最近の若い子は、社会のことがよくわかっとらん」

昭和時代は、こう言って嘆く上司がたくさんいた。しかし、今は昔。社会人としての礼儀作法やマナー以外は、ベテラン社員のほうが、圧倒的に世間知らずである。

いろいろな場所で講演やセミナーをするが、参加する経営者、マネジャーの方々の情報感度は、悲しいほど低い。

目先の仕事については、さすがにプロフェッショナルであっても、猛スピードで変化する世界経済の情勢には、まったくついていけてない。

AI、脱炭素、SDGs、LGBTQといった、時代を彩るキーワードのみならず、心理的安全性、働きがい、エンゲージメント、リスキリング、DX……といった、身近なワードについても、上っ面の知識しかない。

むしろ上っ面の知識があればいいほうだ。

「わが社はみんな和気あいあいとしていて、心理的安全性が高いほうだと思う」

「リスキリングって、プログラミングとかデータサイエンスを勉強することだろ? 私には関係がない」

このように、確証性バイアス(都合のいい解釈をする思考の偏り)にかかって、誤解している人も多い。

目先の仕事に関係のない情報や知識を得ても「意味がない」と思い込んでいる上司たち。そんな上司を、今の若い人たちはどう見るのか。

25歳の若者は、否応なしに、50年や60年先まで考えなければならない。目先の仕事がいったい何年後まで存在するかわからない時代に、

「いま、ここ、わたし」

にしか目を向けていない上司を、果たして「ロールモデル」として見られるのだろうか。社会課題解決に強い興味を持つ若者であれば、なおさらだ。

今の上司が直面している厳しい現実はもちろん承知している。しかし、責任と権限を与えられている「上司」である以上、若い部下の指導を怠る理由にはならない。

新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません:マネジャーの心の負担を減らす11のルール』では、現代の価値観に合わせながらも部下を一人前に育てる、「バランスのとれた」マネジメントのルールを11のテーマに沿って解説した。

ぜひ本書を参考に実践してもらいたい。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)