日本代表 イラン戦の敗因を徹底分析「苦手な戦い方がある」「森保監督の悪いクセが出た」
サッカー日本代表 アジアカップ総括 前編
アジアカップ準々決勝であっけなく敗れたサッカー日本代表。これまで解決されなかった問題がはっきり出たというイラン戦は、何がよくなかったのか。チームを長く取材してきたライター西部謙司氏と清水英斗氏のふたりが明らかにしていく。
サッカー日本代表のイラン戦は何がいけなかったのか。識者ふたりが徹底検証 photo by Getty Images
――1−2で敗れてしまった準々決勝ですが、イラン戦を振り返ってどう思われますか?
西部 このイラン戦が象徴的なんですが、今回の大会ではっきりしたのは、日本代表には苦手な戦い方がありますね。
ロングボールを蹴られると困る。そういう相手に対しての戦い方が不慣れであることです。だから、ボールを蹴るところを抑えるか、それとも落ちるところを抑えるか。どっちかをやらなきゃいけないんだけど、イラン戦に関してはフリーズしてしまいました。
どちらの手も打たなかったところは、ベンチワークの問題も大きかったと思います。
清水 そうですね。ロングボールのところと、あとはハイプレス対策ですね。相手に日本陣内から捕まえてこられた時に抜け出せなくて、そこからボールを運べなくなってしまった。
あれで日本の陣内でずっとプレーさせられる感じになったので、点を取りにいくチャンスがすごく少なりました。個人的にはロングボール以上の問題だったかなと思っています。
ロングボールのほうは、まだ、こうすればよかったという対策がいっぱい浮かんできて、ベンチワークの問題だったね、とか振り返りが可能なんです。だけど、あのハイプレスの回避がほとんどできなかったのは、もっと難しい問題かなと。
――イランのハイプレスはなぜ回避できなかったのでしょうか?
西部 途中から怖がっちゃいましたね。ロングボールをはじけない、セカンドボールを拾われる流れのなかで、相手のハイプレスのかかりも強くなってきた。その時に相手が前に出てくるということは、その選手の後ろが空いているから、そこを使えるはずなんですよね。
ただ、どっちかと言うと逃げの状態。つなげるのに1回逃げておこうみたいなパスが多くて、それを引っ掛けられるという。
あまり計画性がない。守田英正や遠藤航がボールを受け取れなくなった時点で、もう相当厳しいなと感じました。
清水 あのふたりも中盤で完全に捕まった状態なんですけど、そうなった時に運び手がいなくなるケースは、日本は多いんですよね。
鎌田大地がいた昨年のドイツ戦の時は、プレス回避したんですけどね。鎌田がサイドバックの位置まで斜めに下りてくる形で起点になって。ただ、今回彼はいなかったし、そういう動きはトップ下の久保建英もしていなかった。そこでオプションが出てこなかったのも、運べなくなった要因のひとつかなとは思います。
西部 イランの圧力は強かったです。もともと球際が強いチームですし、個々の重さもある。ただ、体がくっつくまで詰められているわけではないので、相手が前に来ているということは必ず外せる可能性はあるわけですよ。
そこの枠組みをしっかり作れていなくて、割と選手の判断に任せていたところのバグが出た感じですかね。
清水 久保が起用された時は、割とそういう感じの試合になりがちかなと。すごく即興的になりやすくて、彼の動きやアイデアに頼る。
それで、久保はボールロストが実際に多かったんですけど、打開も多かったんですよね。相手が来たところをうまく裏返すきっかけにはなっていた。ただ彼を代えたことで、もう本当に押し込まれっぱなしになってしまった。ちょっと打ち手としては失敗したなと思いますね。
【森保監督の後手戦法の悪いところが出た】――森保一監督の選手交代に問題はなかったですか?
西部 南野拓実と三笘薫をあの時間帯に出すのはたぶん最初から決めていたことなので、前半はボールさえキープしていれば、そんなに点が入らなくてもいいと。0−0でもいい、膠着上等というのは、前回のアジアカップもカタールW杯もそうだし、森保監督の基本的な戦い方ではあるんですよね。
後半に三笘を入れてギアを上げるのはわかるんですが、上げられなかったですね。相手のほうに上げられてしまって、そこはまず交代の目論みがうまくいかなかった。
もうひとつは、明らかに後半状況が悪くなっているのに代えなかった。先ほど言った、ロングボールの出るところを抑えるか、ボールが落ちるところを抑えるか。
板倉滉が集中的に狙われているのはわかっていた。前半に1枚カードをもらったり、たぶんケガの影響もあって精彩を欠いていましたよね。まあ、相手は板倉を狙ったというより、冨安健洋を回避したんだと思うんですけど、そこからのこぼれ球とか入れ替わりが多くなった。
もうひとつは、イランはロングボールを蹴るために意図的にフリーマンを作っていた。前半の終わり頃から、後ろは3人で回していましたから。日本の前線ふたりのプレスに対してひとり余らせる形を取っていました。
だから、「長いボールを蹴らせて回収」ってよく言うけど、蹴らせているんじゃなくて、蹴られている状態で、ここを抑えなきゃいけなかったと思います。
でも、どっちも手を打たなかった。具体的には町田浩樹を入れて後ろを3枚にするか、前を3枚にしてよりプレスをかけてロングボールを蹴らせない。そのための選手交代があってもよかったかなと思うんですけど、とにかく何にも助ける動きがなかったですね。
清水 1−1だったので、かなり延長戦を考えたと思うんですよ。そういうすごく悩ましい決断の時に、森保さんって粘っちゃう。粘ってから動く後手戦法の悪いところが出てしまったのかなと。どうしても交代のタイミングがそうなってしまう、森保さんのクセですよね。
イランも積極的に動いてこなかったので、もしかしてそこも考えたのかなという気はするんです。僕はそこでは中山雄太を入れておけば結構いろんな問題が一気に動いたかなと思っていて、中山を一番左に置いて伊藤洋輝を3バックの左に入れる。
そうすれば、ビルドアップの時に三笘をサポートする中山の動きが出てくるんですよね。相手の間に入る動きで。中山のよさはバーレーン戦で出ていたので、彼を起用すれば複合的に解決できたかなとは思ったんですけど、出なかったのはちょっと残念ではありますね。
ただ、後ろを5枚にした後、仮に延長戦になった時に、相手に点を取られました、ならば、もう1回前に出て行きましょうと、また4枚にしていくのはなかなか難しい。一度5枚にしたら戻しづらいぞという考えも森保さんにはあったかもしれないです。
まあ、難しいけどいくべきでしたね。
【前半膠着→後半勝負は相手もわかっている】――1点しか取れなかった日本の攻撃は、どう見ますか?
西部 結果論ですけど、三笘を左、久保を右に置いて、トップ下は南野でよかったんじゃないかなと思います。というのは、相手に引かれた時の日本の攻め手って、ウイングのドリブルしかないんですよね。
守田と上田綺世の縦のワンツーで1点取れましたけど、結構偶発的な感じはあった。あとは久保がライン間で受けて裏に前田大然を走らせるとかはありましたけど、やっぱり本来の強みはサイドアタックですよね。そういう意味では伊東純也を失ったのは大きかった。
ただ、久保がいたんですよ。久保と三笘を両翼に置いたら、相手は相当嫌だったと思いますね。
両翼の威力があまりないというチョイスを、前半にしてしまった。三笘を入れてギアを上げようと思ったら、相手ふたりにつかれて道がなかったという。
ああいう膠着状態は意図的に作っているから変えにくいんだろうけど、前半勝負したほうが結果論としてはよかったかなと。2点目を取っておけば、という感じはしますね。
清水 結局、日本もイランも尻上がりのプランみたいな感じで噛み合っちゃったので、それだったら確かに前半から2点を取りに行けるようなプランのほうが、あの試合にはよかったですね。
西部 もともと自分たちがボールを持って押し込んでいるのに、そんなに点が取れなくても仕方ないという考え方は、あまりよくないし発展性がない感じがします。
膠着させて0−0で、後半勝負かけますと言っても、相手もある程度わかっているので。引かれたなら引かれたなりに、点を取るプランを持ったほうがいい。
清水 チャンスがあるとしたら、ポゼッションフェーズよりも前田が突っついた後ですよね。トランジションの時にもっと相手ゴールに迫りたかったんですけど、ちょっとアクションが遅かったなと思います。
やはり2点目ですね。取っていれば、もう、全然違う感じだったかなと。
【ベンチが無策というのは選手もストレス】――不調だった板倉は、早く交代させるべきでしたか?
清水 1−1にされたのが後半10分だったので、ちょっと早いんですよね。これがもうちょっと時間が進んでいたら交代かなという感じはしますけど、難しいですね。
西部 後半、板倉は裏を取られる場面が2、3回あったので、もう早い時間に僕は代えるべきだと思いました。まあ、板倉自身を代えるか、センターバックを3枚にするか。とにかく何かフィールドを助ける動きをしないと、「これどうする?」ってなったまま選手で考えろというのは、非常に難しい。無理だと思いますよ。
具体的にどうするかとしっかりやって、その結果が当たるか当たらないかはあるけれども、無策というはやはり心理的にもストレスになりますから。
清水 板倉は明らかに様子がおかしかった。ロングボールを蹴られた時に、冨安はその直後にも高速の首振りでちょっと周りを見るんですけど、あの日の板倉はボールばかりに目が行っちゃって、相手が後ろから来て体をぶつけられそうになっても気づかないんですよね。
それが何度もあって狙われていたので、だったら手を打つ。選手を代えるなり、システムを変えるなりは必要だったかなと思いますね。
西部 あとは全体的にロングボールを蹴らせないようにするためには、やはりもう少しポゼッションを上げないといけない。
攻め込んで相手を押し込んでしまえば、ロングボールってハーフウェイラインぐらいまでしか飛んでこないのでほとんど脅威にならない。それが理想的なんですが、そのへんの戦い方はもっと整理しなきゃいけないですよね。
清水 日本は縦にすごく速いんですよね。イラン戦でも自陣やハーフウェイライン付近で奪ったボールを、ここはカウンターは無理だから一度立て直して中盤なり逆サイドなりと、守田あたりが展開を考えていそうなタイミングでも、ポンポン縦に入れてボールを失っていた。このやり方だと、人数をかけて相手を押し込むのは難しいです。
インドネシア戦やバーレーン戦ぐらいだと、それでも日本が全然押しきれちゃうんだけど、相手がイランぐらいになると、もうどんどん日本が疲れていくだけという。相手のペースにハマっていったので、そこの対応力は必要ですね。
やっぱり押しきれないんだなってことが、よくわかりました。これだけ親善試合10連勝とかで輝きまくっていても、やっぱりこういう敵には押しきれないんだなと。
西部 それと日本の強化プランから言うと、アジアカップはちょっと戦いにくい大会であるのは事実です。要はつないでくるチームには強いわけですよ。そして蹴ってくるチームには弱い。
その落差が大きいので、そこをどうするとなった時に、前からどんどんプレスに行って相手に蹴らせもしないし、蹴らせる時は苦し紛れにさせると答えを用意した場合に、やっぱり70%ぐらいはボールを持たなきゃいけないんですね。
でも、そのための仕組みを日本は持っていないし、そんなにハイプレスに全振りするような守り方も実はしてない。つまりミドルゾーンの守備を捨てていないんですよ。それはつないでくるチームにはすごく有効なんだけど、蹴ってくるチームはミドルゾーンで待っててもそこはすっ飛ばしてくるわけだから、日本の一番の強みは出ない。
そういうところが、今回戦いにくい理由ではあったと思いますね。
つまり、日本の立ち位置って、やはり世界のトップではない。トップに勝てるチームではある。ということは、自分たちよりちょっと弱いチームに負ける可能性もある。もうはっきり出ちゃったなと。
清水 これも次のワールドカップを見据えると、すごく大変な、デカい問題ですよね。
48カ国出場だと、今度のグループステージはコスタリカみたいなチームが同グループにふたついる可能性があります。これはかなりデカい問題がしっかり露呈したなとは思いますね。