久保建英、不屈の証明 屈辱の敗戦から中2日、90分で日本代表からソシエダへアジャスト
久保建英(22歳)はまさに東奔西走の戦いを見せている。
2月3日、アジアカップの準々決勝で日本がイランに敗退した後、久保は急遽、スペインに戻っている。5日、所属するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の敵地遠征に合流。そして同6日、中2日の強行日程でスペイン国王杯、準決勝マジョルカとのファーストレグに先発フル出場したのだ。
このスケジュールをこなすだけでも、驚嘆に値する。久保がそれだけタフな選手であり、ラ・レアルで必要とされるキープレーヤーであることの証左だろう。
古巣であるマジョルカ戦で、久保は4−3−3の右アタッカーで先発している。スペインでの初のタイトル獲得がかかる千載一遇の機会であり、決して負けられない一戦だ(ベスト4の段階でレアル・マドリード、バルセロナという強豪がすでに敗退している)。クラブとしても重要度の高い試合で、たとえコンディションがベストではなくても久保の力が必要とされた。
スペイン国王杯準決勝マジョルカ戦にフル出場した久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Nakasima Daisuke
前半の久保は、試合のリズムをつかむのにやや苦労していた。
ひとつには、中東で試合を重ねた後の長旅による疲労が影響していたのだろう。また、日本代表と比べてチーム戦術の違いもあって、プレーのずれがあった。さらに、ハビエル・アギーレ監督が率いるマジョルカが5−3−2で守備を固め、左センターバックのホセ・コペテ、左ウイングバックのハウメ・コスタというダブルチームで久保のよさを消してきたのもあるだろう。
もっとも、久保はできることをしながら、プレーをアジャストさせていった。中盤に下がって、マルティン・スビメンディをうまく使ったり、クロスをウマル・サディクに合わせたりしながら、相手の警戒を強めさせる。その駆け引きを続けることで、混乱を生み出していた。
そして後半の立ち上がり、久保は中盤で抜け出そうとしたところだった。コペテの足が出て、イエローカードを誘発した。これによって、守備に制限を与えることに成功し、攻撃のアドバンテージを握れるようになった。
【この日、最大のチャンスを演出】
57分、久保が右サイドから中へ持ち込み、ラインを乱れさせると、ブライス・メンデスにパス。ブライスが左足で強烈なミドルを打ったが、GKがどうにかブロック。サディクが詰めてのシュートはサイドネットだった。
そして70分、左に回った久保がパスを受け、アンデル・バレネチェアにパスをつける。バレネチェアは左で幅を取ったハビ・ガランにパス。その間、久保はインサイドを駆け抜け、ガランからのパスを引き出すと、ゴールラインまで持ち込んでサディクにマイナス気味の完璧なラストパスを出した。押し込むだけの好機だったが、サディクはボールをバーの上にはね上げてしまい、決めることができなかった。
「マジョルカはサディクに感謝」
スペイン大手スポーツ紙『アス』がそう皮肉な見出しを打ち、サディクを戦犯につるし上げるほどの決定機だった。
フル出場した久保は、終盤にも、苛ついた相手選手に思いきり押し倒されるファウルを受け、あるいは後ろからのチャージを受けながら、果敢にゴールへ迫っていた。やはりアフリカネーションズカップからの復帰組のアマリ・トラオレとのコンビは後半になってリズムを回復。セカンドレグのホームマッチに向けても、くさびを打ち込んだと言える。
敵地でのスコアレスドローは、悪くはない結果だ。
「Emergente」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は久保について「浮かび出る」と言い得て妙な表現をしている。
「タケ(久保)はトラオレと同じく、試合への入りは苦労していた。前半は"地味な"印象だった。しかし後半は中に入る動きで目立ち始め、多くの危険を作り出して、相手ディフェンスラインを惑わしていた」
久保は、不屈の選手であることをあらためて証明したと言える。代表から戻ったばかりで、ほとんど時間をかけずに"仕様"を切り替えていた。もっとも、それがエースの品格とも言えるのかもしれない。
「代表だとか、ケガだとか、チームに帯同している限りは、エクスキューズはない」
イマノル・アルグアシル監督もはっきりと言う。
そもそも、これからは総力戦である。この日はミケル・オヤルサバルもケガで出場を見送るなど、チームは戦線離脱者が多く、半ば野戦病院と化している。出場している選手も、半数は万全ではない状況だ。
ラ・レアルはいくつもの正念場に立つ。2月14日にはチャンピオンズリーグ・ラウンド16のパリ・サンジェルマン戦、敵地でのファーストレグが控える。キリアン・エムバペを擁するなど強力なライバルだけに、乾坤一擲の勝負になるだろう。そしてリーガでは、18日にマジョルカ戦、23日にはビジャレアル戦と、奇しくも久保の古巣ばかりと戦う。そして同27日には、国王杯決勝進出をかけて本拠地にマジョルカを迎え撃つ。
久保は粉骨砕身で連戦に挑む。