槙野智章が選ぶスゴいと思ったDFトップ10

2022年に現役を引退。タレント、解説者として活躍する槙野智章氏に、これまで見てきたなかですごいと思ったDFを10人挙げてもらった。ファイターで、得点力のあるDFとして評価の高かった槙野氏は、はたしてどんな選手を選んだか。

後編「槙野智章が選ぶ対戦してスゴいと思ったFWトップ10」>>


槙野智章氏に選手時代に一緒にプレーして、これはスゴいと思ったDF10人を挙げてもらった photo by Ichikawa Yosuke

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【DFとしての基礎を教えてくれた】

10位 栗原勇蔵(元横浜F・マリノス)

 栗原勇蔵選手は、僕がサンフレッチェ広島、浦和レッズに在籍していた時代に、横浜F・マリノスと対戦する時には、必ずマッチアップしてきました。

 セットプレーでの肉弾戦、空中戦の強さなどは肌で感じてきました。実際に僕も上から叩かれた(ヘディングの競り合いに負けた)こともあります。日本代表でもひとつのポジションを争ってきた仲間なので、より一層その強さ、良さをわかっていると思います。

 実際にぶつかってみた感触では、DFに求められる要素のなかで、このあとに発表する9人とは全く違ったタイプです。「相手FWが一番嫌がることをする」のが栗原勇蔵ですね。試合でのファーストコンタクトで、ファールをしてでも「今日俺行くよ」「これぐらいやるからね」とFWに対して見せていきます。

 ボールテクニックがどうこうよりも、とにかくファイター。体で止める。相手に痛い思いをさせる。その意味では、学ぶべきものがたくさんあったと思います。

 そして、ヘディングの強さ。「先にジャンプして相手を飛ばせない」うえに「空中で止まれる」という特殊なタイプです。決してゴール数が多いわけではないんですが、セットプレーでの打点の高さ、そしてターゲットマンになれる点は本当に優れていたと思います。

第9位 山口智(元ガンバ大阪ほか)

 ガンバ大阪時代の山口智選手と対戦もしてますし、実際に(2010年南アフリカW杯前の)岡田ジャパンでサブ組のセンターバック(CB)として、山口智さんとずっと組ませてもらったんです。

 最初にDFとしての基礎を教えてくれました。ポジショニング、体の向き、そもそも「守ることとは」といった内容です。僕としてもA代表に最初に入った時期だったので、自分から先に「どうやったらもっとうまくなれますか」みたいな相談をしたのが山口さんでした。

 当時、僕もまだ若かったですし、なんかこう「えいや!」と行き当たりばったりでもその場のノリと勢いで守れていたところを、頭を使って守るだとか、ポジショニングのところなどを丁寧に教えてもらいました。また一緒にお仕事できたらなと、思ってたりもします。

 山口さんはユースの時から有名で、トップでも成功した選手です。特別に足が速いとか、強いとかといった存在ではないかもしれないですけど、めちゃくちゃ頭がいいんですよ。

 察知能力があって、それでいてヘディングの部分は栗原勇蔵選手と近い感じの強さがあるんです。空中で止まれて、ターゲットマンになれる。点が取れるDFとしては参考になる部分があると思います。ラインの統率も、駆け引きも上手でした。

【厳しく言ってくれる先輩】

8位 戸田和幸(元清水エスパルス、サンフレッチェ広島ほか)

 戸田和幸さんは、広島時代に一緒にプレーさせてもらいました。僕が3バックの右で、真ん中が戸田さん。

 まずは試合中にはホントに大声で怒られ、引っ張ってもらいました。最初は怖かったんですけど、ダメなものはダメだって言ってくださる存在でしたね。

 ポジショニング、守備ラインの駆け引き、ビルドアップ...練習後、めちゃめちゃ教えてもらったので。あとはファイターとして、相手をどう潰すか、抑えるか、ボールを奪うのかというところまで...。ああやって厳しく言ってくれる先輩って、あとにも先にもいなかったので、やっぱりよかったですね。

 サッカーに対してもストイックでした。最初に練習場に来て、練習後は最後までケアをしていましたから。"ザ・プロフェッショナル"だと思っていました。

 僕にとっての影響力の大きさの証として、2007年のU−20W杯時の髪型があります。赤く染めていったんですけど、それは完全に戸田さんの影響ですね。2002年日韓W杯の時に赤くしていましたから。実際に「出るからには目立て」という一言をいただいて、やった髪型でした。

7位 橋岡大樹(ルートン・タウン)

 橋岡大樹は若いんですけど、メンタリティを含めて自分に似ているところがあるなと思ってこの順位にしました。まだまだ伸びしろもありますし、技術的にも、相手に負けない気持ち、向かっていく姿勢、そしてフィジカルもいいものを持っています。

 それもそうなんですが、浦和で一緒にやっていた時に最初に聞いてきた質問が「どうやったらテレビに出られますか?」「どうやったら覚えてもらえますか?」だったんです。こいつめっちゃ面白いな、と思って僕からも惹かれていきました。

 ベルギーからも連絡が来るんですが...ひとつもサッカーのプレーは相談されたことがないですね...どうやったらテレビに出られるか、どうやったらインタビューがうまくなるか。

 自分の若い頃を見ているようで、このランキングにしました。本当は自分の名前入れたいぐらいだったんですけど...まあ、橋岡にはすべてを賭けるではないにしても、すごく期待しています。

 そんな選手あまりいないです。明るいですよ。でも意外とそういうやつほどサッカーに対して真摯に取り組むものです。勘違いせずに、日本サッカーを背負っていってほしいですね。

【ひとりいるといないのでは大きな違い】

6位 塩谷司(サンフレッチェ広島)

 ここからのランキングでは、僕が一緒のチームで戦った選手、同じ指導者の下でやった選手で、近くで見て「いいな」と思った選手を並べています。

 広島で一緒に戦ったシオは、ボールを持って運べる力と、点が取れるDFであるという点。これはスゴイですよ。僕自身も、DFであってもゴールは大切だと思っていたので。

 そして攻撃面のみならずいいのは、何よりボール奪取能力が優れている点、そして相手のFWが嫌がることをやれる点です。それを「相手の裏をつく」形でできる選手ですね。

 中東に移籍する(アルアイン/UAEでプレー)選択肢を、早い段階で選んだ選手でもあります。日本人選手が"お金"だけではなく、ちゃんとサッカーをやりに行くというのを示した存在ですよね。

 クラブワールドカップに出て、レアル・マドリード相手にゴールも決めていました。広島時代の彼の攻撃力、得点力の高さが発揮されていて、嬉しかったですよ。

5位 森脇良太(愛媛FC)

 森脇良太は...あんまり入れたくなかったんですけど、入れさせてもらいました(笑)。はい。もう小学校の時から知っています。

 ただ、持ってる能力とか、求められることを表現できる力は、僕はものすごい高い選手だと思っています。くさびのパスのうまさだったり、斜めのパスを入れる精度だったり、いやらしさですね。守備だけじゃなくて、攻撃のところでの貢献度がかなり高い。

 あとは「持ってる男」でもあります。劇的なゴール、ロスタイム含めてのゴールがあまりにも多すぎて。 長く一緒にプレーしましたけど、何度彼に助けられたゴールがあったかというぐらいです。

 今、僕は指導者を目指していますけど、 チームにひとりいるといないのでは大きな違いがあるキャラクターですよね。

 アルベルト・ザッケローニ監督の時代には、日本代表に選ばれました。広島や浦和での3バックと、代表での4バックへの適性が多く論じられた選手でもあります。本来的には4バックの右サイドバックが合っていたと思うんですが、徐々に3バックの右への適性が増していったと思います。ボールを持てる、持ち運べる。そしてくさびのパスを入れる。そういったプレーが可能です。

 昨年、愛媛FCがJ3優勝したことにより、J1、J2、J3での優勝を経験した選手になったと聞きました。すごいですね。どれだけタイトルに貢献できているのかは知りませんが(笑)。いいじゃないですか、彼の魅力が現れていて。優勝した時にシャーレを掲げて無視される。その"森脇芸"も30年の歴史で初めてでしょう。なかなかいないですよね。

 そして彼の場合、特筆すべきは味方FWが点を取った際に、お祝いのためにダッシュで駆け寄るスピードの速さです。後半になっても衰えない。今、トップ選手1試合およそ35km走ると言われていますが、それを走った後でも猛ダッシュで行きますからね。

 最近はサッカーの試合の各種データ採取が盛んに行なわれていますが、彼の「喜びの駆け寄り」はスプリント回数1回にカウントしてほしいです。

 あんまり褒めたくないけど、5位にしておきました。

【「変態」という褒め言葉がしっくり】

4位 那須大亮(元浦和レッズほか)

 那須大亮くんは...いやスゴイんですよ。

 浦和の時にミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)は、右に森脇、真ん中那須、左に槙野の3バックをやっていたんですが、今思うとよくこの3人を並べたなと。まずは「点の取れるDF」として魅力を感じるのはもちろんですが、彼もまたそれ以外の強みがありました。

 まずはコミュニケーション能力です。試合中に通る声で味方を統率できる。今、YouTuberとしても活躍されていますが、元々は若い人にもいじられるようなオープンマインドを持たれている方なんです。サッカー界では珍しいと思いますよ。

 そしてプレー面では、相手に向かっていく姿勢が本当にスゴかった。鼻を何回骨折したんですか? っていうくらいの感じで、どんどん頭を突き出していく。隣にいて頼もしかったです。特にセットプレーの際には、それは大きな武器になっていました。

 そういった点ももちろん重要ですが...やっぱり那須さんが印象深かったのは、先に言った浦和時代の攻撃的3バックですよ。1年間戦って、森脇が3点、僕が6点、那須さんが9点と、3人でそれだけ取ったシーズンがありました。那須さんはその年ベストイレブンに選ばれたんですけど、3人で「1トップと2シャドーの選手をどんどん追い越していこう」と言いながらプレーした日々は、とてもいい思い出です。

3位 イリアン・ストヤノフ(元サンフレッチェ広島ほか)

 3位はイリアン・ストヤノフ選手です。彼もやはり広島時代に組んだ選手ですね。右・森脇、真ん中・ストヤノフ、左・槙野で。この人には「変態」っていう褒め言葉がしっくりきます。

 ビルドアップをするDFの選手がドリブルでボールを運ぶ概念って、当時のJリーグにはあまりなかったんですよね。しかも左右両足蹴れて、それを長短で使い分けられる。僕らサイドにいて「自分は別にいらないじゃん」と思ったほどで。

 ほんとパス出すふりして全部ドリブルで剥がすし、サイドに長いボールを蹴って、そのポジションの選手がマークの剥がれた状態でボールが受けられる体勢を生み出す。

 他のランクイン選手は「点が取れる」ということから挙げた選手も多いですが、このストヤノフは「ビルドアップがスゴすぎ」。自分がサッカーをやって来て、同レベルの選手を見たことがない感じです。

 現在のサッカーで、全盛期のストヤノフがいたら、どれだけスゴいんだろうと思いますよ。それでいて、守備の際には体を投げ出して激しいプレーもできるという。相手に嫌がられる選手でもありますよね。

【マネできないタイプ】

2位 森重真人(FC東京)

 森重真人選手は、 ずっと僕のライバルですね。小学校の時から知っています。ずっと一緒にFWやって、中学生では2トップ組んで、気づいたらふたりともCBをやって。お互い何やってるんだと思いながら...。

 広島の小さな町からふたりでずっと一緒にやってきました。気づいたらJリーグや日本代表でもCBを一緒にやってて。「人生、何があるかわかんないね」みたいな話をしたりして。

 DFとして学ぶべきことが多い存在です。1回も彼について「自分が超えた」って思ったことはないですね。マネるというよりも「意識していた」が正しいです。彼の存在があったからこそ頑張れたし、彼よりもうまくなりたい、強くなりたい、日本代表になりたい、という思いがあったからこそ、ずっとやれたって思っています。いなかったらどうなっていただろうと、ちょっとゾッとしますね。

 彼の実際のプレースタイルは、ファイターですね。スイッチが入った時の森重は、人が変わります。いい意味ですよ。だから、自分のマークする選手に対しての強く行くところもそうですし、あとはやっぱり元々FWですから、見ている位置とかキックの球種の蹴り分けなんかもものすごくうまい。

 セットプレーでもターゲットマンになって点が取れますからね。まあ、いつかまた一緒に2トップを組みたいなと思いますけどね! めっちゃやりやすいFWでした。俺たち、ずっとFWやってたらプロになれてたのかな...。

1位 遠藤航(リヴァプール)

 今や日本代表のキャプテンで、世界のリヴァプールのアンカーとして有名な遠藤航ですが...僕は浦和で目にしたCBとしての彼を1位に挙げます。

 浦和レッズで一緒にDFラインを組みました。湘南ベルマーレの時代からいい選手だとは思っていましたが、実際に組んでみるととにかく止めるんですよ。

 1対1で止める。当時のチームは「守備ラインが相手を止められなかったら、ゲームも勝てない」というくらいに相手のキーマンを抑え込む戦い方をやっていたので、なおさらその強さが際立ちました。対人能力もそうですし、フィードもそうですし、ゴールも取れるということで、いろんなDFを見てきましたが1番じゃないですかね。

 彼についてはデュエルということがよく言われます。これがどうすごいのかと言うと、思いっきり体をぶつけて「ドン!」っていう感じじゃなくて、体の入れ方とかタイミングがうまい感じです。

 賢いんですよ。どこで体を当てたらいいのかを考えている。何もかも力任せにやるタイプじゃないですよ。マネできないタイプですよ。

 仮に一般のサッカー選手が、遠藤航を前にしてボールを持ったとしたら...何もできずに、その「覇気」にビビってボールを失うと思います。

「遠藤航が近くにいる」っていうプレッシャーだけで圧倒されるでしょう。なんかやるぞ、やられると怖いぞ、といった覇気を体中からメラメラと発してプレーしているんですよ。たぶん、体を当てられる前にボールを取られてますよ。

 DFとしてゴールを守る守備と、ボランチとして相手のボールを奪う守備は当然違います。今はボランチとして知られる彼ですが、最後の砦となり、ゴールを守る守備でもスゴかった。

 DFラインの上げ下げのところも絶妙にうまかったですし、ヘディングでも栗原勇蔵と同じで「空中で止まれる」あるいは「相手の高さを利用して上から叩ける」タイプでした。

 前に出ていく能力もスゴい。DFとボランチの両方ができる人ってあんまりいないですよね。僕は浦和での彼を見る限りでは、CBやサイドバックで成功するんだと思っていました。

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槙野智章 
まきの・ともあき/1987年5月11日生まれ。広島県出身。サンフレッチェ広島ユースから2006年にトップチームに昇格。DFとして攻守に渡る活躍を見せ、2010年からケルン(ドイツ)、2012年から浦和レッズ、2022年にはヴィッセル神戸でプレー。J1通算415試合出場46得点を記録。Jリーグベストイレブンには3度選ばれた。日本代表では国際Aマッチ38試合出場4得点。2018年ロシアW杯に出場した。2022年の現役引退後は、タレント、解説者、指導者として活躍中。