イランにあっけなく敗れ、ベスト8でカタールを去ることになった森保ジャパン。

 今回のアジアカップは苦戦続きで、収穫を見つけるほうが難しい。だが、それでもあらためてこのチームに不可欠であることが証明されたのは、冨安健洋の存在だった。

 プレーのクオリティはもちろん、ディフェンスのリーダーであり、最終ラインから全体を見渡し、前線にまで声をかける──。そんな冨安が危機感を感じているのは「コミュニケーション」だと、イラン戦後に話した。


冨安健洋がイラン戦後に語った本音とは? photo by Sueishi Naoyoshi

 冨安は何よりもまず、試合に向かう心持ちと自分たちに足りない点を端的に指摘する。

「勝ちへの執着心が本当に足りなかったです。よくない時に声を出すことだったり、プレーでディフェンスだったらがっつりボールを奪って雰囲気を変えることだったり、攻撃陣だったらドリブルで仕掛けて雰囲気を変えたりっていうところが、本当にこのチームにはない」

 劣勢に立たされた時、多少ファウル気味のプレーでも1対1に勝つなど、いわゆる熱い、場内が湧くようなプレーを見せることで、一気に士気が上がるようなことは少なくない。だがしかし、今の日本代表にはそうしたプレースタイルの選手もいなければ、テンションの上がるプレーを見せようとすることもない。

 気迫の足りないまま、文字どおり"意気消沈"しながら90分間、尻すぼみに試合を終えてしまった。

「もう本当によくない日本のまんま。そのまま変わることができずに終わってしまった。それは今回だけ(の特徴)じゃなくて、(常日頃からの)よくない時の日本がそのまま出て、大会が終わってしまったなって。それは僕自身も含めて、もっと、もっとやんないといけないと思います」

 指摘は自分自身にも当てはまり、今後への課題としている。

 ではなぜ、士気の上がるプレーが出てこないのか。少し前であれば、吉田麻也や長友佑都といった年長者たちが盛んに声をかけて、チームを鼓舞していた。

【日本代表の士気が上がらない理由は何なのか?】

 その要素が今のチームにはないことが一因なのではないか──と質問を投げかけると、言葉を選び、考えながら、慎重に持論を展開した。

「(吉田や長友のような存在が不在?)そういうことではないと思います。うーん、今言ったようによくない時の日本が出たかなと思いますし、そこは何て言うんだろう......昔は知らないですけど、僕が代表に入ってからっていう意味では、成長できてない部分なんだろうと思います」

 常に右肩上がりを目指しつつ、でも、現状では至らないということを謙虚に認めた。そして、その解決策に頭を巡らす。

「でも、やっぱりそういう(勝負への執着が必要とされる)試合は何度も来るわけではないですし、こういう大会でしかそういう場面に出くわさない。そういう時のシチュエーションをイメージしてトレーニングすることは正直難しい。メンタル的なものなので、(解決するのに必要なのは)日常なのか、なんなのか。物足りなさはあったし、それが結果に反映したのではと思います」

 日常のリーグ戦から一発勝負の恐ろしさや代表戦のプレッシャーを想定することは、たしかに難しい。どうしたらいいのか。結論は出ない。

 では、冨安が所属するアーセナルではどうなのか。まぎれもないビッグクラブでは、何かが違うのか。

「うーん、まあ、言わないほうがいいなって......」

 と前置きしつつ、言葉を続ける。

「僕らアーセナルも若いチームなので、もちろんそういう(相手に押される)試合はあります。でもそのなかでも、何て言うんだろう......あきらめずに最後までやりますし、実際に今シーズンも最後にゴールを奪って勝ち上がったのは何試合もあるんですよね。

 そういう意味では(アーセナルの選手には)言わずとも『勝ちへの執着心』が備わっている。誰も何も言わなくても『ただただ、それが当たり前でしょ』っていう状態なので」

 その一方で、今大会はアジアに対する油断があったと認めつつ、劣勢に陥った時にはチームで打開するばかりじゃ足りないのでは、とも言う。

【劣勢を帳消しにしてしまうクオリティがあれば...】

 冨安は思考を巡らせながら、日本代表が進む方向を模索する。

「結局、難しい状況に陥った時、何ができるのかっていうところ。いい時は誰でも勝手に(調子に)乗っていけるんですけど、よくない時にどれだけのことができるかは、もっとうしろからやらないといけない。

 あとは、そのよくない時ですら、それすら帳消しにしてしまうクオリティや能力があれば、という見方もできる。それは前の選手もうしろの選手もそうですし、よくない時でもひとりで守るとか、よくない時にも勝手にひとりで点を取っちゃうとか。超越した選手になる──っていうところも、もうひとつの違った道。その両方を目指すべきだと思います」

 冨安の言葉からわかったのは、チームとしても個としてもまだまだ課題は多く、同時に成長の余地も残されているということ。そして解決するには、一朝一夕の問題でもなさそうだ。そんな現実を突きつけられたアジアカップ・ベスト8だったことが伝わってきた。