今年のナ・リーグには、昨年、日本プロ野球でタイトルを獲得した投手が3人揃う。

 山本由伸(25歳/オリックス・バファローズ→ロサンゼルス・ドジャース)は防御率1.21、16勝、169奪三振のいずれもパ・リーグ1位。最優秀防御率と最多勝は3年連続、最多奪三振は4年連続だ。今永昇太(30歳/横浜DeNAベイスターズ→シカゴ・カブス)は両リーグ最多の174三振を奪い、松井裕樹(28歳/東北楽天ゴールデンイーグルス→サンディエゴ・パドレス)は両リーグ最多の39セーブを挙げた。


山本由伸はドジャース19人目の新人王受賞なるか photo by AFLO

 ナ・リーグの新人王投票のトップ2には、山本と今永、あるいは今永と山本が並ぶかもしれない。松井はセットアッパーとして開幕を迎える可能性が高く、そのままでは新人王は難しいだろう。ただし、配置転換によってクローザーのロベルト・スアレスと序列が入れ替われば、チャンスは出てくる。

 ちなみに、ベネズエラ出身のスアレスは福岡ソフトバンクホークスと阪神タイガースで投げて2年連続セーブ王に輝いたあと、アメリカに渡って2022年にメジャーデビュー。ルーキーイヤーは45登板の47.2イニングで防御率2.27、11ホールド・1セーブを記録し、新人王投票では0ポイントに終わった。

 現行の新人王投票は、30人の記者がそれぞれ1位から3位までの選手を挙げる。1位票が5ポイント、2位票が3ポイント、3位票は1ポイントだ。合計ポイントの最も多い選手が新人王となる。

 これまで、新人王を受賞した日本人選手は4人いる。1995年の野茂英雄(当時ドジャース)、2000年の佐々木主浩(当時シアトル・マリナーズ)、2001年のイチロー(当時マリナーズ)、2018年の大谷翔平(当時ロサンゼルス・エンゼルス/現ドジャース)だ。

 野茂と同じ年のア・リーグ新人王に輝いたマーティ・コードバ(当時ミネソタ・ツインズ)はスーパースターにはなれなかったが、野茂と僅差で新人王を逃したチッパー・ジョーンズ(当時アトランタ・ブレーブス)はのちに殿堂入りした。2000年のア・リーグ新人王投票で佐々木に次ぐ2位だったテレンス・ロング(当時オークランド・アスレチックス)は翌年の開幕直後、イチローの「レーザービーム」に仕留められた最初のメジャーリーガーとなった。

【ア・リーグの上沢直之も新人王レースに参戦?】

 2001年の新人王は、ふたりとも間違いなく殿堂入りする。イチローの有資格1年目は来年度、アルバート・プホルスは2028年度だ。2018年の新人王の大谷とロナルド・アクーニャJr.(ブレーブス)も今のところ、そうなる可能性はありそう。昨年、ふたりは揃ってMVPを受賞した。

 また、新人王投票2位の日本人選手は3人。2003年のア・リーグはアンヘル・ベローアが新人王で2位は松井秀喜(当時ニューヨーク・ヤンキース)。翌年のア・リーグはボビー・クロスビー(当時アスレチックス)に高津臣吾(当時シカゴ・ホワイトソックス)が次ぎ、昨年のナ・リーグはコービン・キャロル(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)と千賀滉大(ニューヨーク・メッツ)がトップ2に並んだ。

 受賞した4人と2位の3人を含め、新人王投票で票を得た日本人選手は22人を数え、同年・同リーグで複数が得票した年度も2度ある。2004年のナ・リーグでは大塚晶則(当時サンディエゴ・パドレス)が3位、松井稼頭央(当時メッツ)は6位タイ。2007年のア・リーグではボストン・レッドソックスからメジャーデビューしたふたり、松坂大輔と岡島秀樹が4位と6位に位置した。

 2004年に得票した日本人選手は両リーグ合わせて3人だったが、今年はそれを上回るかもしれない。ア・リーグには上沢直之(29歳/北海道日本ハムファイターズ→タンパベイ・レイズ)がいるため、新人王投票で山本、今永、松井、上沢が揃って票を得ると、2004年の人数を超える。

 上沢はマイナーリーグ契約ながら、開幕あるいはシーズン序盤から先発ローテーションに入れば新人王レースに「参戦」してもおかしくはない。マイナーリーグにはほかの日本人選手もいるが、いずれもメジャーデビューは来年以降だろう。

 ちなみに、2004年にメジャーデビューした日本人選手は4人で、2007年と2008年は5人。もちろん、投票で票を得られるかどうか、新人王を受賞できるかどうかは、ほかのルーキーのパフォーマンスとスタッツにも左右される。

【山本由伸や今永昇太と新人王を争うライバルは?】

 たとえば昨年の千賀は、リーグ2位の防御率2.98を記録しながら1位票はゼロで、票を持つ記者30人全員がキャロルを1位とした。千賀は30人中22人から2位票を得ているので、キャロルがいなければ新人王を受賞していた可能性は高い。キャロルは打率.285、出塁率.362、OPS.868で、ホームラン25本と三塁打10本と二塁打30本を打ち、54盗塁を決めた。

 日本人選手をのぞいて今年のナ・リーグ新人王候補を3人挙げるなら、サンフランシスコ・ジャイアンツのイ・ジョンフ(25歳/李政厚)、ミルウォーキー・ブルワーズのジャクソン・チョーリオ(19歳)、シンシナティ・レッズのノエルビ・マルテ(22歳)だろうか。

 イは韓国のキウム・ヒーローズからポスティングシステムを利用し、ジャイアンツへ移籍した。契約は6年1億1300万ドル(約166億円)。「1番・センター」として期待される。イの義弟で韓国通算139セーブのコ・ウソク(高佑錫)はLGツインズからパドレスへ移った。こちらは2年450万ドル(約6億6000万円)の契約で、スアレスや松井の前に投げると思われる。新人王を受賞した韓国人選手はまだ誰もおらず、2位も皆無だ。

 イと同じくセンターを守るチョーリオは昨年12月、メジャーデビュー前では史上最長となる8年8200万ドル(約120億円)の延長契約を手にした。球団オプションと出来高を含めると最高で10年1億4250万ドル(約209億円)に達し、年齢は3月に20歳の誕生日を迎える。

 昨年8月にメジャーデビューしたマルテは、まずチーム内の競争を勝ち抜くことが必要になりそうだ。レッズには内野手が多く、三塁を守れる選手も少なくない。

 一方、ア・リーグの新人王候補には、ボルチモア・オリオールズのジャクソン・ホリデイ(20歳)、テキサス・レンジャーズのエバン・カーター(21歳)とワイアット・ラングフォード(22歳)、エンゼルスのノーラン・シャヌエル(21歳)などがいる。

【野茂英雄以来となるドジャース投手の受賞なるか】

 ホリデイは、2022年のドラフト全体1位選手。父のマット・ホリデイは右打ちの外野手だったが、息子は左打ちの遊撃手だ。レンジャーズのふたりは外野手、シャヌエルは一塁を守る。4人とも昨年はマイナーリーグで出塁率.410以上を記録し、夏にメジャーデビューしたカーターとシャヌエルはメジャーリーグでの出塁率も.400を超えた。

 なお、ドジャースが輩出した新人王は全球団最多の18人だが、今世紀にかぎるとふたりにとどまる。このスパンにレイズから新人王は4人生まれ、受賞者3人も4球団ある。

 山本が新人王を受賞すれば、ドジャースでは2017年のコディ・ベリンジャー(前シカゴ・カブス、現FA)以来で、投手では1995年の野茂以来。今永が受賞なら、カブスでは2015年のクリス・ブライアント(現コロラド・ロッキーズ)以来で、投手では1998年のケリー・ウッド以来となる。