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性加害疑惑を報じられた「ダウンタウン」の松本人志さんが、「週刊文春」を発行する文藝春秋を相手取って、5億5000万円の損害賠償を求める訴訟を提起した。

松本さん側は「記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく」と主張しているが、文春サイドもまた「十分な自信を持っている」と一歩も譲らない。

地裁における裁判は1年以上かかると見られるが、互いにどのような攻め手を繰り出してくるのだろうか。エンターテインメント分野の問題にくわしい河西邦剛弁護士が攻防を"深読み"する。

●主張から裁判で設定される「争点」

今回のように名誉毀損の成立を争う裁判では、記事の内容の「真実性」について、文春が立証責任を負っています。

松本さんは、文春の第1弾記事に関して訴えているので、文春は第1弾で書いた『2015年冬のA子さん事件』と『2015年9月のB子さん事件』について、その記事内容に関する事実関係を立証していくことになります。

刑事訴訟とは異なり、今回のような民事訴訟では、証拠に基づいて、相手よりも説得力のある立証をした側の主張が認められます。

●松本さんはさすがに「女性と面識はない」とは主張しないはず

松本さん側の主張を元に争点が形成されますが、主としては、松本さんがA子さんとB子さんに性的強要をしたことが真実なのか否か、および真実でないとしても真実と信じるにつき相当の理由があったか否かでしょう。

A子さんとB子さんそれぞれについて、松本さん側から出される主張は、次の3つのような内容のいずれかになると思います。

(1)そもそも松本さんは女性と面識がない。
(2)女性とは六本木の高級ホテルで会って食事をしている。しかし、性的関係はない。
(3)性的関係はあった。しかし、記事に記載されているような強要はない。

おそらく(2)の主張をする可能性が最も高いのではないかと思われます。

結論的には、松本さんは、A子さんとB子さんいずれについても(2)六本木の高級ホテルで会って食事はしているが性的関係はない――として、争点を設定する可能性が高いと思います。

松本さんが(3)で争点設定すると、「性的関係=不倫に該当する事実」を認めることになりかねず、立証との関係でも不利になる可能性があります。

また、少なくともA子さんについては、(1)の主張は厳しい可能性があります。松本さんは、「週刊女性」でA子さんが小沢さんに送ったとされているいわゆる「感謝のLINE」が世に出たときに「とうとう出たね。。。」とXに投稿しています。

この投稿は、A子さんとの面識があったことを前提としているように思えるからです。

●ポイントになる「C子さん」たちの存在

ここで問題になるのが、別の記事に登場して被害を訴えたC子からI子さんの7人と、実名で取材に応じた女性の計8人の存在です。

その中でもC子さんからG子さんまで5人の女性は、ホテルでの複数人の飲み会から、松本さんと女性が2人で移動し、そのあとに性的交渉に至るという流れについては大筋共通しています。

性的関係を持ち掛けることと、拒否されたのに無理やり性的交渉を求めることは、まったく別次元の話になるとはいえ、5人のいずれかが裁判で証言すれば、裁判所も「A子さんとB子さんについても、松本さんは寝室に移動し、そこで性的関係を持ち掛けたのではないか」と考える可能性はあります。

●「女性たちの証言」があることを想定した松本さんが打つ「一手」は

松本さん側としては、複数の女性たちが「松本さんから性的関係を持ち掛けられて(応じた)」と証言する可能性を考慮する必要があります。

そうすると、松本さん側としては、(2)女性とは六本木の高級ホテルで会ってはいるが、性的関係はないという主張について、さらに細かく具体的に「A子さんB子さんにも性的関係は求めた(かもしれない)が、拒否されたのでそれ以上はしなかった(今までも拒否された場合に強制したことは一度もない)」という主張をすることがありうるかと思います。

この場合、松本さんと文春の双方の主張が次のように一致することになります。

・松本さんがA子さんとB子さんに性的関係を求めた(可能性がある)。

・しかし、A子さんとB子さんは拒否した。

これを踏まえると、争点の中心が見えてきます。

松本さん側→「拒否されたのでそれ以上は求めなかった」

文春側→「A子さんB子さんが拒否したのに、松本さんが性的強要に及んだ」

●最大のポイントはA子さんB子さんの「反対尋問」

そこから先の性的強要については、A子さんとB子さんの証人尋問で立証していくことになります。

今回は文春側の弁護士から質問が始まります(主尋問)。2人は記事の内容に該当するようなストーリーを証言するのではないかと思われます。

その際に、A子さんとB子さんが、松本さんと性的関係がなければ知りえないようなことを証言すれば、信用性は上がります。

さて、キーになるのは松本さんの弁護士からの尋問(反対尋問)です。女性の証言の信用性を下げるため、たとえば部屋のつくりとの相違など、矛盾点を突いていくことが考えられるでしょう。

事件から8年以上経過していることについては、A子さんB子さんがより具体的に詳細に話ができれば、8年も経過しているのに詳細に話ができるとして、信用性は高まる可能性があります。

逆に、松本さん側の弁護士としては、A子さんB子さんの証言が詳細であれば、その矛盾点を突くでしょうし、あいまいであれば、そもそも記憶があいまいだから性的強要もなかったという方向ですすめてくるのではないかと思います。

裁判所が、A子さんB子さんの証言について、話の一部(性的行為)については信用性を認め、話の一部(性的強要)については信用性を否定するということは考えにくいところではあり、それぞれ信用性が認められれば、松本さんの性的強要が描かれた記事内容が真実と認定される可能性があると思います。

【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/