リバプール&遠藤航はどうなる? カリスマ監督クロップ突然の退任発表で激変か
1月26日、リバプールのユルゲン・クロップ監督が今シーズン限りでの退任を発表したニュースは、世界中のサッカーファンに大きな衝撃を与えた。
とりわけ選手、クラブ関係者、そして彼を愛してやまないリバプールサポーターにとってはあまりにも唐突すぎて、まだ現実のものとして受け止められないほどのショッキングな出来事だったに違いない。
クロップがクラブとの契約を2026年まで更新したのは、2022年4月のこと。確かに大不振に陥った昨シーズンはその座が揺らいだ時期もあったが、後半戦のV字回復と今シーズンの好調ぶりからすれば、まさかこのタイミングで退任が発表されるとは、誰も想像だにしなかったはずだ。
「エネルギーが尽きてしまった」
クロップは、退任理由をそう説明した。そして退任発表直後の記者会見では「私はいつもすべてを尽くしてきた。ただ、自分の力は永遠のものではないと気づいた。今シーズンに全力を尽くしたら、その後は休みたいと考えている。もう若くはないし、これまでと同じ高さまでジャンプすることはできない」と語っている。
あらゆる意味で過酷な現代サッカーの最先端をいく監督が語った言葉は、想像以上に重い。
今シーズンでの退任を発表したリバプールのユルゲン・クロップ監督 photo by AP/AFLO
長きにわたってブンデスリーガとプレミアリーグでしのぎを削ってきた現マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、今回のクロップの決断に理解を示しつつ、「今は(本人は)認めないだろうが、彼は必ず帰ってくるはずだ」とコメントした。
かつてバルセロナを率いた時代に、クロップと同じような燃え尽き症候群となった経験があるペップは、ある意味で現在のクロップの心理状態を最も理解している人物なのではないだろうか。
現代サッカーは日進月歩で変化する。その荒海のなかで戦うトップクラブの監督は、勝てなければすぐに解任の憂き目に遭い、勝ち続けてもいつか誰かに崖から突き落とされるのではないかと、日々、強烈なプレッシャーを感じながらハードワークしなければならない。
【チームに変化が訪れるのは確実】
特にクロップは、ドルトムント時代に発明した"ゲーゲンプレス"のように、常に強豪チームを打ち破るための新しい戦術の開発を続けてきたラディカルな姿勢をモットーとする監督だ。その人物が最先端を走り続けるためには、心身ともに相当なエネルギーを消耗してきたに違いない。
エネルギーを放出するためには充電が必要だ。リバプールを率いて9年目を迎えたクロップは、自身のエネルギーが底をつき始めていると感じ、一定の充電期間を欲しているのだろう。56歳という年齢を考えれば、ペップの言うように、きっとしばらくすればエネルギーの充填を終え、またサッカー界に帰ってくるはずだ。
気になるのは、リバプールの今後だ。クロップが2015年10月に前任者ブレンダン・ロジャースの後を継いで以降、クラブは完全にカリスマ監督の色に染まった。選手はもちろん、サポーターからも絶大な信頼を寄せられ、愛され続けてきた。
その間、2018−19シーズンにチャンピオンズリーグ優勝を遂げ、2019−20シーズンにはプレミアリーグとなってから初優勝の快挙。名門クラブにとって、国内リーグのタイトル獲得は1989−90シーズン以来、実に30年ぶりのことだった。
それだけに、その指導スタイルも含めたあらゆる面でリバプールとの相性が抜群だったクロップが去るとなれば、もはやなだらかな変化は望みにくい。
27年も続いたサー・アレックス・ファーガソン体制後のマンチェスター・ユナイテッド、あるいは22年の長期政権となったアーセン・ベンゲル監督が退任した後のアーセナルとまではいかないまでも、リバプールにも大きな変化の時代がやってくることは確実だろう。
「正直、わからない。監督、コーチングスタッフが替われば、変化することがたくさんある。ただ、まだその件については多くを話せない」
リバプールでクロップと7年をともにするキャプテンのフィルジル・ファン・ダイクは、来シーズン以降の自身の身の振り方を問われて、そのように答えた。後日、本人はそのコメントが誤解を生むような報道のされ方をしたことに抗議したが、クロップの退任がクラブと選手の未来を変える重要なファクターになる可能性が高いことは、十分に理解しているはずだ。
【後任候補にシャビ・アロンソの名前も】
それは、今シーズンからリバプールに加入した遠藤航も同じだろう。
クロップの特殊なサッカーを理解するまでにはそれなりの時間を要したが、アジアカップ前には、負傷したアレクシス・マック・アリスターが不在の間に自身の存在価値を証明するだけのパフォーマンスを披露。遠藤にとって、「さあ、これからだ」という時に、まさかカタールの地で信頼していた自分のボスがいなくなることを知らされるとは、その胸中を察するにあまりある。
最大の問題は、誰がクロップの後継者となるかだろう。そもそもクロップのスタイルは唯一無二。それを考えれば、どんな監督が指揮を執るにしてもクロップと同じサッカーが継続されることはないはずで、そうなればすべての選手がゼロからの再スタートを強いられる。横一線の状態から、激しいポジション争いが繰り広げられる。
すでにメディアでは、リバプールOBで現在レバークーゼン(ドイツ)で采配を振るうシャビ・アロンソ監督も後任候補として浮上している。まだ噂の域を出ない話だが、今後も次期監督が決まるまではさまざまな憶測報道がなされるだろう。
ただ、それはそれとして、サッカーファンなら、まずは残りわずかとなったクロップのリバプールを思う存分、楽しむべきだ。幸い、現在のリバプールはプレミアリーグで首位を走り、ヨーロッパリーグとFAカップも勝ち残っている。2月26日にはチェルシーとのリーグカップ決勝戦も待っている。
今回の一件によって、四冠の可能性を残すリバプールの戦いにはますます注目が集まりそうだ。