移籍状況で見る2024年J1上位進出期待クラブ

Jリーグは2月下旬の開幕に向けて、各クラブ新体制をスタートさせキャンプの真っ最中。ここで気になるのは今オフの移籍による戦力状況だ。今年も3人の識者に、移籍状況から上位進出と優勝が期待できるクラブを挙げてもらった。(※移籍情報は1月30日時点)

後編「戦力ダウン必至クラブ」>>


浦和レッズはオフの補強で戦力アップ。今季の躍進に期待がかかる photo by AFLO

【浦和は昨季を上回る陣容が整った】

上位進出期待のクラブ/浦和レッズ、FC町田ゼルビア、ジュビロ磐田

中山 淳(サッカージャーナリスト)

 昨シーズンの優勝争いを演じたヴィッセル神戸と横浜F・マリノスをはじめ、多くのクラブが静かなオフシーズンを過ごすなか、マチェイ・スコルジャ体制からペア・マティアス・ヘグモ新体制になった浦和レッズは、開幕前の移籍市場で派手な動きを見せている。

 ヨーロッパへ旅立ったMF明本考浩(ルーヴェン/ベルギー)とDF荻原拓也(ディナモ・ザグレブ/クロアチア)、そして引退したFWホセ・カンテを失ったことは痛手だが、ここまでの補強を見ると、昨シーズンを上回る陣容が整ったと見ていいだろう。むしろ、選手が多すぎるのではないかと心配になるほどだ。

 注目株は、清水エスパルスから獲得した新得点源候補のFWチアゴ・サンタナと、スウェーデン代表MFサミュエル・グスタフソン(ヘッケン/スウェーデン)だ。来日4年目を迎える前者は、J1とJ2で3年連続二桁得点をマークした実力者。グスタフソンも、前所属のヘッケンでヨーロッパリーグにも出場している守備的MFで、守備力アップは確実と言えるだろう。

 その他にも、ベルギーリーグからJリーグに復帰したMF松尾佑介(ウェステルロー)を筆頭に、MF渡邊凌磨(FC東京)、DF石原広教(湘南ベルマーレ)、DF佐藤瑶大(ガンバ大阪)、DF井上黎生人(京都サンガF.C.)、そしてFW前田直輝(名古屋グランパス)も加わるなど、各ポジションの選手層は確実に厚みを増している。

 これに、ローマ(イタリア)から加入したノルウェー代表経験のある期待のウインガー、MFオラ・ソルバッケンがフィットすれば、まさに鬼に金棒。ヘグモ新監督の采配次第ではあるが、成績アップは十分に望める。

 同じく積極的な補強を見せているのが昇格組の2チーム、FC町田ゼルビアとジュビロ磐田だ。

 J1初挑戦の町田は、横浜FMに流出したGKポープ・ウィリアムの代役にGK谷晃生(G大阪)とGK山口瑠伊(水戸ホーリーホック)を獲得。新外国人としては、FWナ・サンホ(FCソウル)、DFドレシェヴィッチ(ファティ・カラギュムリュク/トルコ)を迎え入れた。

 他にも、DF林幸多郎(横浜FC)、MF仙頭啓矢(柏レイソル)、MF柴戸海(浦和)、DF昌子源(鹿島アントラーズ)、そして成長中のFW藤本一輝(大分トリニータ)など、即戦力になってくれそうな好選手も補強した。

 一方、1年でJ1に復帰した磐田は、FWマテウス・ペイショット(アトレチコ・ゴイアニエンセ/ブラジル)、守備的MFレオ・ゴメス(ヴィトーリア/ブラジル)、ウインガーのMFブルーノ・ジョゼ(グアラニ/ブラジル)、21歳のFWウェベルトン(ニューイングランド・レボリューション2/アメリカ)と、ブラジル人4人を大量補強。

 さらにレジェンドGK川島永嗣(無所属)、MF中村駿(アビスパ福岡)、MF平川怜(ロアッソ熊本)、DF西久保駿介(ジェフユナイテッド千葉)らも加入するなど、満足のいく補強ができている。ブラジル人カルテットが成績を左右しそうだが、彼らがフィットすれば、残留はもちろん、中位以上も狙えそうだ。

【各ポジションに実力者を補強した神戸】

上位進出期待のクラブ/浦和レッズ、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレ

原山裕平(サッカーライター)

 今オフの移籍市場の主役となったのは、浦和レッズだろう。MF渡邊凌磨(FC東京)、FW前田直輝(名古屋グランパス)、FWチアゴ・サンタナ(清水エスパルス)ら実力者を迎え入れ、ベルギーからMF松尾佑介(ウェステルロー)も復帰させている。

 目玉となりそうなのはローマ(イタリア)から加入したMFオラ・ソルバッケンだ。ノルウェー出身の長身ウインガーは、昨季得点力に課題を抱えた浦和の攻撃力を高められる存在だろう。

 さらにスウェーデンからはボランチのMFサミュエル・グスタフソン(ヘッケン/スウェーデン)も加わった。すでに盤石を誇るDFアレクサンダー・ショルツとDFマリウス・ホイブラーテンのセンターバックコンビの存在もあるだけに、守備の強固さもさらに担保されそうだ。

 ただし、全体的には前傾姿勢で、人材を整理した最終ラインの選手層には不安を残す。とりわけMF明本考浩(ルーヴェン/ベルギー)とDF荻原拓也(ディナモ・ザグレブ/クロアチア)が抜けた左サイドはアキレス腱となりそうな予感。それでもそのマイナス要素を補って余りある陣容を手に入れたと言えるだろう。

 王者のヴィッセル神戸は昨季の主軸をすべてとどめた一方で、MF井手口陽介(アビスパ福岡)、FW宮代大聖(川崎フロンターレ)、DF岩波拓也(浦和)と各ポジションに実力者を補強。レギュラーとサブ組の力の差が明白だった昨季の課題を解消すべく、リーグとACLの両立を実現し得る的確な補強を行なった印象だ。

 川崎フロンターレは、黄金期を支えたDF登里享平(セレッソ大阪)、DF山根視来(ロサンゼルス・ギャラクシー)、FWレアンドロ・ダミアン(未定)らがチームを去った一方で、MF山本悠樹(ガンバ大阪)、DF丸山祐市(名古屋)、日本代表にも選ばれたDF三浦颯太(ヴァンフォーレ甲府)を獲得。オランダのNECナイメヘンからDFファン・ウェルメスケルケン・際も加えている。

 さらにブラジルからFWエリソン(サンパウロ/ブラジル)、MFパトリッキ・ヴェロン(バイーア/ブラジル)、MFゼ・ヒカルド(ゴイアス/ブラジル)も加入と大量補強で、覇権奪還を狙っている。

 戦力の大きな入れ替えは評価が難しいと見る向きもあるが、8年目を迎える鬼木達監督の手腕で新加入選手が川崎のスタイルにフィットするだろう。そうなると上位進出は十分に期待できる。

【町田はトップハーフのチャンスもある陣容】

上位進出期待のクラブ/浦和レッズ、FC町田ゼルビア、ヴィッセル神戸

篠 幸彦(スポーツライター)

 戦力アップでまず挙げたいのは浦和レッズだ。昨季はチームの得点力に課題を残し、さらにFWホセ・カンテも引退。そんななか、清水エスパルスからFWチアゴ・サンタナを獲得。2022年に27試合で14得点とゴールを量産し、チームが降格したにも関わらず得点王に輝いた活躍は記憶に新しい。浦和の課題を一気に解決してくれる期待感がある。

 さらにMF松尾佑介(ウェステルロー)が復帰し、FC東京からMF渡邊凌磨、名古屋グランパスからFW前田直輝、ローマ(イタリア)からMFオラ・ソルバッケンと攻撃に厚みを加えられる選手を多数獲得。MF柴戸海(FC町田ゼルビア)、MF平野佑一(セレッソ大阪)とふたりのボランチが抜けたところにスウェーデン代表のMFサミュエル・グスタフソン(ヘッケン/スウェーデン)を補強した。

 DFでは酒井宏樹のバックアッパーとしてDF石原広教(湘南ベルマーレ)を獲得したが、MF明本考浩とDF荻原拓也が抜けた左サイドは気になるところ。キャンプでは渡邊を試しているようだが、解決策となるのか注目したい。いずれにしてもペア・マティアス・ヘグモ新監督にとって悩ましいほど前線の選択肢があり、大幅な戦力アップは間違いない。

 次に挙げるのはFC町田ゼルビア。昨季は黒田剛監督が就任1年目にしてJ2優勝に導いた。今季はJ1仕様のチームへどんな積極補強がなされるのか注目されるなか、ここまでその期待に違わぬ補強をしている。

 前線にはFCソウルから韓国代表のFWナ・サンホ、清水から年代別韓国代表経験のあるFWオ・セフンを獲得。中盤には柏レイソルからMF仙頭啓矢、浦和からMF柴戸海を加え、DFには鹿島アントラーズから昌子源、コソボ代表のドレシェヴィッチ(ファティ・カラギュムリュク/トルコ)、GKにガンバ大阪から谷晃生が加入した。

 各セクションに満遍なく実力者を加え、それを黒田監督の優れたマネジメントでまとめあげれば、残留どころかトップハーフのチャンスもある陣容だろう。

 最後はヴィッセル神戸。昨季王者の今オフの補強はまさに堅実。MF齊藤未月が長期離脱し、大粼玲央がエミレーツ・クラブ(UAE)へ移籍した中盤に、アビスパ福岡から井手口陽介、V・ファーレン長崎から鍬先祐弥を獲得した。

 ケガ人が相次ぎ、層の薄さに苦しんだ守備陣には浦和からDF岩波拓也を7年ぶりに呼び戻した。また鹿島からDF広瀬陸斗の加入は、替えの利かないDF酒井高徳のバックアップ、あるいは酒井を左SBに回すこともでき、両SBに厚みを加えられる。

 川崎フロンターレから完全移籍で加入したFW宮代大聖は、絶対的なエースであるFW大迫勇也のバックアップとなれるか。あるいは昨季、パフォーマンスが一昨季ほど上がらなかったMF汰木康也の競争相手としても期待できる。

 ACLのある今季はより厚い選手層が求められるなか、足りないポジションを的確に補強したチャンピオンチームは、間違いなく戦力アップしている。