元プロ野球・池田駿はシーズン中ロッカーでも試験勉強 公認会計士合格後のキャリアを語る
文武両道の裏側 第15回
池田駿(プロ野球選手→公認会計士)後編(全2回)
巨人や楽天で投手としてプレーした元プロ野球選手で、難関国家資格の公認会計士試験に合格した池田駿さん(31歳)にインタビュー。後編では、試験へ向けた勉強とプロ野球の両立の話題から、アスリートのセカンドキャリアに対する思いにも言及した。
プロ野球選手のセカンドキャリアについて語った池田駿さん
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ーー公認会計士を目指そうと思った最初のきっかけは?
池田駿(以下同) プロ野球1年目のシーズンオフに、税金のことを担当してくれていた税理士のところにあいさつへ行ったんです。その方は、僕がプロ入り前にいたヤマハ野球部の先輩のお父さんなんですが、その時に税金に関して、ホワイトボードを使ってレクチャーをしてもらいました。そこで、税金っておもしろいなとぼんやり思ったのが最初でした。将来、税理士になって、プロ野球選手の確定申告ができたらいいなって思ったりして。
ーー税理士から公認会計士の試験へ変更した理由はありますか?
税理士になる受験資格を僕は満たしてなくて、満たしてから税理士試験に挑んだら何歳になるんだろう、と。ちょっと無理かなと思ったんです。そして、受験資格がなく、税理士登録もできる公認会計士の資格を知って「これだ!」と思いました。当時30歳近くなっていたので、できるだけ最短で目指せる選択肢を探したんです。まず2021年のキャンプの頃から、勉強を始めました。
ーープロ野球と同時進行で公認会計士の勉強もスタートさせたということですね?
公認会計士資格スクールで本格的に勉強する前に、入門体験的なオンライン講義から始めました。キャンプ中に簿記の勉強を進めていって、2021年4月からCPA会計学院の通信講座の本科生として勉強を続けました。
ーーキャンプ中はどんなペースで勉強していたんですか?
ペースを自分で決められるのが、オンラインのいいところです。具体的には、朝起きて練習へ行く前に1時間くらいやって、練習から帰ってきて1時間半とか2時間くらいやって、寝る前にもう1時間という感じで、大体1日4時間くらいですかね。
ーーキャンプ中はまだしも、シーズン中の野球と勉強の両立は大変ではないですか?
じつはプロ野球選手って、シーズン中は練習後や試合前に、思っている以上に自由な時間があるんです。みんな個人事業主なので、自由時間は好きなことをしていますが、みんなスマートフォンを見たり、ゲームをしたり思い思いに過ごしているんですよ。
僕はその時間を使って、選手ロッカーなどでテキストを読んで勉強していました。現役最後のほうは、2軍のクローザーをしていたので、登板までたくさん時間があったんです。だから試合がある日は、学校から出された問題を解いて、採点してもらって、試合前に「なんでここ違うんですか?」みたいな電話をして疑問を解消してから試合へ行くような流れで生活してたんです。
もしかしたら最終のシーズンは、野球をしながら勉強でリフレッシュして、勉強で疲れたら野球でリフレッシュしてというような循環がよかったのかもしれないですね。
ーー楽天の他の選手たちはどんな反応でしたか?
僕が選手ロッカーで勉強していると、みんな「何してるの?」って感じで聞いてきましたよ。「公認会計士を受けてみようかなと思っている」と話すと、「頑張って」と応援してくれる選手もいますが、一部の選手からは白い目で見られることもありました。「そんなことしないで野球で稼いだほうがいいんじゃない?」とか「野球をやっているんだから野球のことだけ考えろ!」と先輩から言われたこともあって。
でも、僕が現役時代から勉強していたからなのか、今の楽天では次のキャリアを考える選手が増えてきているみたいで、宅建の試験のために勉強をしている選手もいると聞いていますよ。
ーーそして、2021年のシーズンを最後に、現役引退をすることになります。どうしてこの年を区切りとしたのでしょうか?
プロ5年目でやめましたが、正直、最後の年は僕のなかで調子が一番よかったんです。投げているボールもスピードもコントロールも変化球も全部よくて。それでいても1軍に上がることが1回もなかったんです。これだけよくて、自分より成績を出していない選手たちが1軍に上がっている姿を見ていたら、なんか、自分に寄せられている期待というのはそれほどないのかなと思ってしまうところがあって。
その翌年も同じパフォーマンスを出せるかもわからないし、あったとしても野球人生はそんなに長いものじゃないと思いました。球団編成の方に「来季、契約あります?」と聞いたら「来季も戦力と考えている」と言っていただいたんすけど......「セカンドキャリアを考えています」という理由で、やめさせてもらうことにしました。
ーー公認会計士へと全精力を傾けていくことになると思いますが、引退後はどのような感じで勉強をしていたんですか?
2022年と2023年の2年間は、朝8時から正午まで勉強、昼食を食べて、子どもたちとちょっと遊んで、午後1時半から勉強を再開して夕方5時まで。それから子どもをお風呂に入れて、夕飯を食べて、子どもたちを寝かしつけたら、夜の9時くらいから11時、11時半くらいまでやっていました。1日10時間くらいでしたね。
ーー公認会計士の勉強で、一番大変だったのは?
数字は好きなので簿記とかは大丈夫だったんですが、企業法などの法律科目は苦戦しました。あと、公認会計士の独占業務で監査がありますが、その試験科目の監査論は、つかみどころのない分野だなと感じていて、なかなか点数が伸びなくて苦戦しました。
ーーいつくらいから合格が見えてきましたか?
公認会計士は、1次試験と2次試験があって、1次は毎年5月と12月にあります。僕は2022年12月に1次試験を受けたんですが、その前の全国模試で上位4〜5パーセントに入ってA判定が出ていたので、これならいけるかなと先が見えてきていました。そして、2023年8月の2次試験を受けて、11月に合格発表がありました。
ーー公認会計士というと、監査法人や税理士法人で働くイメージがありますが、池田さんは講師という選択をしました。どうしてですか?
現在、試験に向けてお世話になったCPA会計学院で講師をしています。僕自身、カリキュラムに沿って、しっかりとやってきたら合格できただけなんです。僕のように会計とか税務の知識がまったくなかった人間でもゼロから始めて公認会計士になれますし、前職が何であろうと、年齢も関係なく、誰でも公認会計士を目指せるということを伝えたいです。
ーーもともと池田さんは学校の先生になりたかったとのことで、ある種、つながってきますね。
そうですね。僕が教えるのは租税法の科目になりますが、プロ野球選手時代の税金の話もちょっと交えながらするとイメージしやすいのかなと思いますし、他の講師との差別化も図れるかなと思っています。
ーー将来的には、スポーツに関連する業務もしたいですか?
先々、スポーツ選手に対していろんなことができるような気はしています。それこそ、インボイス制度が始まったじゃないですか。そういうなかで、新人選手などに制度についてだとか、年俸1000万円だと税金はこういうふうになるとか、ちゃんと説明してあげたいと思っていますね。それと、選手のセカンドキャリアにも興味があります。
ーーセカンドキャリアですか?
どんなセカンドキャリアでもいいんですが、プロ野球選手が現役中に次のキャリアを考えられる機会をもっと増やしていきたいとは思っています。以前と比べたらちょっとはそういう機会があると思うんですけど、まだまだですね。
セカンドキャリアについて考えている選手は少ないと思いますし、そもそも野球界自体が現役時代から次のことを考えるというのにあんまりよく思わない感じがあって。プロ野球出身で初の公認会計士になった奥村武博さん(元阪神)もプロ野球選手にセカンドキャリアについていろいろと支援活動をされていて、先日お会いした時も問題意識をお聞きしました。僕も、少しでも貢献できるような活動をしていきたいと思っています。
ーー最後に受験や試験に向けて頑張っている読者に向けて、アドバイスをお願いできますか?
やっぱり、勉強をするのはけっこうしんどいと思うんですよ。でも、勉強する習慣をつけられれば苦じゃなくなります。僕は、最初は1時間でも2時間でも、とにかく休む日をつくらないで短時間でも机に向かう時間をつくる意識をしました。毎日机に向かうのが当たり前になると、つらさは和らぐので、習慣づけはすごく重要なのかなと思います。
終わり
前編<元巨人左腕・池田駿が難関国家試験に合格 野球は「戦士」公認会計士は「魔法使い」?>を読む
撮影協力/CPA会計学院
【プロフィール】
池田 駿 いけだ・しゅん
1992年、新潟県生まれ。新潟明訓高では投手として夏の甲子園8強進出し、日米親善高校野球の全日本選抜チームに選出される。その後、専修大を経て、2015年にヤマハ入社。2016年の社会人日本選手権で優勝。2016年ドラフト4位で巨人入り。1年目に33試合に登板。2020年途中に楽天へ移籍し、2021年シーズン後に現役引退。2023年、公認会計士試験に合格。現在は、公認会計士資格スクール「CPA会計学院」で講師を務めている。