フォロワー数160万人を誇り、「TikTok AwardsJapan 2022」では「LIVE Creator of the Year」にて最優秀賞を受賞されたことで話題となった夏絵ココさん。カメラを前に、まるで仮想現実を思わせる世界観で、ひとことも話さず配信をやりきる「無言配信」では、同時視聴者数5万人を記録したこともあるパイオニア的存在だ。2023年8月には楽曲「Virtual mod Real」をリリースし、アーティストデビューも果たした。その名が世界に轟く夏絵ココさんに、深掘りインタビュー!

 

夏絵ココ●なつえ・ここ…2021年10月31日に誕生し、TikTok LIVEを開始。2022年には言葉を発さず、身振り手振りだけでリアクションする「無言配信(思考実験)」が話題となり約2000人だったフォロワー数が半年で150万人となる大人気クリエイター。配信中はゲームに出てくるNPC(Non Player Character)のような動きのクオリティが高く国内外で注目されている。無言配信のパフォーマンスが終わるとコメントやギフティングへのお礼などを直接伝える時間を設け、「無言配信」と「会話」の両方を楽しめる構成となっている。また、2023年7月にはそのパフォーマンスが海外の配信者でもトレンドとなり、「NPC LIVE Streamer」の生みの親として大手海外メディアINSIDERでも取り上げられ、世界からも注目されるTikTokクリエイター。TicTok/公式HP/X(旧Twitter)/Instagram/YouTube

夏絵ココ 公式TikTok @natuecoco

 

【夏絵ココさんの撮り下ろし写真】

 

配信1分前まで、照明の色に悩み続ける

──夏絵さんといえば「無言配信」ですが、一番のこだわりはどんなところですか?

 

夏絵 まず照明です。照明の色を、その日のテーマに合わせて組んでいます。白系の衣装でかわいいメイクをしていたら、ピンク色で、クールな印象の日は紫や青、森にいそうな格好をしていたら緑、とか。見る人が一番目につくのは、私の姿と色だと思いますし、色の印象はキャラにダイレクトに反映されると思うので、すごく大事にしています。

 

──どれくらい機材があるんでしょうか。

 

夏絵 いろんなものを試しすぎて未使用機材もたくさんありますが、いまレギュラーで稼働しているのは4種類です。常に照明のトレンドをチェックしていて、かわいいライトがあったらすぐに買って、顔に当ててみたり、背後から当ててみたり、いろいろなパターンで試してみます。

 

──例えば、「今日はこの衣装でいこう」となると、1日がかりで考えたり?

 

夏絵 そうですね。1分前まで妥協したくなくて、ライブ配信30分前はもうカツカツです。頭の中で「これにしよう」と決めていざスマホに映すと、想定していた光と全く違ったりするので、納得がいかなくて。ギリギリまで粘って、ずっと照明をイジっています。妥協できない性格なんですよ。そこが不器用だなと、自分でも思います。

 

プライベートではお気に入りの森で撮影

──当初から、照明の大切さに気づいていたんですか?

 

夏絵 そうですね。私はもともとカメラが趣味なんです。一眼を片手にいろいろな場所に行ったり、人物を撮るために照明を組むのも好きで。そういうとき、キャラ物のコスプレだといつになく力が入るので、プライベートで撮影していても照明を大掛かりにしてしまいがちです。

 

──プライベートではどんな撮影をしていたんでしょうか。

 

夏絵 森に行ったりしていましたね。まずは、自分が撮りたい日差しが、きれいに差し込む森を探すんです。スタジオでも、十字の窓枠があって、顔に差す光が十字になっているところがタイプですね。

 

──光を妥協すると、写真にもちぐはぐさが表れたり?

 

夏絵 分かりやすく言うと「今日、盛れてない……!」となりますね。

 

──好きな森があるんでしょうか。

 

夏絵 鬱蒼と生い茂ったファンタジックな世界観で、乗馬もできる森があるんですよ。ざわざわとした、理想的な木々なんですよねえ。

 

──理想のファンタジー世界を常に頭の中にありそうです。

 

夏絵 頭の中には、いつも人以外のなにかがいます(笑)。エルフとか、人魚とか、妖精とか。そういった理想の姿があり、そこに向かって自分を作り上げていきたい、という感じです。

 

CLAMP作品のキャラに感銘を受け「やりたい!」

──今の夏絵さんの「猫耳にロリータファッション」にたどり着いたのも、頭の中を具現化した結果ですか?

 

夏絵 この子は、CLAMPさんの「ちょびっツ」というマンガの登場人物「ちぃ」がヒントです。ちぃは人型パソコンで、主人公とはぐれた際に変なスカウトに捕まってしまい、のぞき部屋に連れていかれてしまうシーンがありまして。そのときのちぃが、きょとんとした顔をしながら人間がやらないような行動に出て、でも外見は完璧な人間で……というそのコントラストがすごく頭に残っていて、「私もこれをやってみたい」と思ったのが、きっかけだと思います。私のほかのキャラクターも、そんなふうに自分の頭の中の「これ、やりたい!」を目指して作り込んでいます。

 

──表現方法として、VTuberという手段もあったかと思いますが、「自分でやる」ことに意義があるのですね。

 

夏絵 自分が一番自分自身をよりよく表現できることを知っているし、生身の体を使ったほうが、表現が多彩にできると思ったんですよね。VTuberの良さと生身の人間の良さはベクトルが全く違うと思いますが、私は生っぽさが好みだった、という感じです。

 

──生身だからこそ、どうしても納得できないコンディションの日もあるかと思いますが、どうしていますか?

 

夏絵 ダメなときはやらないと決めています。自分が納得いかないものをリスナーさんに見せることができないというか、そんなものを見せられてもイヤだと思うんです。

 

気づかぬうちに、NOまばたき

──妥協がないからこそ、ここまで作り込んだ世界を続けられるのだと思いますが、個人的にすごいと思うのは、夏絵さんのまばたきについてです。無言配信でキャラクターになりきるとき、ほとんどまばたきしていないですよね。

 

夏絵 ああ、たしかに。配信が始まるとモードに入るというか、あのしぐさをすると、自然と目を閉じることができなくなるんです。リスナーさんからも言われたことがあって、そのときに初めて気づいて「私、してないんだ!」と驚きましたね。

 

──もし自分が「はい、今から夏絵さんの無言配信をやってください」と言われたら、ずっと目まぐるしく考えると思うんですよ。「次にアレして、あの動きして、これやって……あああどうしよう!」と。でも、夏絵さんからはそういった水面下の足掻きが全く見えません。

 

夏絵 私は、ギフトをいただいたら声を出して反応していますが、このときのやりとりって、「イエーイ!」と来たから「イエーイ!」と返しているというか、考えるより先に呼応する感覚です。いろんな人とあいさつやハイタッチしている感じが近いかもしれません。ハイタッチって、考えてやるものではないですもんね。

 

──2023年4月には初の対面イベント「夏絵ココ展〜リアル思考実験〜」を開催し、1時間の無言パフォーマンスに挑戦しました。私も拝見しましたが、夏絵さんはお客さんと交流しながら猫のように自由気ままに動き続け、ライブ配信がそのまま現実にスライドしたような独特の緊張感でした。

 

夏絵 あれは台本もなく、1時間アドリブでやったんですが。

 

──え! 全部アドリブですか!?

 

夏絵 はい、普段は1時間座りっぱなしでライブ配信していますが、このときは1時間動き回ることができて、いつもより可動域が広くてむしろ楽でした。

 

アートを吸収し、動画に昇華

──逆に楽……。来ていらっしゃった方から、どんな感想が届きましたか?

 

夏絵 「新しすぎて、『これが夏絵ココだ!』と思った」とか、「現実の世界ではない場所に連れていかれて、夢のような感覚だった」とか、「忘れがたい、覚えていたい。けど、夢のようだったから、いつか記憶からなくなってしまうんだろうというのが、今からもうわかる」とか。すっごく厚みのあるレポートをいただき、ほんとうにうれしかったです。

 

──普段インプットをしていないと、なかなかできないパフォーマンスだと思います。感性はどんなふうに磨いていますか?

 

夏絵 美術館を巡ってアート作品に触れるのが大好きで、よく前情報なく観に行っています。

 

──最近、心を動かされた作品は?

 

夏絵 ポーラ美術館の企画展「部屋のみる夢ーボナールからティルマンス、現代の作家まで」で観た作品です。空間が隙なく出来上がっていて、その光景が美しすぎて。窓枠の影が絵画の横に重なるように照明が組まれていたり、木漏れ陽が差す壁の横に、木漏れ陽をモチーフにした作品があったりして。そういった絵画に、筆の通った跡を見つけると「この人は、この一瞬に美しさを見出して描いたんだな」と、作者の臨場感を感じることができて、没頭してしまいます。

 

人間だからこそ生じる日々の変化を、大切にしたい

──先ほど「思考実験」という単語が登場しましたが、夏絵さんが以前からずっと掲げているキーワードですよね。一体どういうことなんでしょうか。

 

夏絵 私がいて、リスナーさんがいて、それぞれがいろんなことを思い巡らせながら“思考”しますよね。例えば、私は衣装に合わせて毎回メイクを変えています。それは人間にしかできないことだし、私自身も一番楽しい工程で。

 

──AIやVTuberとの大きな違いの1つですね。

 

夏絵 そうですね。メイクの仕方や服装、髪形など、意図的に変えることもあればコンディションによって変化が生じることもある。リスナーさんがそんな毎日の少しずつの変化・変貌に気づき、そこに対話が生まれることに、思考実験の源があると思っています。

 

──かみくだくと、「それぞれが何をどう感じてもいいし、それを受けた夏絵さんも、何をどう感じてもいい」という、自由度の高いコミュニケーションの一貫という感じでしょうか。

 

夏絵 「太った」「痩せた」「メイクがいつもと違う」と、毎日異なる印象を持ち、その上で取るコミュニケーションに魅力を感じているし、それが真のコミュニケーションだと思うんです。それをすごく大切にしたいから、どんな声も受け止めるし、「なんでも言ってくれ」という姿勢で挑んでいます。

 

──だから、とにかくかわいく映るような加工一辺倒ではないのですね。

 

夏絵 かわいいと思われたいとか、考えていないですね。そりゃあ言われたらうれしいですが、「かわいいって言われたい!」という欲望はないんです。だって、人間なんだから当たり前のように毎日違いますもん。こうしてしゃべっている間だって、私の情報がアップデートされて見る目も変わるかもしれませんし、そうやって毎日毎日変わっていく人間って、美しいな、と思います。

 

「いじってくれてありがとう」を伝えたかった

──2023年5月、夏絵さんが話題になった出来事がありました。「爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル」(フジテレビ系)で、エハラマサヒロさんが夏絵さんのものまねをしたことで、審査員席の鈴木 福さんが「なんでこの人がバズってるのか分からない人ランキング、僕の中で1位」とコメントし、夏絵さんご自身もX(旧Twitter)で「うっす」と反応しましたよね。その後、TikTok Liveでもそのことに触れ、さらに話題になりました。

 

夏絵 そうなんですよ。鈴木 福さんが遊んでくれたので「私も一緒に遊びたい! 仲間に入れて!」という気持ちをTikTok Liveで伝えてみたんです。「いじってくれてありがとう!」の気持ちで。リスナーさんはその場でとても楽しんでくれました。

 

──猫耳がアイコンの夏絵さんですが、まさに猫のような好奇心を感じますね。

 

夏絵 そう、好奇心ですね。つついてくれたから、私もコミュニケーションを取りたくて。すべては思考実験なんです。

 

どんな声にも「存分に遊んでくれ!」と思える理由

──2022年12月に「TikTok Awards Japan 2022」で初めて公の場にご出演されたことは、思考実験の最たるものだったと思います。

 

夏絵 あのときはわくわくしましたね。「いつもの無言配信と同じように、しゃべらないほうが面白いだろうな」とか「絶対に、『加工と無加工が、全然違うじゃないか!』と言われるぞっ」とか考えて。一番大きな思考実験になると思ったので、「もう存分に遊んでくれ!」という状態で出ました。

 

──怖さはなかったですか?

 

夏絵 いろんなことを思われても「そう思ったことも含め、あなたなんだから、別によくない? 私はそんなあなたを見て楽しむね」と思っていました。そんなふうに怖さがないのは多分、共感性が薄いからかもしれません。例えば、お友達から「イヤなことがあって、髪を切ったんだよね」という連絡がきたとする。多分正解は「イヤなこと? 何があったの?」と聞くことだと思いますが、私は「髪切ったの? 写真見せて」と言ってしまうんです。それでお友達から「いや、違うから」と言われてしまうことが、これまで結構多くて。そんなふうに、共感性が備わっているみんなの中にいると、「私って全く違う生物なんだな」と感じて、人に対して猫ちゃんやワンちゃんの気持ちを理解するような考えが働くんです。

 

海外リスナーの「これは陰謀か!?」に大興奮

──一方で、そもそも言語や文化が全く違う、海外からの反応はいかがですか?

 

夏絵 最初に私のところに海外の方が流れ着いてきたときのこと、今でも覚えています。ずーっと「なんなんだこれは?」と言われていて、そんななか「これは、アメリカの政策の新しい陰謀か?」というコメントがついたんです。「えっ、陰謀!? なにそれ! めっちゃ面白いな!」と興奮しました。で、「分かった、私もそれに乗る!」となり、その日から数週間ほどは、もっと陰謀みを感じられるように、機械的に動いてみたり、AIっぽさを出してみたりして遊びました。

 

──リスナーの声で夏絵さんが変化していくのは、すてきなコミュニケーションですね。

 

夏絵 AIっぽさを出すと、案の定、陰謀を疑うようなコメントが増えて。「ロボットか? これはロボットなのか?」みたいな(笑)。さらに「男なのか? 女なのか!?」という論争も激しくなり、その辺は世界共通の反応でしたけど(笑)。

 

「好きになってもらいたい」欲を出した夏絵ココの、次の一手

──TikTokという限られたなかで、プラットフォームを生かしたクリエイティビティを発揮している夏絵さんですが、今後挑戦したいことを教えていただけますか?

 

夏絵 もっと広く共感していただける表現で、アーティスト活動をしていきたいですね。2023年8月にはアーティストデビュー曲「Virtual mod Real」をリリースしましたが、文字を書いてみたり、絵を描いてみたりもやってみたい。今はコアなリスナーさん以外の方には分かりずらい表現だと思うので、皆さんがひと目で分かるような“夏絵ココ”を展開してみたいと思っています。ちょっと欲が出てきちゃったんです。もっといろんな人に楽しんでもらいたいな、好きになってもらいたいな、って。

 

──「好きになってもらいたい」、とても清々しい素直なお気持ちですね。

 

夏絵 TikTokを始めたころは、「とにかくみんなで遊ぼう!」くらいのノリで、お互い猫ちゃんで、お互いじゃれ合っているような感覚でした。すべてが新鮮で、刺激的で。今は当時と比較すると、“夏絵ココ”をもっと落ち着いて見てくださるようになり、すると「この人、結局なんなんだろう?」という空気が感じられるようになりました。だから、歩み寄りたくなったんです。猫ちゃん同士ではなく、人間として。

 

──その変化もまた、思考実験の一部なんですね。

 

夏絵 そうですね。これからの自分の変化も、皆さんの変化も、とても楽しみです。

 

 

夏絵ココ 公式TikTok @natuecoco

 

撮影/佐賀章広 取材・文/有山千春 Buzz Tok NEWS公式HP https://buzz-tok.com/