青森山田高サッカー部・若松佑弥トレーナーインタビュー 後編

 第102回全国高校サッカー選手権大会で2年ぶり4回目の優勝を飾った青森山田(青森県)の、屈強でタフな身体は、いかにして鍛えられているのか。サッカー部OBで2015年8月からチームトレーナーを務めている若松佑弥さん(株式会社Akcompany、ワイズ・パーク青森センター店統括責任者)を直撃。

 インタビュー前編では、具体的な強化スケジュールやメニューを聞いたが、身体を強化するだけではなく、機能性を高めるトレーニングも施しているという。後編では、鍛えた身体が、いかにサッカーで活きるように工夫しているのかを聞いた。

前編「青森山田はどれくらい鍛えている? 強化スケジュールやメニューを聞いた」>>

【筋力トレーニングだけでフィジカルが培われているわけではない】

――筋力強化や身体作りの話をすると「身体が重くなるようでは、スピードが大事なサッカーには生きない」と否定的な方もいます。特に自重ではなく器具を使ったトレーニングを嫌う指導者は多いと思いますが。

 私も、ウエイトトレーニングが一番大事とは考えていません。きちんとAIアプリなどを用いて身体評価し、個別の補強トレーニングで弱点を強化することで、機能的に動けるようにするのが最大の目的です。


球際で強さを発揮する青森山田の選手たち photo by Kishiku Torao

 一方でウエイトトレーニングは、筋力強化においては効率的であるとも言われています。高校サッカーであれば、3年間という限られた時間のなかで、ストレッチや補強トレーニングに加えて、もう1段階上の強度をチームから求められている背景もあり、さまざまな取り組みを行なってきた結果が、少なからず成績面にも出てきているのが現状だと思います。

 ウエイトトレーニングを導入していますが、選手の身体が重くなって走れなくなったということはありません。日頃のサッカートレーニングにおいて、鍛えた体をしっかりと動かせるように反復することが大事ですし、毎日ウエイトトレーニングばかりやっているわけではないので、そこは多くの方がイメージされているものと違うのかなと思います。

 また、正木昌宣監督をはじめとするコーチングスタッフが指導しているサッカートレーニングで、常に高い強度が求められていることも影響しており、一概に、筋力トレーニングだけで彼らのフィジカルが培われているわけではないと思います。

【筋力強化によるパワーだけで相手を上回ろうとはしていない】

――190cmの長身DF小泉佳弦選手に「長身でも相手のドリブルに対応できるくらい動けるのは、なぜか」と話を聞いたら、若松さんの指導で重心移動など身体の動かし方を変えたからだと話していました。身体操作のアドバイスも行なっているのですか?

 彼の場合は、少し特殊です(笑)。中学時代は、八戸のウインズFCで活動していたのですが、青森山田のトレーナーがいると知って、中学2年の秋ごろに、うちの店舗まで片道1時間半をかけてパーソナルトレーニングに来ていた選手です。ご家族の熱心なサポートもありました。

 身体の成長が早く、当時から長身でしたが、動きが鈍い、硬いという部分を課題にしていました。評価してみると、片足姿勢のバランスなどが非常に悪く、ロングキックもきれいに蹴れない選手でした。そのため、まずは、体幹とお尻周りの筋肉を強化しました。1年くらいかけて身体の弱点を強化して、中学3年に入った頃からステップワークやボディコンタクトの際の身体の動かし方の助言をしました。

 彼の成長を見て、身体が大きくなる時期に、適切なトレーニングを行なうと、競技力は上がるものだと感じました。身体が成長して筋力が増える時期に、適切な負荷でトレーニングを行なうことが大切です。

 彼の場合は高校3年生になって、ようやく身体がうまく動かせるようになってきたかなという印象でしたが、ヘディングの高さと強さはストロングポイントとなり、対人動作も良くなったように思います。

――話を聞いていると、鍛えるだけでなく、動きやすさも追求しているのがわかりましたが「青森山田は身体をムキムキに鍛えて、勝とうとしている」と思う方もいるようです。その点はどう思いますか?

 チームで取り組んでいるのは、正木監督が求めるサッカーから逆算した「身体作り」であり、機能的に動ける身体作り、基礎筋力を向上させるウエイトトレーニングのふたつで成り立っているイメージです。

 繰り返しになりますが、筋力強化によるパワーだけで相手を上回ることを目的にはしていません。ぴっちりとしたユニフォームで体格も良く見えるので、「ウエイトをやって鍛え、それで勝とうとしている」というイメージで捉えられがちなのかなとは思います。

【メディカル連係体制の充実】

――現在は、OBである若松さんがトレーナーを務めていますが、若松さんが高校生の頃から、すでに青森山田の筋力強化は始まっていましたよね?

 私が高校生の頃は、まだ「体幹トレーニング」という言葉も知らない時代でしたが、フィールドテストやグラウンドフィジカルなどは、すでに行なっていました。その当時から、ワイズスポーツエンターテイメントの山本晃永さん(2004年に起業、2012年からマイクロジムのワイズ・パークを全国展開。サッカーでは世代別日本代表や東京ヴェルディ、ベカルタ仙台でも指導経験があるトレーニング・プロデューサー。2023年からFC町田ゼルビアでメディカルアドバイザーも務めている)が定期的に青森に来られて、指導を受けていました。

――ところで、若松さんは、どういう経緯でチームトレーナーに?

 元々、世代別日本代表の活動において、ドクターの小松尚先生(現・小松整形外科スポーツクリニック院長)と、トレーナーの山本さんが一緒にお仕事をされていたのですが、このふたりと深く親交があった青森山田高サッカー部の黒田剛前監督(現・FC町田ゼルビア監督)が紹介する形で、2016年に青森にワイズ・パークのフランチャイズ1号店を設けようという話になり、荒川栄社長(元・青森山田高男子新体操部監督)が株式会社AKcompanyを立ち上げ、開業に至りました。

 私は、東京のワイズ本社で約1年間勉強をさせていただいてから、青森店の管理者となりました。2015年の神戸でのインターハイからトレーナーとしてベンチに入らせていただいており、2024年は就任10年目となりますが、まだまだ未熟だと思っています。師匠である山本トレーナーが、小松先生のクリニックに月に2回ほどスポーツ外来のリハビリ指導で青森に来られた際や、大会期間中は現場などで助言をいただいており、大変感謝しています。

――ご自身が高校生の頃(2007〜2009年)との違いはありますか?

 チームが2016年に全国2冠という成績を収めた経験から、日本一を獲るために最低限取り組まなければならいことが明確となり、選手に求める基準が確立されてきていると思います。

 私が高校生の頃は、まだ全国リーグであるプレミアリーグ(2011年創設)がありませんでしたが、近年では、トップチームがプレミアリーグ、セカンドがプリンスリーグ東北、サードが青森県1部、フォースが青森県2部のリーグを戦っています。

 当時であれば、チーム全体でひとつの東北プリンスリーグを戦っており、負傷した選手は入れ替えて休ませることができていた印象でしたが、近年では、どの選手も自分が属するリーグ戦が週末に控えているので、ケガをしても早期復帰が求められています。

 その点、現在のメディカル連係体制は、日本では画期的なシステムと言えます。例えば、土・日の試合で負傷した選手は、月曜日には提携先の小松整形外科スポーツクリニックで診察してもらい、リハビリ方針を決定。火曜日からは、ワイズ・パークでリハビリを受けられます。チームドクター、トレーナー、コーチングスタッフが情報を共有して、復帰までのサポートをしています。

 ほかにも、負傷選手が適切な指導を受けられず無理をして状態が悪化するケースや、復帰に向けた筋力アップが不十分で復帰後すぐにケガを再発させてしまう事例が珍しくないと思います。

 その点においては、山本さんが作り上げたメソッドによって、リハビリプログラムや復帰までの段階性が明確化されていることから、チームに対しても復帰までのスケジュールを明確に伝えることができます。この辺りは、10年前に比べると、青森にもワイズ・パークがあることで、円滑に連係が図れていると実感しています。

【日本一という目標から逆算した強化】

――トレーナーの立場で見た、今季の選手の印象は?

 主将のDF山本虎は、春にヒザを痛めたままシーズンインしてしまったのですが、補強トレーニングや身体作りを頑張って、最後はケガを繰り返さなくなってチームをまとめてくれました。彼は、上半身とのバランスを取るためにお尻周りの筋力を強化しましたし、片足バランスなど機能面の強化も行ないました。

 GK鈴木将永は、2年生の時はケガをしていて控えでPKストッパーのような役割でしたが、自分の弱点から逃げずに努力を重ね、強靭な身体を作って幾度もチームを救ってくれました。古川大海GKコーチからは、セービングなど瞬発能力を繰り返し発揮できるようにする課題を指摘されていたので、瞬発系の個別トレーニングを実施しましたし、練習前には誰よりも早くグラウンドに出てストレッチや補強を行なう彼の姿がありました。

 やはり、みんながボールを蹴っている間、ケガをしたためにピッチ外でリハビリをしながら葛藤を抱えている様子や、それでも努力をしてきた姿を見ている分、彼らが復帰し、ピッチで活躍して優勝につながったストーリーは、胸を打たれるものがあります。勝った瞬間の表情を見た時は、この仕事をしていて良かったなと思いました。

――今後、どのようにチームをサポートしていきたいですか

 2023年シーズンは、夏までの前半戦で主力級の選手がケガで離脱するケースがありました。防ぐことができるケガもあったと思うので、反省点を踏まえて、障害予防の働きかけをより細かく実施していきたいと思います。

 現2年生(2024年度の3年生)は、これから主力としてピッチに立つ選手が多いので、オフシーズンのうちにフィジカル面で自信を持たせて、春の遠征に出て行けるようにしたいと考えています。


正木昌宣監督(右から2番目)を囲む高校サッカー選手権優勝時のコーチングスタッフたち。左から2番目が若松佑弥トレーナー photo by Kishiku Torao

 正木昌宣監督は、常日頃から「ケガが少なくピッチに立ち続けられる選手が、一番いい選手である」と言っています。どれだけ身体が強くてもケガが多い選手は、チームが助けてほしい時にいない状況になりかねず、戦力ダウンにつながってしまいます。

 日本一という目標から逆算し、選手、コーチングスタッフ、メディカルが三位一体となりながら、チームの強化や成長を続けていることが青森山田の強みだと思っています。

若松佑弥 
わかまつ・ゆうや/1991年生まれ、青森県青森市出身。青森山田高サッカー部では、椎名伸志(カターレ富山)が同期(2009年度の全国高校選手権で準優勝、1学年下にMF柴崎岳/鹿島アントラーズや、GK櫛引政敏/ザスパクサツ群馬がいた)。選手権はマネージャーでベンチ入り。帝京大学の医療技術学部柔道整復学科を卒業後、J2栃木SCアカデミーコーチを務めたのち、2015年にワイズアスリートサポートインコーポレイテッド(現・ワイズスポーツエンターテイメント)に転職、2016年に株式会社AKcompanyが運営するワイズ・パーク青森センター店の開業に携わり、現在は統括責任者を務める。2015年から青森山田高サッカー部のチームトレーナーとしてチームに関わっている。