青森山田高サッカー部・若松佑弥トレーナーインタビュー 前編

 第102回全国高校サッカー選手権大会で2年ぶり4回目の優勝を飾った青森山田(青森県)は、昨年12月の高円宮杯U−18プレミアリーグチャンピオンシップも制し、今シーズンは全国2冠を果たした。近年、安定して全国上位に君臨し、最強軍団として存在感を強めているチームには、圧倒的な身体の強さという特長がある。

 タフに戦い続け、球際で技術を発揮し続ける選手の土台となっている身体は、どのように鍛えられているのか。サッカー部OBで2015年8月からチームトレーナーを務めている若松佑弥さん(株式会社AKcompany、ワイズ・パーク青森センター店統括責任者)に話を聞いた。

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【毎年1〜3月に身体の土台作り】

――試合を見た人が「青森山田は、体つきや筋力が違う」と言うことが多いのですが、まず、筋力トレーニングをどのように行なっているか教えてください

 新チームは、4月のシーズンインに向けた1〜3月に、身体の土台作りをします。屋外は雪中サッカーやランニング、屋内は筋力トレーニングが中心です。


青森山田は先日の全国高校サッカー選手権大会で優勝 photo by Kishiku Torao

 2021年からは学校が敷地内に新しくトレーニングジムを設けてくださったので、スクワットラックやベンチプレスマシンなどのトレーニング機材が充実しました。

 先日の選手権で優勝した選手たちは、新チームが始動した2023年1月に最大値の測定からスタートしました。結果としては、スクワットは大体100〜140kg、ベンチプレスは50〜90kgでした。

 サッカー選手なので、いかに重い物を持ち上げるかを競うわけではないのですが、各選手の数値をシェアすることで、それぞれが自らの意思で身体を鍛えていくための動機づけとしています。

 最大値を測ったら大まかな全体メニューを組み立てますが、競技の特性に合った負荷の設定が必要です。サッカーの場合は、正しい可動域やフォームを意識した上で、瞬発的に素早く行なうことが大事だと考えます。

 シーズン中は、週に1、2回、ウエイトトレーニングを取り入れています。ベーシックなスクワット、ベンチプレス、デッドリフトなどのメニューを行なうのが、基本的な筋力強化の流れですが、選手によっては個別メニューを与え、弱点となる股関節周りや体幹部分の補強にも励んでもらいます。

 1〜3月は、月ごとに数値を測り、シーズン中は、後期に入る前に1回測定します。

【3年間で20〜30kgは持ち上げられる重さが向上】

――数値は、3年生になる直前のものですよね? 入学時は?

 新入生だと、スクワットが50〜80kg、ベンチプレスは40〜50kgしか上げられない選手もいます。入学時は細身でまったく上げられない選手もいましたが、大体、3年間で20〜30kgは持ち上げられる重さが向上します。

 個々の最大値で比べれば、筋力トレーニングを行なっている他チームの選手と比較しても、それほど大差はないかと思いますが、部員全員の平均値であれば、全国的に見て高いと評価されるかもしれません。

 新入生の段階では、まず、ケガをしないための補強や機能性向上メニューのレクチャーをします。どんなに良いトレーニングでもフォームが崩れていると、ケガをしてしまう可能性があるからです。

 最近はYouTube等の動画を見てマネしようとする選手もいますが、みんなが同じ体格や能力ではないので、個々に合ったメニューを行なうことの大切さも教えています。

――選手ごとに個別のアプローチもあるのでしょうか

 筑波大発のベンチャー企業「Sportip」が姿勢をAIによって分析するアプリを作っていたのですが、ワイズ本社のオリジナルメソッドの動きなどいくつかの項目を動画で評価し、各選手の弱点を見つられるシステムを共同開発しました。それを使い、各選手の改善箇所を見つけトレーニングに活かしています。

 例えば、キック動作ひとつをとっても、股関節周りや体幹の筋力、片足バランス、全身の力を生かしてボールを蹴る時に必要な可動域の向上など、一つひとつの弱い部分を強化します。そうすることで、最終的に組み合わせた時にパフォーマンスアップにつながります。


青森山田のウエイトトレーニングの様子と姿勢分析アプリの画面(写真は若松佑弥トレーナー提供)

 基礎筋力も大事ですが、動作を効率的でパワフルに行なえるようになることが重要です。オフシーズンは、チームとしての基礎筋力強化と、個別の弱点克服の2本がトレーニングの柱です。

 今季10番をつけたMF芝田玲は、精度の高いキックが武器ですが、蹴り方によって股関節に負担がかかり過ぎることもあったので、AIで評価して(キック動作の)機能を改善し、パフォーマンスが上がりました。

 また、弱点強化は、ケガ予防や再発防止にも役立っています。

【選手たちのトレーニングへの意識も高い】

――シーズン中はどのようにトレーニングしているのですか?

 大体、週末に試合があるので、翌日はリカバリーを入れていますが、そのなかでウエイトトレーニングを入れています。その翌日がオフになり、水曜日には次の試合に向けた立ち上げのグラウンドフィジカル、週末にもう一度補強やアジリティなど、試合に向けて個々に刺激を入れています。

 今季、正木昌宣監督からは、特に「初速の筋力発揮と動きの連続性」を求められていました。中盤のプレッシングの強度や連続した守備の追求、最終ラインに大柄な選手が多いですが、スピードや俊敏性の部分で能力の高い選手に負ける場面が多く見受けられたことが影響しています。

 水曜日のメニューについては、ジムではなく、グラウンドフィジカルを45分程度実施しています。対人トレーニングでは、アメフトのように手にボールを持ち、1対1や3対3を行ないました。ボールを足で扱わないのは、技術ミスによって、目的とする動きの連続性や運動強度などトレーニングの効率が落ちるからです。

 少人数にすると、休息時間が短くなるため必然的に心拍数は上がります。そのなかで、守備では相手に合わせて正しくステップワークを選択し、突破を図る攻撃側の選手に対してタイミングよく接触して進路を塞ぐ。攻撃では、爆発的なスプリントやカッティング(方向転換)動作で相手を置き去りにする。

 3対3になると、状況に応じたコミュニケーションも求められます。ダッシュ、ストップ、方向転換など、さまざまな要素がありますが、これらがうまい選手は、アジリティテスト(『ステップ50』と呼ばれるメニュー)をやっても速いです。逆に数値が悪い選手は、対人でステップの運びも悪いので、アジリティ強化メニューを個別に与えることもあります。

――青森山田の選手は、かなり高い意識を持って取り組んでいる印象があります。

 そうですね。私が勤務させていただいているワイズ・パーク青森センター店ができたのが、全国高校選手権で初優勝した2016年。そこから、フィジカル面の強さがチームカラーとして認知され始め、厳しい環境で成長しようと高い志を持った選手が入って来るようになったことも、取り組みへの意識が高い要因ではないでしょうか。練習前にグラウンドで補強トレーニングを行なっている選手もいます。

 また、データを出してアプローチすることで、選手も納得して取り組んでくれています。ただ、数値評価ばかりを求め、無理に重い物を上げようとして腰などを痛める可能性などもあるので、十分注意が必要です。

 毎日、一人ひとりのトレーニングを個別に対応することは難しいですが、練習や試合でケガをした選手が出た場合には、まず相談を受けて、適切な初期対応をしたり、ワイズ・パークで患部の評価やリハビリメニュー作成を迅速に行なうように心がけています。

【フィジカル能力を数値化している】

――先ほど姿勢評価アプリの話がありましたが、ほかにも測定しているものはありますか?

 5月と11月の年に2回、東京のワイズ本社のトレーナーが訪れてフィールドテストを実施しています。キック力、50m走、ハードル走、ステップワーク、20mシャトルランなどいくつかの項目を行ない、フィジカル能力を数値化しています。

 測定したデータは、チームごとや学年ごとにカテゴリー分けしてランキング化され、選手のモチベーション向上につなげています。例えば、キック力だと、利き足で40mくらいしか蹴れなかった子が、卒業するまでに+10〜20mくらいは蹴れるようになります。

 これは、単なる筋力強化の話ではなく、年齢的に身体が成長している部分もありますし、股関節の使い方や、上半身と連動させた効率の良い蹴り方を覚えると、全身のパワーをうまく伝えられるという部分が大きいです。

 このテストのデータは、高校1年から3年まで、また中学から青森山田に在籍している子は、さらに計6年間の蓄積データがあり、各選手がどのように変わっていったかがわかりやすいです。残念ながら、今季の選手については、コロナ禍で数年実施できないことが多かったので、ほとんどデータの話ができないのですが......。

――身体測定でサイズアップを確認するようなことは?

 見た目の変化を求めているわけではないので、サイズの測定はしていません。ただ、身体作りは、筋力トレーニングだけではなく、栄養・休息によるリカバリーが非常に重要だということは、常に選手が意識しています。

 例えば、コーチによる朝食の食トレを実施して、スポーツ選手としての積極的なエネルギー摂取を促すなどの働きかけを続けた結果として、効率の良い体重増、あるいは疲労性のケガの減少につながっていると感じています。

 2023シーズンからは、より具体的に数値で評価するため、BMI(Body Mass Index=体重を身長の二乗で割って算出する体格指数)の目標値を設定しました。2023年末には、トップチームの平均数値としてGK 23.5、フィールドプレーヤー23.0という数値に到達しており、今後もチームが求める「身体作り」に対する、ひとつの指標となると考えています。

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若松佑弥 
わかまつ・ゆうや/1991年生まれ、青森県青森市出身。青森山田高サッカー部では、椎名伸志(カターレ富山)が同期(2009年度の全国高校選手権で準優勝、1学年下にMF柴崎岳/鹿島アントラーズや、GK櫛引政敏/ザスパクサツ群馬がいた)。選手権はマネージャーでベンチ入り。帝京大学の医療技術学部柔道整復学科を卒業後、J2栃木SCアカデミーコーチを務めたのち、2015年にワイズアスリートサポートインコーポレイテッド(現・ワイズスポーツエンターテイメント)に転職、2016年に株式会社AKcompanyが運営するワイズ・パーク青森センター店の開業に携わり、現在は統括責任者を務める。2015年から青森山田高サッカー部のチームトレーナーとしてチームに関わっている。