日本代表のモヤモヤが晴れない 圧倒的ボール支配も前半枠内シュート1本の要因は
サッカー日本代表のアジアカップ第3戦は、インドネシアに3−1で勝利しグループ2位で決勝トーナメント進出を決めた。大会に入って思うように攻撃が完結しないチームだが、その要因やこの先の課題はどこにあるのか。
【ターンオーバー採用も遠藤航は3戦フル出場】3戦目のインドネシア戦に順当勝ちして、グループ2位通過を決めた森保ジャパン。インドネシアは戦前からグループDの最弱と目されていただけに、日本が3−1のスコアで勝利したこと自体に驚きはない。
サッカー日本代表はインドネシアに勝利し、アジアカップの決勝トーナメントに進出 photo by Getty Images
むしろ、終了間際に相手の唯一の武器と見られていたロングスローから失点したのが、悪い意味での驚きだった。
この試合で最も注目していたのは、森保一監督がどのようなスタメンを編成するかだった。2戦目のイラクに勝っていれば、予定どおり3戦目はターンオーバーを採用すると予想されたが、日本はイラクに足元をすくわれた。
それにより、次なる事故を防ぐために予定を変更して大幅なスタメンの入れ替えを諦めるようだと、優勝は極めて困難になる。それは、指揮官が目の前の戦いだけに集中してしまい、先を見据える余裕がなくなったことを意味する。
そんな不安もよぎるなか、しかし森保監督は当初の予定を変えずにターンオーバーを採用して、イラク戦からスタメン8人を入れ替えた。2試合連続でスタメン出場したフィールドプレーヤーは遠藤航と久保建英だけ。
後半にはこれまで出場がなかった渡辺剛も起用したことで、まだ今大会のピッチに立っていないフィールドプレーヤーは負傷の癒えない三笘薫のみとなった。
イラク戦は想定外の敗戦を喫したが、指揮官のなかで優勝という目標はまだ揺らいでいない。最低限の話ではあるが、それがわかったことは、グループ3戦を終えた段階で得られた数少ない好材料と言っていいだろう。
もちろん、2位通過になったため、ラウンド16から決勝戦までの試合日程が、中2日、中3日、中2日と過密になったのは誤算だ。また、イラクに勝っていれば遠藤が3戦フル出場することもなかったかもしれない。
いずれにしても、これから始まる決勝トーナメントで勝ち続けるとしても、最後に遠藤が疲弊した東京五輪の二の舞は避けたいところだ。
【日本がデータで大きく上回る】その一方で、試合の中身に目を向けた場合、今回のインドネシア戦で今後の戦いに向けたポジティブな材料を得られたかと言えば、残念ながらイエスとは言い難い。決勝トーナメント以降の戦いを考えると、参考外の試合だったというのが実際のところだろう。
まず、大幅にスタメンを入れ替えた日本に対しても、インドネシアとの間にある実力差があまりにも大きかったことがひとつ。ボール支配率は71.3%対28.7%と日本が圧倒し、シュート数も14本対3本で日本が大きく上回った。
とりわけこの試合の前半における日本のボール支配率は76.5%対23.5%で、シュート数は7本対0本だったことが、両チームの力量の差を如実に表わしていた。
試合展開も日本にとって理想的だった。試合開始2分に上田綺世が相手ペナルティーエリア内で4番(ジョルディ・アマト)にホールディングされながら倒されると、それがVAR判定によってPKに。上田がそのPKを決め、前半6分という時間帯で幸先よく先制することに成功したからだ。
これにより、引いて守る格下相手にゴールをこじ開けられず、時間の経過とともに焦りが出始めるという最悪の展開にはならなかった。そのうえ、後半から前に出ざるを得なくなったインドネシアに対し、日本は51分に得意の速攻から追加点を決め、88分にもオウンゴールでダメ押し。
最後に失点したのは大きな反省点だが、試合を通してみれば、日本が危なげない戦いで勝ち点3を積み上げたと言える。
これから始まる決勝トーナメントの戦いにおいて、おそらくインドネシア戦のような実力差のある相手と対戦することはない。日本が一方的に敵陣でボールを支配するような試合展開にもならないだろう。そういう意味でも、スタメンの構成も含めて、今回は例外的な試合だったと捉えておくべきだ。
とはいえ、そんな試合のなかでポジティブな部分も見て取れた。それは、今回のインドネシアと同じ5−4−1の布陣を採用していた初戦のベトナムとの試合で見られた問題点が、この試合では前半から修正されていたことだ。
【幅をとった攻撃陣形で中央からの攻めが増える】そのベトナム戦では、4−2−3−1の日本はボール保持時に4−2−4の陣形になって相手ゴールを攻略しようとしたため、中央への縦パスがほとんど使えないという現象が起きた。しかしこのインドネシア戦の日本は、遠藤をワンボランチにした4−3−3(4−1−4−1)を採用。試合開始からベトナム戦の後半に見せた5バックの前に前線3人とインサイドハーフふたりの計5人が立つことで、中央ルートのパスコースを作り出していた。
特に右ウイングの堂安律、左ウイングの中村敬斗が、それぞれ大外のレーンに立ってしっかりと幅をとっていたのが目についた。しかも右サイドでは、堂安が内に入ってプレーする場合、必ずインサイドハーフの久保、もしくは右サイドバックの毎熊晟矢がポジションチェンジして幅をとる役割を担っていた。
そこからは、5バックの相手に対して両サイドの幅をとって攻めるという意識がチーム内に浸透していることがうかがえた。
両サイドで幅をとれば、相手の5バックは広がる。それにより前半から中央ルートのパスコースを確保した日本は、くさびの縦パスを5本記録したほか、DFラインのギャップを狙ったスルーパスや浮き球のパスを狙う中央攻撃が頻繁に見られた。
その典型例は前半23分。毎熊が右サイド大外の高い位置でボールを奪うと、近くにいた堂安が回収し、内側の遠藤にパス。すかさず遠藤が斜めのくさびを上田に入れると、ダイレクトで落としたボールを前向きの久保がエリア内に進入した遠藤に預け、遠藤のリターンを久保が右足でシュートしたシーンだ。ゴールとはならなかったものの、連動性のある中央攻撃だった。
また、中村のポストに直撃した35分のシュートシーンも、ペナルティーエリアの幅の中で繰り広げた連続攻撃から生まれたシーンだ。
【決勝トーナメントでカウンターを決められるか】もっとも、中央に攻撃が偏りすぎたのも事実。これだけ敵陣でボールを保持しながら、サイドからのクロスが6本しかなかったのがその証左のひとつで、中央攻撃とサイド攻撃のバランスという点においては課題を残したとも言える。前半に追加点を決められず、枠内シュートが1本しかなかったことと、無関係ではないだろう。
後半は、前半とは異なる試合展開になった。インドネシアが自陣でブロックを敷いて守るのではなく、日本のDFラインにプレッシャーをかけてきたからだ。後半開始直後、日本はインドネシアの圧力に手を焼いた部分もあったが、しかしこのシチュエーションで強さを発揮するのが現在の森保ジャパンの特徴だ。
51分、冨安が自陣で秀逸なダイレクトの縦パスを堂安に供給すると、鋭いカウンター攻撃を発動。その流れから、堂安が左から入れたクロスをフリーの上田がネットを揺らし、2−0とした。
もちろん、決勝トーナメントで対戦する相手のレベルになれば、カウンターからゴールを奪うのも簡単ではないだろう。
しかしながら、日本が先制をすれば、ビハインドを背負った相手は必ずどこかの時間帯で前に出てくる。その時こそ森保ジャパンの強みが発揮できる戦況になるのを、改めて確認できたこともこの試合で手にした好材料と言えるのかもしれない。
翌25日の試合結果により、韓国との対戦の可能性もあったラウンド16の相手は、韓国が終了間際にマレーシアに追いつかれたため、ヨルダンに勝ったバーレーンに決まった。
果たして、これが優勝を目指す森保ジャパンの追い風になるのかどうか。ラウンド16の戦いも、目が離せそうにない。