「戦力的な比較をすれば、勝利そのものは驚くに値しない。しかし、日本人選手のよさである『(スピード+技術)×コンビネーション』を出して勝った点は祝福すべきだろう」

 スペイン・バスクを代表する指導者、ミケル・エチャリはそう言って、アジアカップのグループリーグで日本がインドネシアを3−1で下した試合を振り返っている。

 エチャリは過去、日本代表に対して随所に適切な意見を述べてきた。2010年南アフリカW杯ではアンカーシステム採用を訴え、2014年ブラジルW杯では「過信から前に人をかけすぎている」と警鐘を鳴らし、2018年ロシアW杯ではベスト16進出を予想。そして2022年カタールW杯では「"いい守りがいい攻めを作る"は有効打になる」と指摘していた。

 そんな名伯楽は、グループリーグ最後の試合をどう分析したのか?


決勝トーナメント1回戦の相手はバーレーンに決まった日本代表 MB Media/AFLO

「立ち上がり、日本は探り合いの中から上田綺世がパスを呼び込んで、エリア内でキープしながら抜け出し、腰を抱えられて倒されている。これがVARの末にPKの判定になった。それを上田が豪快に蹴り込んで先制に成功し、日本は余裕をもって試合に入ることができた。

 日本は4−2−3−1というよりは4−1−4−1に近い布陣で、5バックで固めたインドネシアを攻め立てている。前半、インドネシアの攻撃はほとんど受けていない。サイドは完全に制圧しながら、ダイナミックで素早い連係もあった。

 攻撃の中心になったのは、トップ下で自在に動いた久保建英だろう。右サイドバック、毎熊晟矢のパスを受け、リターンしたワンツーはハイレベルだった。前半最後の中村敬斗のシュートが決まっていたら、大会ベストゴールにノミネートされてもおかしくなかっただろう。連係から左サイドを駆け抜け、ファーの毎熊に戻し、折り返しを上田が狙ったシーンも見事だった(ゴールは決まっていない)。

 一方、活躍した久保は同じようにチームの不具合の象徴にもなっていた。

 とにかくボールロストの回数が多すぎた。さまざまな条件が重なっているのだろう。チームとしてショートパスを多用しすぎていたし、前がかりになりすぎて、ポジション的優位を保てず、相手に間合いを詰められやすくなっていた。結果的にボールを出しにくく、相手も的を絞りやすく、それがボールロストに結びついていたのだ。

【改善されなかった距離感の悪さ】

 これは久保だけの問題ではない。遠藤航のような選手さえ、危険なボールの失い方があった。他の選手も、たとえ自らはボールを失っていなくても、誰かに預けるしかない、という状況を作り出されていた。コンビネーションは日本の武器であることは間違いないが、そこにこだわることで単調になっていたのだ」

 エチャリはそう言って、日本のよさと悪さを表裏一体で説明している。

「後半、インドネシアが戦術的な改善を見せる。ポジション的優位を挽回し、スペースを有利に使えるようになった。結果、プレスがはまるようになって、セカンドボールも拾えるようになった。

 だが、日本は個人の力量差を見せつける。

 52分、ボールの応酬で劣勢に入りかけていた日本だが、冨安健洋がすばらしいカットから中盤の堂安律へフィード。堂安は爆発的なスピードで持ち上がり、カウンターに入る。左サイドの中村に一度預けた後、外側を走ってパスを受けた堂安は、ファーポストの上田へパスを逃し込み、貴重な2点目が決まった。

 その後も日本は、久保、中村、堂安、上田がいい連係を見せていた。遠藤からのパスで、久保が左サイドを駆け抜けカウンターを浴びせるような形もあった。また、左右のサイドバックも悪くなかったと言えるが......。

 チームとしては最後まで"ばらつき"が見えた。距離感が悪いことで、隙を作ってしまい、試合終了まで相手の心は折れなかった。後半途中からは交代選手を重ねたことで(今後のスケジュールを考えてのことだろうが)、いたずらに形勢を悪くしていた。たとえば交代出場の南野拓実は果敢に球際を戦い、伊東純也は決定的な3点目を演出したが、どれも単発だった。センターバックの交代では混乱が起きていた。

 そして、終了間際の失点は反省材料にすべきだろう。

 GK鈴木彩艶はグループリーグを通じ、とても不安定だった。この日は前半にすばらしい反応を見せ、クロスのキャッチングからすばらしいフィードも見られた。しかし、最後の(ニアサイドほぼ正面の)シュートを止められないと、トップレベルでプレーするのは厳しい」

 エチャリはそう言って、最後に決勝トーナメントでの戦いに向けた提言をしている。

「ひとつだけ提言するなら、遠藤はもう少し背後を意識してプレーすべきだろう。5人のアタッカーにサイドバックまで攻撃に加わり、攻守のバランスが悪くなっている。その結果、今はセンターバックがやや自信を失っているように映る。一方で攻撃の選手たちには過信が見え、そこで渋滞を起こし、精度を落とす結果にもつながっている。

 自信を取り戻し、過信を捨てることが、欧州でドイツ、トルコを撃破したような本来のチームに戻るきっかけになるはずだ」