フォルティウス「スペシャル対談」
近江谷杏菜&小野寺佳歩(3)

今年も激戦が予想されるカーリング日本選手権(1月28日〜2月4日/北海道札幌市・どうぎんカーリングスタジアム)。なかでも注目は、今季大きな"変化"が見られたフォルティウス。そこで今回、チームの中心選手である近江谷杏菜と小野寺佳歩に、大会に向けての意気込みを聞いた――。

◆(1)カーリング界の「名コンビ」はこうして生まれた>>

◆(2)日本のカーリング界は成長しているのか>>


フォルティウスの近江谷杏菜。photo by Fujimaki Goh


フォルティウスの小野寺佳歩。photo by Fujimaki Goh

――対談(2)の最後に話が出ましたが、フォルティウスは今季、クラウドファンディングを実施。今や、あらゆるスポーツの現場でも一般的な手段となっていますが、目標金額の770万円を大きく上回る1095万円の資金が集まったことが話題になりました。

小野寺 まずは支援者のみなさんに本当に感謝です。ありがとうございます。

近江谷 苦しい時、助けを求めた時に、手を差し伸べてくれる人がこんなにもいてくれたことにびっくりしたし、とにかくうれしかったですね。

小野寺 正直、誰も賛同してくれなかったらどうしよう......という不安もありました。

近江谷 もともと周りには応援してくれていた人はたくさんいたんですけど、クラウドファンディングをしたことで、それが見えるようになったというか。「この人も、あの人も......」と顔がどんどん浮かんできて、「この方々のためにも頑張りたい。一緒に喜びたい」と、自分たちも責任感や覚悟を新たにする機会にもなってくれました。

小野寺 強化費、活動費はもちろんなんですが、みなさんからいただいたメッセージが本当に温かくて。こんなにもファンに恵まれていたんだな、と幸せな気持ちになりました。

近江谷 なかでも「フォルティウスの試合を見て、カーリングの面白さを知りました」というメッセージがあって。誰かのカーリングの一歩目に自分たちの存在があったのだとしたら、こんなにうれしいことはありません。

――さて、そうした多くのファンの期待に応える日本選手権がいよいよ開幕します。が、その前に年末に飛び込んできた吉報について聞かせてください。吉村紗也香選手が第一子をご出産。息子さんだそうですが、もうお会いになりましたか。

近江谷 年が明けてから、カーリングホールに連れてきてくれました。

小野寺 目力がさや(吉村)にそっくりで可愛かった〜。

近江谷 目がパッチリしていて、さやと同じだった。小さな口もさやっぽい。

――吉村選手もお変わりなかったですか。

近江谷 妊娠から出産まで初めてのことだらけだったと思いますが、いつもどおりの落ちついたさやでした。カーリングでいろいろと経験してきただけあって、肝が据わっているのかな。

小野寺 さやもいつもと変わらずにいて、安心しました。LINEでも頻繁にやり取りしていますし、オンラインのミーティングにも出てくれていたので、久しぶりに会った気はしなかったんですけど。

――少し気の早い話ですが、アイス復帰はいつ頃とか、考えているのでしょうか。

近江谷 そこまで詳しい話はしていませんが、予定どおり、今季はお休みすることになると思います。

 選手としてはシーズン単位のブランクになってしまいますから、不安や葛藤もあったはずですが、それでも子どもを産んで育てながら世界のトップカーラーをまた目指す、という決断を彼女はした。そこには、相当な覚悟があってのことだと思います。 

 でも、その選択ができるのが、彼女の逞しさ。その逞しさを持ってまた、氷上に戻ってきてくれる日が楽しみです。

小野寺 私も同じ思いです。子育てとカーリングの両立は大変かもしれませんが、チームには(船山)弓枝ちゃんという偉大な先輩ママカーラーがいるので、みんなで協力しながら、チームの成長とともに"さやジュニア"がすくすくと育ってくれるといいなと思います。

――吉村選手の不在は寂しいかと思いますが、日本選手権では非常に心強い"援軍"が続々と札幌に集うと聞いています。まずは、侍ジャパンのヘッドコーチとして日本のWBC優勝に貢献した白井一幸コーチが、メンタル・チームビルディングコーチとしてフォルティウスに戻ってこられた。

小野寺 心強いですね。白井さんと話をしていると、自然と目指すべきところを明確に示してくれるというか。「こういうふうな方向性でやったらいいよ」と目標をシンプルに言葉にしてくれるので、モチベーションが上がります。

近江谷 優勝した2021年大会の時の、チームとしての強い気持ちが呼び起こされて、メンタル的にいい状態で大会に入っていけそうです。

――そして、何と言ってもカーリング界の「KING」ことニクラス・エディン(※)をコーチとして招聘したことは、大きな話題となりました。差し支えのない範囲でその経緯を教えてください。
※スウェーデン代表のスキップ。五輪は4大会出場。2022年金メダル、2018年銀メダル、2014年銅メダル。世界選手権6回優勝。

近江谷 コナー(・ネゴヴァン)コーチが今季は指揮できないことの経緯を(対談〈2〉で)説明してもらいましたが、いつもチームを見てくれている弓枝ちゃんに加え、外からの視点を増やしたいという話はチームのなかでずっとあって。そんななか、昨年のカナダ選手権でエディンが自身のキャリアでも初のコーチを務めていたんですよ。

小野寺 コーンウォールだっけ。カナダ遠征の時に、杏菜ちゃんが話をしたよね?

近江谷 そうそう。その時はそこまで具体的な話はしなかったんですけど、「今年もどこかのチームのコーチをするの?」って聞いたら、「決まってないけど、チャンスがあればやりたいね」という感じだったので、その際にチームの現状と意図を話して。その後、スケジュールと具体的な条件を詰めて、という流れでした。

――(昨年暮れの)12月の軽井沢国際で選手として来日していましたが、その時にはもう決まっていたのですか。

小野寺 正式には決まっていなかったかな。でも、私たちのチームに興味は持ってくれて。試合を見てくれていました。

――エディンコーチからは、どういったことを学びたいですか。

小野寺 アイスのなかでは、やっぱり戦術面のアドバイスですね。特にアングルや石の動かし方を世界で一番知っている選手なので、そういったところは吸収したいと思っています。

 同時に、アイス外でも戦術、技術、メンタルなど、すべてにおいて勝つために取り組んでいるスペシャリストなので、大切な大会前の過ごし方についても聞いてみたいです。

近江谷(エディンコーチは)カーリング選手として超一流なのはもちろんですが、優しいし、落ちついた話し方をしてくれる人。私は、佳歩が言っている石の動かし方に加えて、世界一を獲りにいくノウハウやチャンピオンシップに挑むメンタリティの部分で、学べることが多いんじゃないかなと考えています。

――日本選手権がまもなく開幕します。最大のライバルはやはり、3連覇を狙うロコ・ソラーレになるのでしょうか。おふたりから見た、彼女たちの強さを教えてください。

近江谷 チームとして、大きなエナジーを持っているのは強みですよね。調子がよくても、悪くても"勝つ道"を見出せるのは、経験によるものだと思います。

小野寺 私もそう思います。あのメンバーで長く続けていることでの経験値を持っていて、それぞれのことを熟知しているからこそ、コミュニケーションが密にとれて、アイスへの対応力も持っています。

――最後に、大会へ向けての意気込みをお願いします。

近江谷 こうして振り返ってみると、どうなるのかわからないまま始まったシーズンでしたが、本当にいろいろなことがあって、多くの人に支えられた時間でもありました。その分、手応えを感じているシーズンでもあるので、私たちらしいカーリングができれば、いい結果になると信じています。

小野寺 ホームである札幌での大会ですので、職場の人や友人なども見に来てくれると思います。応援の力を借りながら、見ても、やっても楽しい試合ができればと。勝ちきって、前に進みたいですね。自信を持って、大会に向かう準備はできています。

(おわり)


photo by Fujimaki Goh

近江谷杏菜(おおみや・あんな)
1989年10月12日生まれ。北海道北見市出身。10歳でカーリングを始め、ジュニア時代から各大会で好成績を収める。2008年1月、チーム青森の正式な一員となって20歳の時に2010年バンクーバー五輪に出場。1998年長野五輪の日本代表だった父・好幸さんとの父娘での五輪出場を決めた。2014年から北海道銀行フォルティウス(当時)に加入。小野寺佳歩らとともに2度の日本選手権制覇(2015年、2021年)に貢献した。趣味は「韓国ドラマの流し見。今見ているのは『ペントハウス』です」。札幌のどうぎんカーリングスタジアム付近のお気に入りスポットは「もちろん『いわい珈琲』」。加茂川啓明電機勤務。Instagramはこちら>>


photo by Fujimaki Goh

小野寺佳歩(おのでら・かほ)
1991年11月11日生まれ。北海道北見市出身。13歳でカーリングを始め、常呂中時代には現ロコ・ソラーレの吉田知那美や鈴木夕湖らとともに各大会で活躍。2006年日本選手権では3位入賞を果たした。一方で、七種競技などでインターハイ出場を果たすなど陸上選手としても奮闘。中京大学体育学部へ進学後は陸上とカーリングを両立し、2011年に新チームとして発足した北海道銀行フォルティウス入り。2014年ソチ五輪に出場した。趣味は筋トレで「最近はお尻からハム(ストリング)にかけて鍛えています」。札幌のどうぎんカーリングスタジアム付近のお気に入りスポットは「『ひだまり 月寒店』です。チームでよくランチします」。北海道電気保安協会勤務。Instagramはこちら>>

◆撮影協力:いわい珈琲