フォルティウス「スペシャル対談」
近江谷杏菜&小野寺佳歩(2)

まもなく開幕するカーリング日本選手権(1月28日〜2月4日/北海道札幌市・どうぎんカーリングスタジアム)。今回、注目チームのひとつであるフォルティウスの中心選手である近江谷杏菜と小野寺佳歩に、チームの現状と大会へ向けての抱負などを聞いた――。

◆(1)カーリング界の「名コンビ」はこうして生まれた>>


フォルティウスの面々。左から船山弓枝コーチ、小林未奈、近江谷杏菜、小野寺佳歩、小谷優奈。photo by Fujimaki Goh

――2014−2015シーズンから近江谷杏菜選手が北海道銀行フォルティウス(現フォルティウス)に加入。そこから、小野寺佳歩選手との"名コンビ"が築かれていくわけですが、同シーズンには地元・札幌で開催された2015年世界選手権に出場しました。対談(1)で、小野寺選手が「どうしても世界の舞台で1勝したかった」と話してくれた大会です。

小野寺佳歩(以下、小野寺)確か、初戦は負けてしまったんですけど、2戦目のスウェーデン戦でしっかり勝つことができて、すごく安心しました。チームのためにプレーして勝つ、という当たり前のことができて幸せでしたし、オリンピックで勝利できなかった分、うれしさは倍増でした。

――近江谷選手にとっては、チーム青森時代に出場した2010年大会以来、5年ぶりの世界選手権の舞台でした。

近江谷杏菜(以下、近江谷)チームとしての目標は、勝ち越してトップハーフ(に入ること)だった思います。それが達成できた(6勝5敗で6位)のはポジティブなことでしたが、この頃は「もっとできるのに」的な欲が出てきていたような気がします。

――その後、世界選手権では翌年の2016年大会でロコ・ソラーレが銀メダルを獲得。オリンピックでも2018年平昌大会(銅メダル)、2022年北京大会(銀メダル)でメダルを手にしました。近江谷選手が出場した2010年バンクーバー大会、小野寺選手が出場した2014年ソチ大会から、日本のレベルは向上しているのでしょうか。おふたりの個々の技術も含めて、その実感はありますか。

小野寺 ワールドカーリングツアーで優勝する日本のチームが増えましたし、(その上位大会である)グランドスラムに複数の日本のチームが出場できたり、日本のカーリング全体が強くなっている実感はあります。自分自身も確実にステップアップしている感覚はあります。

近江谷 あと(以前に比べて)カーリングというスポーツも、だいぶ多くの人に知ってもらえていると思います。バンクーバー五輪の時は、記者の方に「あなたは投げる人ですか?」なんて聞かれたりもしましたけど、今は取材してくれるメディアの方々も、試合を見に来てくれるファンのみなさんも(カーリングに)詳しい人が増えました。

――今後、カーリングがさらに発展していくためには、どういったことが必要だと思いますか。

近江谷 基本的には氷さえあればできるスポーツなので、全国どこでもできるようになってほしいです。

――たとえば、フォルティウスのトップスポンサーであり、近江谷選手の所属先でもある加茂川啓明電機は大阪府に拠点がある会社です。そういった関係を含めて、カーリングの西日本への広がりを期待したいですね。

近江谷(加茂川啓明電機の)社長はスポーツ全般大好きな方で、とても熱心に応援してくれています。それは、とてもありがたいことです。

 また、西日本への広がりという意味では現在、大阪駅の北側にある『グランフロント大阪 うめきた広場』内に、特設リンク『つるんつるん』が開設されていて、そこでカーリング体験ができるんです。ぜひ足を運んでいただいて、関西の人にも興味を持ってもらえたらいいな、と思っています。

 道のりは長いかもしれませんけど、47都道府県でカーリングができるようになるのが、ひとつの夢ですね。

――小野寺選手はいかがですか。

小野寺 カナダなどでは、世界選手権、カナダ選手権、グランドスラムなどがアリーナアイスで開催されて、(場内には)びっしりとお客さんが入っています。そんなふうに、たくさんの人に直接試合を見てもらえる機会があることは、選手として単純にうれしいですし、普及という面でもそういう機会があることは大切なことだと思います。

――日本でも横浜市と連携して、アリーナ開催の方法を模索していると聞いています。

近江谷 そうですよね。カーリングは競技として知られてきて、北海道ツアーや日本選手権でも来場者は増えました。

 じゃあそれが、アリーナで開催された時、はたしてどうなのか。アリーナの5000人の客席を埋められるのか。2000人(の会場)なら興行として成立するのか。日本のカーリング界として、それを実施してしっかりと計ったことがないので、そこはすごく知りたいです。


photo by Fujimaki Goh

――フォルティウスの話も聞かせてください。今季は変化が多く、何から聞けばいいのか、という状況にありますが、まずは船山弓枝コーチについて。専任コーチとなった経緯などを教えてください。2021年にメインスポンサーである北海道銀行との契約が終了し、フォルティウスとして新たなスタートをきった時から、どちらかといえば、チームをサポートする役割を担っていた印象があります。

近江谷 あの時から......というか、弓枝ちゃんはずっと「チームを存続させたい。強くさせたい」と強く思ってくれていて。

小野寺 家庭もあって、忙しいなかでも動いてくれているので、本当にその気持ちの強さが伝わってきます。

近江谷 そういった状況のなかで、弓枝ちゃんは「新しい選手が入ってくれたら退くよ」という話もしていて、(小林)未奈ちゃん、そして(小谷)優奈ちゃんという選手を新たに迎えることができたので、弓枝ちゃんがチームをサポートする役割に回ってくれた、という感じです。

――一方で、これまで師事していたコナー・ネゴヴァンコーチが、カーリング・カナダのルールで選手登録をしながらのコーチがNGになってしまった、ということがありました。

近江谷 そうなんです。でも、ふだんの練習を見てくれる人がどうしても必要で、弓枝ちゃんが「私が見るよ〜」と言ってくれて。

小野寺 私たちの投げる石を誰よりも見てきた人ですから、すごい安心感があります。選手に寄り添ってくれるコーチですね。

近江谷 選手それぞれに対して、どう接したらいいか、すごく考えて話をしてくれるので、とても落ちつきます。

小野寺 技術的なことに関しても「こうしたら?」と、提案するような話し方をしてくれるので、受け入れやすいですね。

――また、今季からは北海道大学の山本雅人教授をデータアナリストとしてチームに迎えています。そこから導き出されたデータやAIの活用も、船山コーチがされていくのでしょうか。

近江谷 カーリングにおいて、AIがどこまで運用できるかはまだ試行錯誤の段階ですが、今は弓枝ちゃんが数字とチームの(間の)クッションになってくれているというか。(あらゆるデータも)弓枝ちゃんを一度通すことで、チームとしてクリアになるのはありがたいですね。

小野寺 さまざまなデータやスタッツのなかから重要なものをピックアップして、(それをどう活用するか)私たちと一緒に考えてくれる感じです。

――他のチームメイトについても教えてください。最年少の小林選手はおふたりから見てどういったキャラクターなのでしょうか。

近江谷 誰とでも上手にコミュニケーションを取れる人で、どこに行っても知り合いがいる(笑)。

小野寺 確かに、コミュニケーション能力は高いですね。あと、人の名前をすぐに覚えることができるし、アイスの上からでも「あっ、何々ちゃんのお母さんが見に来てくれている」とか、人を発見するスピードが速い。

――カーリング選手としての特性はいかがでしょうか。

近江谷 バイス(スキップ)をやってくれていますが、ラインコールは上手ですね。

小野寺 そう。一緒にやってみて「あっ、うまい子だな」ってすぐにわかった。

近江谷 私たちがどれだけ体を鍛えて、強いスイープを持っていても、コールが正しくなければ(宝の)持ち腐れになってしまう。そこを、うまく生かしてくれています。

小野寺 どうやってハウスとスイーパー陣とをつなぐかとか、いろいろと考えながら取り組んでくれているのが見えるのは、心強いです。

――続いて、小谷選手。今季は吉村紗也香選手が産休に入って、その穴を埋める形でフォルティウスに加入。シーズン開幕時には「人生初のスキップなんです」と、本人は少し硬くなっている様子がうかがえました。

小野寺 新しいチームに入るだけでも緊張するのに、(経験のない)スキップを任されるなんて、大変ですよね。私なら、できないと思います。

近江谷 優奈ちゃんが「緊張して寝られない」とか言っていたから、「軍隊式入眠方法っていうのがあるらしいよ」って、みんなでいろいろと調べたりしたよね(笑)。それはともかく、これまでのチームをきっと尊重してくれていて、技術的な部分でも合わせてくれた。私たちもそれを感じ取れて(お互いに)歩み寄ることができるのかな、とは思います。

小野寺 慣れないスキップかもしれないけれど、"ここぞ"というショットを決めてくれる強さもあって。投げる前から「決めるだろうな」という雰囲気が出ている時があります。

近江谷 戦術面では、これまでややディフェンシブだったフォルティウスのスタイルのなかに、(小谷選手が前所属の)富士急でやっていた攻撃的なカーリングを提案してくれることもあって、そこのバランスがうまく取れたら、チームとしての"引き出し"がまた増えるのかな、という手応えがあります。

小野寺 あとは、弓枝ちゃんも、さや(吉村)も、彼女をすごくサポートしてくれていて。

近江谷(チームが)カナダ遠征に出ていても、日本にいる弓枝ちゃんがずっとアドバイスをしてくれていたし、さやは個別に電話をして、チームの細かいことを優奈ちゃんに伝えてくれたと聞きました。

 特に今年は、クラウドファンディングに挑戦したりと、どう転ぶかわからないシーズンでしたが、ここまで充実した強化ができたのは、そうやってチームで助け合うことができたからだと思います。

(つづく)◆フォルティウスをサポートする豪華な面々>>

近江谷杏菜(おおみや・あんな)
1989年10月12日生まれ。北海道北見市出身。10歳でカーリングを始め、ジュニア時代から各大会で好成績を収める。2008年1月、チーム青森の正式な一員となって20歳の時に2010年バンクーバー五輪に出場。1998年長野五輪の日本代表だった父・好幸さんとの父娘での五輪出場を決めた。2014年から北海道銀行フォルティウス(当時)に加入。小野寺佳歩らとともに2度の日本選手権制覇(2015年、2021年)に貢献した。趣味は「韓国ドラマの流し見。今見ているのは『ペントハウス』です」。札幌のどうぎんカーリングスタジアム付近のお気に入りスポットは「もちろん『いわい珈琲』」。加茂川啓明電機勤務。Instagramはこちら>>

小野寺佳歩(おのでら・かほ)
1991年11月11日生まれ。北海道北見市出身。13歳でカーリングを始め、常呂中時代には現ロコ・ソラーレの吉田知那美や鈴木夕湖らとともに各大会で活躍。2006年日本選手権では3位入賞を果たした。一方で、七種競技などでインターハイ出場を果たすなど陸上選手としても奮闘。中京大学体育学部へ進学後は陸上とカーリングを両立し、2011年に新チームとして発足した北海道銀行フォルティウス入り。2014年ソチ五輪に出場した。趣味は筋トレで「最近はお尻からハム(ストリング)にかけて鍛えています」。札幌のどうぎんカーリングスタジアム付近のお気に入りスポットは「『ひだまり 月寒店』です。チームでよくランチします」。北海道電気保安協会勤務。Instagramはこちら>>

◆撮影協力:いわい珈琲