八村塁、レイカーズ移籍後はモチベーションが変化 レブロンとの特訓で身につけたものは?
2023年1月23日(日本時間24日)に八村塁がワシントン・ウィザーズからロサンゼルス・レイカーズへトレードになってから1年が経過した。八村にとって、まるで数年に感じるぐらい濃い1年間だったと言う。
「もう(レイカーズで)何年かプレーした感じですね。(レイカーズの)スタッフのみんなも、僕が入ってまだ1年しか経っていないと聞いて驚いているぐらいなので、それぐらい馴染んでいるなと思いますし、チームの愛情ができてきているなと思います」
NBA選手になって最初の3シーズン半を過ごしたワシントンDCを離れ、アメリカ大陸西海岸のロサンゼルスへ。人生初のトレードは、八村にとって住む場所や着るユニフォームが変わっただけでなく、キャリアの転機となる出来事だった。
八村塁はレブロンとのワークアウトで大きく成長 photo by Getty Images
年末には、こう言っていた。
「(2023年は)いろんな変化があったんじゃないかなと思います。まわりのおかげもあって、いい感じでしっかりとアジャストができたと思うので、そこはまわりに感謝したいなと思います」
一番大きな変化は、リーグ最多タイ17回のNBA優勝を誇る伝統チーム、レイカーズに入ったことだ。ファンからも毎シーズン優勝を目指すことを期待されるチームだ。ウィザーズ時代のチームとしての目標は、あくまでプレーオフに出ることだった。それも3年の間に1度しか達成できず、1回戦で敗退している。
八村は言う。
「正直に言って、ウィザーズの時は『優勝しよう』とやっていなかった。『プレーオフに行こう』とやっていた。優勝(候補の)チームに入ることによって、シーズンに対してのモチベーションも違います」
明成高校時代にはウインターカップ3連覇を達成し、ゴンザガ大でも毎年NCAAトーナメントに進出するなど、常に優勝を目標にできるチームでやってきただけに、「優勝を目標とするチームでやりたい」という思いは強かった。
【レブロンの弟子として特訓の日々】だからこそ、昨年1月にトレードの話が出た時は、優勝を狙えるチームに行きたいと思ったという。いくつかトレード先が候補に挙がるなかで、レイカーズへのトレードを受け入れたのも、そのためだったと語っている。
昨年12月、インシーズン・トーナメント(NBAが今季から導入したシーズン中のカップ戦)でレイカーズが優勝した時、八村はうれしそうにこう語った。
「勝つチームでやるってことが、僕としてもずっと望んだことですし、トレードされて(昨季の)プレーオフとかいろんなことがあってここまできた。
NBAに入るまでずっと勝ち続けてきたので、こうやって勝てた(インシーズン・トーナメントで優勝できた)のはよかったなと思います。これが6月(NBA優勝)にもつながると思うので、すごくいい経験だったんじゃないかなと思います」
レイカーズに入ってからの出会いも大きかった。
アシスタントコーチ(AC)のフィル・ハンディは、コービー・ブライアントやカイリー・アービングら名選手たちのスキルワークを見てきたコーチ。そのハンディACが「自分にルイを担当させてくれ」と自ら進んで八村を担当し、毎日の個人練習の相手をするだけでなく、試合の映像を見ながら相手の対策を考え、プレーの修正点などについても相談相手になってくれている。
またハンディACのアドバイスで、昨年夏のオフはレイカーズのスーパースター、レブロン・ジェームズとワークアウトをともにした。
レブロン自身が「まるで(映画『ベストキッド』の)ダニエルさんとミスター・ミヤギだ」と言ったように、師匠レブロンに弟子のようについてまわり、特訓を受けたのだという。シュートやフットワーク、オフシーズンの練習の仕方など、八村いわく「それまでやったことがないフットワークとか、シューティングの練習とか、すごくレベルの高いことをやった」と言うほど、リーグ随一の名選手のもとで多くを学んだ。
【今シーズンは開幕から相次ぐケガで不完全燃焼】レイカーズのヘッドコーチ、ダービン・ハムは八村のこの1年の成長について、こう語る。
「ルイは前より落ち着いてプレーするようになった。コーチの言うことや、チームメイトたちから言われることをよく聞いている。レブロンが彼の面倒を見ていて、(プレー中に)どんなところを見る必要があるのか、攻守でどういうところに反応しなくてはいけないのか、といったことをいつも話していて、そういったことがプラスになっている。
フィル・ハンディとも多くの時間を過ごして、個別にプレー映像を見て研究している。どこにポジションを取ったらいいのか、どこにいるべきかといった質問をしながら学んでいる。みんなから励まされている。ルイはバスケットボールに対してのアプローチに関して、嘘偽りない純粋な気持ちを持っている選手だ。レイカーズに来てからの彼はすばらしい」
八村にとって、この1年はすべてが順調だったわけではない。昨シーズン、チーム加入後は役割がなかなか定まらず、ベンチ入りしながら試合に出る機会がないままだったこともあった。
その後、ハムHCは起用方法を間違えたことを認め、特にプレーオフに入ってからはチーム内での役割も大きくなっていった。
たとえば1回戦のメンフィス・グリズリーズとのシリーズ1戦目では、3ポイントショット6本中5本を成功させて29得点を記録し、勝利に貢献してシリーズの流れを作った。さらにデンバー・ナゲッツとのウェスタン・カンファレンス・ファイナルでは、2年連続リーグMVPを受賞したニコラ・ヨキッチとのマッチアップでも奮闘を見せた。
7月にレイカーズと3年5100万ドル(約73億円)で契約を延長し、昨季以上にチームに貢献しようと意気込んで臨んだ今シーズン。八村は開幕直後から脳震盪や鼻の骨折、ふくらはぎの肉離れと、相次ぐ故障で何度もチームを離脱している。復帰してようやくリズムを取り戻し始めたと思ったら再び故障で離脱という日々に、個人的にも不完全燃焼な状態だ。
【苦しい時を乗り越えるからこそ楽しさが湧いてくる】ふだんの八村は、そういった悔しさは自分の中に押し込み、メディアにはあまり露呈させない。だが、1月17日にウェスタン・カンファレンス2位のオクラホマシティ・サンダー戦で控えから出場し、12得点を奪ってチームの勝利に貢献したあとに、「(自分が)チームのXファクターになるということでやっているのに、ケガとかで出られない時があって、そういう時にチームが苦しんでいるのを見て、僕も悔しかった」と正直な思いをのぞかせた。
八村が「チームが苦しんでいた」と言ったように、レイカーズはインシーズン・トーナメント優勝直後に低迷し、1月23日時点で22勝23敗、順位もウェスタン・カンファレンス9位まで落としている。優勝という高い目標を掲げているだけに、結果が伴わなければ悔しい思いもするし、チームとしても個々の選手としても厳しい批判にもさらされる。
そういえば、昨シーズン後に八村はこんなことも言っていた。
「苦しい時を乗り越えるからこそ、終わって振り返った時に楽しかったなと思うんじゃないかなと思います。高校の時、ずっと楽しかったわけじゃない。苦しいことを乗り越えて優勝するとか達成することで、楽しさっていうのが湧いてくるのだと思う」
果たして、シーズン後半戦でレイカーズに入ってからの濃い1年間の成果を出せるだろうか。あとから振り返って、「あの苦しい時を乗り越えたから、今のこの喜びがある」と思えるだろうか。苦しくも、充実した日々が続く。