お金がなくても大丈夫!? 首位ジローナの予算はバルサの20分の1 岡崎慎司も指導した監督の手腕が光る
ジローナの躍進が止まらない。スペイン、ラ・リーガ第21節終了段階で、堂々の首位に立つ(2位のレアル・マドリードは1試合少ない)。
2022−23シーズン、ジローナの年間予算は5500万ユーロ(約82億円)だった。バルセロナが12億5500万ユーロ(約1883億円)、レアル・マドリードが7億7000万ユーロ(約1155億円)、アトレティコ・マドリードが3億7600万ユーロ(約564億円)、久保建英を擁するレアル・ソシエダが1億2800万ユーロ(約192 億円)。予算は戦力に投影され、そのまま順位にもつながるだけに、控え目に言っても大善戦だ。
特筆すべきは、ジローナが信奉するサッカーの内容にあるだろう。
守りを固めて耐え忍び、隙を突いてのカウンターで勝つ、という弱者の兵法ではない。自分たちがボールを持って、運び、勇敢に相手ゴールへ迫る。そのコンビネーションは華麗で、バルサやアトレティコを真っ向勝負で次々に撃破。小さな地方クラブが強者のように戦い、ビッグクラブを打ち負かしているのだ。
「月曜から金曜まで、選手たちをトレーニングするのが楽しいし、週末の試合を見させてもらって楽しい」
ミチェル監督の言葉こそ、"ジローナ旋風"を解き明かすヒントと言える。
直近の本拠地モンティリビでのセビージャ戦、ジローナはセビージャに先制こそ許したが、そこからの反転攻勢がすさまじかった。
ブラジルU−20代表の左利きアタッカーのサビオは、雷撃のごときスピードテクニックで左サイドを切り裂いた。ミゲル・グティエレスは神出鬼没で、今シーズンのラ・リーガで屈指の左サイドバックと言える。ウクライナ代表FWアルテム・ドフビクはアーリング・ハーランド(ノルウェー代表/マンチェスター・シティ)を思わせる万能ストライカーでハットトリックを達成。イバン・マルティンのボールキープは出色で、ベネズエラ代表ヤンヘル・エレーラのパスは時を刻んだ。
前節はセビージャに5−1と大勝して暫定首位をキープしたジローナの選手たちphoto by Pressinphoto / Getty Images
結局、5−1という大差で叩きのめし、セビージャに復帰したDFセルヒオ・ラモスが悄然とする姿が印象的だった。
【指揮官ミチェルの見事な采配】
ミチェル監督が率いるジローナの強さの核心は、「選手が殻を破る姿」にある。日々のトレーニングの質の高さと、勝負における起用の正しさによって、選手たちが技巧的、戦術的な成長を示す。その繰り返しで、チーム自体が劇的に変身を遂げるのだ。
世界的には無名に近かったFWドフビク、サビオ、ヴィクトル・ツィガンコフ、MFアレイシ・ガルシア、ミゲル・グティエレスの市場価値は跳ね上がっている。昨シーズン、「ラ・リーガ最高の右サイドバック」と絶賛されたアルナウ・マルティネスは今や定位置を失っているが、代わりのヤン・コウトは今やブラジル代表にも招集されるほどの台頭を見せる。
これだけの競争力を作り出した指揮官の采配は見事だ。
昨シーズン、司令塔だったオリオル・ロメウはシャビ・エルナンデスが率いるバルサに奪われたが、今やロメウは自信喪失し、「期待外れ」の烙印を押されている。一方、ジローナで新たに台頭したMFアレイシ・ガルシアはスペイン代表に招集され、バルサの獲得候補にもリストアップされたという。しかしミチェルはダブルボランチの編成を創出し、必ずしもアレイシ・ガルシアに頼っていない。
その変幻自在こそ、いわゆるビッグネームがひとりもいないジローナ快進撃の理由と言える。
もっとも、ローマは一日にして成らず、である。
2017年夏、ジローナはシティ・フットボール・グループの傘下に入っている。マンチェスター・シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督の兄、ペレ・グアルディオラが幹部。スペイン代表にも選ばれたアレイシ・ガルシアを筆頭に、サビオやコウトもグループの契約選手で、クラブのスタイル確立、スカウティングや選手補強に関し、大きな転機になったと言える。
ただしジローナはもともと、欧州王者シティに近い色合いを持っていた。
2014年からスポーツディレクター(SD)を務めるキケ・カルセルは、バルサの下部組織ラ・マシア育ちである。トップデビューはできなかったが、ヨハン・クライフの理念を強く受け継ぎ、ボールゲームを重んじてきた。SDとして下部リーグで実績を積みながら、ジローナでそれを花開かせたのだ。
「バルサのやりたいサッカーでバルサを撃破!」
昨年12月、ジローナがアウェーでバルサを2−4と下した試合後、スポーツ紙は殊勲を称賛したが、それはジローナというクラブにとって、ひとつの結実だったかもしれない。
「バルサ関係者がミチェル監督に接触」
そんな報道も出たが、あり得ない話ではないだろう。
ミチェルはラージョ・バジェカーノ、ウエスカを2部で優勝させ、1部昇格に導きながら、すぐクビを切られた経験があり、指揮官として厚みを増した。柔軟な指揮官で、選手のよさを引き出すためにはフォーメーションにこだわらない。4−3−3はベーシックだが、3−4−2−1、4−2−3−1も駆使。選手の組み合わせや対戦相手との噛み合わせなど、いくつもの選択肢のなかから最善を見出すことができる。
一昨シーズン、ミチェルはジローナを率いて1部に昇格させた後、昨シーズンは10位と土台を築いて、今シーズンは一気に力を解き放った。
「ミラクル・レスターの再現か?」
2015−16シーズン、岡崎慎司などを擁してプレミアリーグを制したレスター・シティの躍進になぞらえる声もある。率直に言って、ジローナがこのサッカーでラ・リーガ王者になったら、それ以上の衝撃だろう。余談だが、ミチェルはウエスカ時代に岡崎の力を最大限に引き出し、ともに1部に上がっている。
モンティリビでは今、夢が見られる。