日本代表、イラク戦の敗因は明確 前線4人のポジションの設定が悪すぎる
考えられる限りのベストメンバーでカタールに乗り込みながら、初戦でベトナムに4−2と大味な試合をした森保ジャパン。続くイラクにはなんと1−2で敗れてしまった。VARによるPK取り消しはあったが、特にアンラッキーとも感じない、言い訳のできない敗戦である。小さな問題ではまったくない。
鈴木彩艶、菅原由勢、板倉滉、谷口彰悟、伊藤洋輝、遠藤航、守田英正、伊東純也、久保建英、南野拓実、浅野拓磨。先発はこの11人で、初戦のベトナム戦から中村敬斗、細谷真大が外れ、代わりに久保、浅野が加わった。
4−2−3−1の「4−2」は変化なしだった。スタメンを見た瞬間、ベストメンバー色を出しすぎていることがまず気になった。決勝までの7試合を通した戦いを考えたとき、CB、SB、守備的MFをひとりずつ入れ替えるぐらいの余裕がほしかった。町田浩樹、中山雄太、旗手怜央あたりを先発メンバーに加えると3戦目以降の戦いはラクになる。そんな思いで守備的MF以下の「4−2」を眺めたものだ。
イラクに敗れ、肩を落とす遠藤航ら日本代表の選手たち photo by Kyodo news
そして「4−2」の上にくる「3−1」の4人はてっきり、1トップ=浅野、1トップ下=南野、左ウイング=久保、右ウイング=伊東だと思った。久保が右で、伊東が左に回る可能性もあると見たが、それがまさか外れるとは思わなかった。
南野、久保、伊東が左から順に並ぶ姿を見て、唖然とせずにはいられなかった。しかも1トップは浅野だ。組み合わせとして最悪。これは危ない。初戦(ベトナム戦)以上に苦戦する――という戦前の読みは見事に的中することになった。
浅野は直進する力には定評があるが、ゴールを背にしたプレーを得意にしないスピード系だ。ポストプレーはベトナム戦に先発し、前半45分でベンチに下がった細谷真大以上にうまくない。
久保も前を向いてドリブルするタイプで、ゴールに背を向けるプレーを苦手にする。森保監督はこのふたりを1トップと1トップ下の関係に並べたわけだ。真ん中の高い位置にボールが収まらないサッカー。細谷(1トップ)と南野(1トップ下)を真ん中に据えたベトナム戦でさえうまくいかなかった。浅野、久保が縦に並ぶ光景を見てさらに危ない。ミスキャストだと言いたくなる理由だった。
【谷口彰悟の問題ではない】
南野の左ウイング起用も拍車をかけた。この選手にウインガー、サイドアタッカーとしての適性はない。ポジションをカバーする概念を持ち合わせていないことは、そのポジションニングを見れば一目瞭然だ。重なるのは香川真司で、彼を左ウイングに据えて負けたブラジルW杯初戦のコートジボワール戦が蘇る。
中央も機能しなければ、左サイドも機能しなかった。サイドにいい感じでボールが集まれば中央が空く。中央にいい感じでボールが集まれば両サイドが空く。このバランス感覚がアジアカップを戦う森保ジャパンにはまるで欠けている。
ボーフム(浅野)、レアル・ソシエダ(久保)、スタッド・ランス(伊東)、モナコ(南野)。それぞれの所属チームはドイツ、スペイン、フランスの1部リーグに所属するチームだ。レアル・ソシエダ、さらには上田綺世が所属するフェイエノールトは今季、チャンピオンズリーグにも出場した。それぞれ出場機会に差はあるが、彼らは欧州の上位リーグで活躍している選手として括られる。駒そのものに特段、大きな問題があるわけではない。原因は選手にあらず。バランスの悪いポジション設定をしたのは監督であって、選手個人ではない。
ボール支配率が低いカウンターサッカー、強者に臨む弱者の立ち位置なら話は別だ。浅野の1トップでも展開次第では問題ない場合もある。露呈しやすいのは支配率が高い場合だ。マイボールの時間が長くなれば、攻め方、ボールの奪われ方が問われることになる。ちゃんとした攻めとちゃんとした守りは表裏一体の関係にある。恐いのは「攻めあぐみ」だ。
イラク戦もベトナム戦に続き、しっかりこの症状に陥った。前戦の反省、検証ができていない証拠である。
後半、森保監督は谷口に代え冨安健洋を投入した。センターバック(CB)同士を前半で代える交代は稀である。谷口は相手のCFに少々、手こずっていたかもしれない。10点満点(6点平均)で採点をすれば5.7〜5.8ぐらいだろう。
【致命的になる可能性も】
しかしその原因はどこにあったか。谷口自身の問題だったかと言えば、ノーだ。繰り返すが、攻めあぐみだ。バランスの悪い攻撃である。決定的チャンス、惜しいチャンスを外しまくった結果、前半を0−2で折り返したわけではない。
日本の攻めあぐみは、個人の責任によるものではない。監督の責任であるにもかかわらず、森保監督は前戦のベトナム戦では、前半終了とともに細谷を下げ、イラク戦では同じタイミングで谷口を下げた。ダメ出しするような選手のプライドを傷つける屈辱的な交代である。筆者には細谷、谷口が不憫に思えて仕方がない。
初戦、2戦目で白日のもとにさらされたのは、森保監督の攻撃的センスのなさだ。かねてから囁かれていた欠点が、いま再び表面化した恰好だ。駒をきれいに並べ、秩序だった効率的な攻め方をすることができない。それが守備に悪影響を与えているにもかかわらず、原因をキャプテン格のCBに求めるかのような交代をする。
その結果、第3戦の対インドネシア戦はまさに絶対に負けられない戦いになった。4−2−3−1の後ろ6人(4−2)は、菅原、板倉、冨安、伊藤、遠藤、守田の、いわゆるベストメンバーを送らざるを得ない状況だ。7戦目までやりくりしにくくなった。この采配では、W杯で5試合以上(ベスト8以上)は戦えない。
前の4人の並べ方にも目を凝らしたい。日本の弱点はハッキリしている。攻撃的センスに欠ける森保采配が、致命的な問題に発展していく可能性が出てきた。