サッカー日本代表・細谷真大より上田綺世のほうがパスを多く受けられたのはなぜか ベトナム戦で強者のゲーム運びに立ち位置変更の工夫
サッカー日本代表が4−2と逆転勝ちした、アジアカップ初戦のベトナム戦は、前半個の力で3得点も苦戦。一方、後半は落ち着いたプレーを見せ、データにもいい変化が表れている。前後半を分けた違いは何か?
【予想外の展開も終わってみれば順当勝ち】アジアカップの初戦となったベトナムとの一戦を、4−2で勝利を収めることに成功した森保ジャパン。セットプレーから2失点を献上し、一時は相手にリードを許す展開になったのは予想外だったが、終わってみれば日本の順当勝ちという印象だ。
サッカー日本代表は前半は個の力、後半は連係でベトナムを下した photo by Getty Images
余力を十分に残しての白星スタート。そう見て取れた。とりわけ優勝候補筆頭として今大会に挑む日本にとっては、いかにしてグループリーグ3試合を省エネで乗りきれるかどうかが、優勝を目指すうえでのポイントになる。
その意味では、ベトナムにセットプレー以外でほとんどチャンスらしいチャンスを作らせず、しかもフルパワーを使わずに効率よく下したことは、今後に向けてポジティブな材料と言えるだろう。
しかも、日本はまだベストメンバーを編成していない。負傷の冨安健洋、三笘薫、中山雄太も回復中で、故障が癒えたばかりの久保建英も、この試合ではラスト10分程度のプレーのみ。おそらくグループリーグ残りの2試合もスタメンの入れ替えが予想され、順調にいけば多くの選手が疲労を抱えないまま決勝トーナメントに臨めるはずだ。
そこが、グループリーグ3戦目を除いて初戦からフルメンバーを編成し続けた前回大会とは大きく異なる点だ。
とはいえ、どんな試合においても課題を見つけ、修正していく作業は欠かせない。コンディションのみならず、優勝するためには大会期間中の個々のプレーやチーム戦術のブラッシュアップが、チーム全体のギアを上げることにつながるからだ。
【なかなかシュートを打てなかった前半】では、今回のベトナム戦で見えた修正ポイントはどこにあるのかと言えば、やはり攻撃面になる。5−4−1のブロックを敷くベトナムに対して、どのように攻略するのか。戦前から注目されていたそのポイントを、改めて掘り下げてみる。
まず、この試合で森保一監督が採用した布陣は4−2−3−1。スタメンの2列目は、右から伊東純也、南野拓実、中村敬斗、そして1トップには、元日のタイ戦でフル出場した細谷真大が抜擢された。
結果的に前半のうちに3ゴールをマークした日本だったが、立ち上がりから攻撃が機能していたとは言えなかった。
実際、11分に幸先よく先制したものの、33分に逆転を許すまでに記録したシュートはわずか3本。得点シーンで菅原由勢と南野が連続して放った2本と、23分に守田英正の斜めのくさびを受けた南野が狙った1本だけだった。
なぜ日本はなかなかフィニッシュに持ち込めなかったのか。ポイントは、日本が敵陣でボールを保持する際、5−4−1で守るベトナムに対して4−2−4の陣形になっていたことだった。
つまり、ベトナムの最終ライン5人の前で、日本の前線4人(伊東、南野、細谷、中村)がボールを受ける場所を探すものの、その前ではベトナムの中盤4人がそれぞれのパスコースを遮断。特に縦パスを狙うボランチの遠藤航と守田から見ると、細谷と南野は相手のボランチ2枚(16番と11番)の陰に隠れる格好となっていたからだ。
また、両サイドの伊東には3番が、中村には7番がマークし、両サイドバックの上がりについても、伊藤洋輝に8番、菅原に15番がマーク。それぞれがしっかりマッチアップする状況をベトナムに作られていた。
無理して出したパスが引っ掛かり、時折ベトナムに前進を許すことになったのも、そこが要因のひとつだったのは否めない。しかもベトナムの選手たちにはパスをつなぐ技術もあったため、なかなか敵陣に相手を押し込みにくい戦況だったと言える。
結局、前半に1トップの細谷が受けたパスは7本。そのうちバイタルエリア中央で受けた縦パスは2本で、ゴールチャンスは44分に伊東のショートパスを受けてボックス内でシュートしたシーンのみだった。その間、DFラインの裏を狙う動きも見せたが、パスコースが閉じられた状況だったこともあり、いずれも相手にパスカットされている。
そんな状況においても、前半終了間際に個の力で2ゴールをマークして逆転に成功したあたりは、日本の底力と言っていいだろう。
中村の逆転ゴールはもちろん、45分の南野の同点弾も、遠藤が相手の股下を抜く縦パスを通した後、受けた南野もシュートブロックにきたDFの股下を抜いてフィニッシュ。目の前に立ちはだかる相手を、キックテクニックで突き破ったゴールだった。
【後半の陣形変化で優位に】日本の攻撃に変化が見えたのは後半から。1トップが細谷から上田綺世に代わったのもひとつだが、前半との大きな違いは陣形を変えたことにあった。
守備時は前半同様に4−4−2だったが、敵陣でボールを保持した際の陣形は4−2−4から4−1−4−1に変化。もっとわかりやすく言えば、ベトナムの最終ライン5人の前に、日本も守田を含めた5人が立ったことだった(右から伊東、南野、上田、守田、中村)。
こうなると、相手のボランチ2枚の背後に3人が立つため、日本にとっては中央のパスコースが増える。また、ベトナムの最終ライン5人がそれぞれマッチアップすることで、日本の前線5人の動き次第で、相手DFラインにギャップをつくりやすい状況にもなる。
前半よりも、後半のほうが相手を敵陣に封じ込める時間が増えたのは、その影響と言っていいだろう。たとえば67分には、その効果と言えるシーンが見られた。
相手のクリアボールを回収した谷口彰悟が上田に縦パスを入れると、上田がダイレクトで板倉滉に落とし、受けた板倉が右ハーフレーンの堂安律に縦パスを配球。それを堂安がフリックで背後の南野に預け、南野が堂安に戻すと、堂安は上田にスルーパス。そのパスは背後を狙う上田に合わなかったが、前半には見られなかった連動性のある攻撃だった。
同じく前線で連動した攻撃は、85分に上田の追加点として結実した。遠藤、堂安、久保、上田とわたってフィニッシュ。ベトナムが終盤に疲弊していたとはいえ、次の試合につながるようなポジティブなゴールだったことは間違いない。
その他、前半に1本だった伊東のクロスが後半になると5本に増加したこと、1トップの上田が12本のパスレシーブを記録したことも、ボール保持時に4−1−4−1に陣形を変えた効果となって表れている。
【強者のゲーム運びで試合を終わらせた】もっとも、日本が立ち位置を変えたからと言って、後半に日本の猛攻が繰り広げられたわけではなかった。シュート数も3本で、前半に逆転されるまでの時間帯と同数だった(日本は前半33分以降にシュート9本を記録)。
これは、日本が1点リードをしていたこともあり、リスクをかけて攻めるより、しっかりとボールを保持しながら安全運転モードに入っていたからと見ていいだろう。その結果、ピンチもほとんどなく、最終的に相手を疲れさせてからとどめを刺すことに成功した。
ある意味、このベトナム戦の日本は強者のゲーム運びで試合を終わらせることができた。それも含めて、日本は十分に余力を残したまま白星スタートを切ったと言える。
注目は、次のイラク戦だ。この試合にしっかり勝利できれば、続くインドネシア戦は大幅なスタメンの入れ替えも可能になる。そのためにも、日本対策を講じてくるはずの相手に対して、試合のなかでいかに修正しながら効率よく勝てるかどうか。
今回のベトナム戦のように、ピッチ上の選手たちの工夫に注目したい。