箱根駅伝総括 青学大と駒澤大はどこで差がついたのか、城西大・東洋大快走の理由を識者3人が解説
青山学院大の圧勝で終わった、第100回の箱根駅伝。レース前、識者3人にトップ10を予想してもらったが、実際の順位と比べながらレースを総括。予想通り、または予想外となった展開を振り返る。
3区で駒大の佐藤圭汰(左)をとらえた青学大の太田蒼生 photo by Nikkan Sports/AFLO
■佐藤俊(スポーツライター)
(予想) (結果)
1位 駒澤大 1位 青山学院大
2位 青山学院大 2位 駒澤大
3位 創価大 3位 城西大
4位 中央大 4位 東洋大
5位 國學院大 5位 國學院大
6位 城西大 6位 法政大
7位 早稲田大 7位 早稲田大
8位 法政大 8位 創価大
9位 大東文化大 9位 帝京大
10位 東海大 10位 大東文化大
今回の箱根駅伝は記念すべき第100回大会にふさわしく、サプライズ、波乱の多い駅伝になった。
最大のサプライズは、原晋監督自身も予想していなかった青学大の総合優勝か。選手の力が大きいが、選手のコンディションを管理し、最大限に発揮するようにサポートした中野ジェームズ修一氏らスタッフの尽力が非常に大きかった。
走りも全10区間で5つの区間賞、区間2位が3つなどノーミス。特にカギの区間に挙げていた2区・黒田朝日(2年)と3区・太田蒼生(3年)が区間賞を獲得し、駒大の軸である鈴木芽吹(4年)と佐藤圭汰(2年)を上回ったのが大きい。最終的には駒大に6分35秒の差をつけ、青学大は駅伝力の強さを証明した。
3位・城西大と10位・大東大は、持ち味を発揮した。
城西大は、1区から流れを掴み、5区の山本唯翔(4年)でかなり貯金を作るなど、往路攻略が見事にハマった。往路で4位の東洋大に4分近い差をつけたことで、復路の戦いに余裕をもって臨むことができたことが、3位を維持できた要因のひとつだろう。
大東大は、シード復活だ。「山の大東」と言われるだけあって5区4位、6区も4位と好走し、10区で東海大をうっちゃった。8区でピーター・ワンジルの大ブレーキがあったが、それでも10位内にまとめてくるところは、箱根予選会をトップ通過した力が本物であることを証明した。
まさか、というシーンが続いたのは駒大と中大だった。
断トツの優勝候補だった駒大は、1区から3区まで先行してリードを広げる戦略だった。しかし3区で逆転され、4区の山川拓馬(2年)が突き離され、後手に回ってしまった。往路終了時で青学大と2分38秒の差がついたのは大きな誤算であり、復路も青学大にすべての区間でリードを許す、予想外の完敗だった。
中大は、16名中14名が風邪などで体調不良になり、1区から3区まで総崩れで上位に絡めなかった。吉居大和(4年)・駿恭(2年)兄弟、湯浅仁(4年)、中野翔大(4年)らで優勝を狙う勝負の箱根だっただけに、コンディション不良による脱落は、藤原正和監督も痛恨だろう。
心配なのは、17位に終わった順大と20位の明大だ。順大は1区の三浦龍司(4年)で弾みをつけられずに往路10位だったものの、復路は総崩れで駅伝にならなかった。2年前は2位、昨年は5位と強さを維持していたが、今回の極端な落ち込みは次のシーズンに影響しそうだ。
明大は予選会2位通過だったが、本戦では往路最下位に終わるなど、低迷したままで終わった。唯一の光明は、8区3位でひとり気を吐いた綾一輝(1年)だったが、次のシーズンに向けてどう立て直すかに注目したい。
【駒大のレースは100点。それ以上に青学大が良すぎた】■酒井政人(スポーツライター)
(予想) (結果)
1位 駒澤大 1位 青山学院大
2位 中央大 1位 駒澤大
3位 國學院大 3位 城西大
4位 青山学院大 4位 東洋大
5位 創価大 5位 國學院大
6位 城西大 6位 法政大
7位 大東文化大 7位 早稲田大
8位 早稲田大 8位 創価大
9位 帝京大 9位 帝京大
10位 法政大 10位 大東文化大
駒大は"山"の区間に前回メンバーを起用できなかったとはいえ、全体的な出来は悪くなかった。本人たちは納得していなかったが、篠原倖太朗(3年)、鈴木、佐藤を投入した1〜3区は「ほぼ100点」とも言える走りだったと思う。
ただ、駒大以上に青学大が良すぎた。1区・荒巻朋熈(2年)は110点、2区・黒田は120点、3区・太田は150点をつけられる。特に3区・太田のタイム(59分47秒)がすごすぎた。ハーフマラソンに換算すると58分56秒ほど。下り坂基調のコースとはいえ、日本記録(1時間00分00秒)を大きく上回るものだ。
おそらく原晋監督ですら、これだけのタイムは予想していなかったはずだ。3区・太田の爆走は駒大にとってメンタル面を含めて"致命傷"になったような気がしている。青学大にあれだけの走りをされると、駒大はベストオーダーを組んだとしても勝てなかっただろう。
2位に予想していた中大は12月24日以降に発熱する選手が続出。エントリー16人中14人が体調不良になり、厳しい結果(総合13位)になった。國學院大も12月10日にインフルエンザに集団感染した影響が出て5位に終わった。この2校は優勝争いできるチャンスがあっただけに、ベストオーダーでの戦いを見たかった。
創価大、城西大、大東大、早大、帝京大、法大は予想通り、シード権を獲得した。ほとんどの大学に"取りこぼし"があったが、城西大と法大はミスが少なかった。両校は実力をしっかりと発揮した分、予想より高い順位になった。
いい意味で裏切られたのは東洋大だ。今回はシード権を逃すと思っていたが、全日本大学駅伝の過去ワースト14位から、箱根では総合4位に食い込んだ。中でも9区・吉田周(3年)は区間2位、10区・岸本遼太郎(2年)は区間賞。学生駅伝初出場組の快走に驚かされた。
【駒大は"守りの駅伝"をしようとしてしまった】■折山淑美(スポーツライター)
(予想) (結果)
1位 駒澤大 1位 青山学院大
2位 青山学院大 2位 駒澤大
3位 國學院大 3位 城西大
4位 中央大 4位 東洋大
5位 城西大 5位 國學院大
6位 創価大 6位 法政大
7位 早稲田大 7位 早稲田大
8位 順天堂大 8位 創価大
9位 大東文化大 9位 帝京大
10位 東洋大 10位 大東文化大
波に乗った時の青学大の強さはさすが、と思える箱根駅伝だった。しかしその勢いは、駒大が出雲駅伝と全日本大学駅伝で完勝したからこそ生み出されたものだろう。
あの強さを見せつけられたことで、世間では"駒澤一強"というイメージが作り上げられた。他校も「打倒・駒大」と口にしても、心の中では「あの強さには敵わない」という思いもあったはずだ。
だが、青学大には初優勝以来の9年間で総合優勝6回を成し遂げ、他の年も2位、3位、4位と、ミスをしても上位に居続ける総合力の高さを誇る。だからこそ「箱根は違う」という気持ちを持てたのだろう。さらに、相手の強さを認めるからこそ、挑戦する意識を持てた。それを最も体現したのが、駒大の佐藤圭汰をかわして先頭に立った、3区の太田だった。
それに対して駒大は、出雲と全日本がよかったからこそ、2年連続の大学駅伝3冠を"果たさなければいけないもの"として心の中に持ってしまったのだろう。さらに1区から3区まで、学生トップの篠原と鈴木、佐藤と並べて先手を取ろうとする、王道でありながらも戦力を考えれば"守りの駅伝"をしようとしてしまった。
前回まで駒大を牽引した田澤廉(トヨタ自動車)は、「学生長距離の可能性を切り開く」という自覚もあり、体調が万全でなくても他の選手たちを鼓舞するような走りをしていた。一方で今回の主力3人にはそこまでの意識はなく、「3人で結果を出す」という思いだったのだろう。
各選手が「自分がなんとかする」という気持を持っていたならば、1区の篠原も、青学大と國學院大が遅れた時にさらにダメージを与えるような積極的な走りをしていたはずだ。それは2区の鈴木、3区の佐藤も同じ。青学大は12月にインフルエンザが蔓延して体調不良者が出たというが、それもあったからこそ余計に、精神面でもピーキングをうまく箱根に合わせられたのかもしれない。
中大は体調不良者が多数出て、往路の1区から下位に沈んだのは残念だった。3位になった城西大は、5区の山本唯翔の存在もあり、櫛部静二監督が本気で往路優勝を取りに行ったからこそ快走につながったのだろう。
出雲は8位、全日本は14位と苦戦し、箱根はシード権獲得を目標にしていた東洋大が4位に食い込んだのは、「さすが」としかいいようがない。1区で遅れ始めた時は「前回と同じように苦戦か」と思えたが、そこから10位・順大に30秒差の15位と粘れたのが大きい。
その後も、2区で大きく挽回するのではなく、2、3区で他校の力も利用して着実に走った。展開がバラけてくる4区にエースの松山和希を置き、上位を確実にした酒井俊幸監督の戦略がうまく機能したと言える。
シード権争いは今回も最後まで熾烈だったが、青学大がこれまでの往路記録を3分以上更新する大会記録で走ったことで、復路は8位以下が一斉スタートになり、自分たちの位置を正確に確認できない難しいレースになった。復路の繰り上げスタートは仕方ないものだが、シード権争いも見所のひとつにするなら、10位までは時差スタートにして11位以下を一斉スタートにするなど、ルール変更も考えてもらいたいとも思った。