大谷翔平への“故意死球発言”はなぜ生まれたのか? パドレス移籍の韓国人投手が語ったメディアの曲解「正直、悲しかった」

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パドレスへの移籍が決まったコ・ウソク。彼が過去に発した発言は小さくない波紋を呼んだ。(C)Getty Images

 去る1月3日(現地時間)、パドレスは今オフにKBO(韓国プロ野球)リーグのLGツインズからポスティングでメジャーリーグ移籍を狙っていたコ・ウソクとの契約を発表した。契約は2年総額450万ドル(約6億4000万円)となった。

 まさに滑り込みでの契約だった。韓国時間4日午前7時にポスティングの締め切りが迫るなか、コ・ウソクは“デッドライン”の7分前にパドレスと契約を締結。「喜びよりも安堵が先だった」(韓国メディア『聯合ニュース』での本人談)という。

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 KBOリーグ通算354登板で、139セーブ、防御率3.18、WHIP1.27と実績は十分だ。韓国球界でも指折りの守護神となったコ・ウソクがメジャーの強打者たちを相手にいかに対峙するかは興味深いところである。

 そんな25歳のメジャー移籍が公表された当初、日本のメディアでは彼の“ある発言”がクローズアップされた。それは昨春に開催されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での一幕だ。

 韓国代表として大会に参戦していたコ・ウソクは、開幕前に1次ラウンドで対峙する日本代表の大谷翔平について問われ、「投げるところがなければ、痛くないところにぶつけようかな」と回答。冗談交じりの発言だったが、日本球界が誇る偉才に対する“故意死球宣言”として切り取られ、波紋を広げたのである。

 そうしたドラマ(?)もあり、大谷が所属するドジャースと同地区で対戦機会も増えるパドレスの移籍が決まった。これにより、コ・ウソクを「大谷翔平に死球予告の韓国投手」と紹介する日本のメディアも少なくなかった。

 おそらく故意死球について報じる日本のメディアからすれば、反響を呼びやすく、切り取りやすいネタだったために、取り上げたにすぎないのだろう。ただ、当人は“問題発言”について母国メディアで釈明している。それは紹介しておきたい。

 昨年12月に韓国の放送局『MBC』のインタビューでコ・ウソクは「自分は一度だって誰かに『わざとボールを当てろ』と教わったことはない」と告白。問題の発言に至った舞台裏も明かした。

「あの時、『大谷と対戦したらどう勝負するか』と質問されたので、最初は『ど真ん中に全力で投げてみたい』と答えたんです。そしたら記者の方々に『もう少しおもしろく答えてくれ』と言われたんです。それでああいう発言をしました。なので、誤解を招く言い方をしてしまった僕自身のミスではありますが、僕はああいう(故意に当てるような)野球を教わったことはないです。そういう形で報道されたことは正直言って悲しかったですね」

 コ・ウソクのコメントが確かならば、韓国メディアによって、自身の発言は曲解されたわけだ。となると、世界的な物議を醸すに至ったのは、いささか可哀そうではないか。

 奇しくもWBCを制した日本の主役となったのは、二刀流スターだった。彼は大会後のフラッシュインタビューで「日本だけじゃなくて韓国や台湾も中国も、もっともっと野球を大好きになってもらえるように、その一歩として優勝できたことがよかった」とアジア球界を慮る発言をし、話題となった。こうした発言を見ても大谷が“故意死球発言”を気にも留めていない様子が見て取れる。

 同じアジア人として――。海の向こうでの挑戦を決意した25歳を、必要以上に“敵視”するように取り上げるのではなく、素直に応援したいところだ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]