12月29日の大納会の式典にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表監督を務めた栗山英樹さんが出席した(撮影:梅谷秀司)

2024年の日経平均株価は、1989年12月のバブル経済絶頂時につけた史上最高値3万8915円を超える――。証券業界トップの間から強気の発言が相次いでいる。

「年内のどこかで日経平均は過去最高をつけ、4万円を超えることもあるのではないか」。そう話したのは、野村ホールディングス(HD)の奥田健太郎社長。昨年12月、東洋経済の取材に答えた。

大和証券グループ本社の中田誠司社長も、「日本株は年後半にかけて一段高が見込まれる。12月頃には過去最高値を更新する場面もある」とコメントした。

2023年は「卯(う)跳ねる」という干支にちなむ株式相場の格言どおり、相場が跳ねた1年だった。

日経平均は2万5834円で始まり、1〜3月こそ小幅な上昇にとどまった。だが、3月末の東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(PBR1倍割れ対策要請)などで5月にあっさり3万円を突破。3万3464円で取引を終えた。

大手3社の年末予想は3万円後半

今年の干支は辰(たつ)で、相場格言は「辰巳(たつみ)天井」。卯年からの上昇相場は、辰年や巳年に天井をつけるというものだ。それを意識したのかはわからないが、証券大手の株価予測は強気だ。

野村HDは2024年末の日経平均を3万8000円、SMBC日興証券は3万8500円、大和証券グループは3万9000円と予想する。各社とも、2024年中のどこかで日経平均がバブル時の最高値を超え、4万円をうかがうとしている。

強気予想の理由のひとつが国内企業の利益率改善だ。デフレからの脱却が本格化し、値上げが浸透しつつある。円安の水準が1ドル=130円台までに戻ったとしても、増益基調を確保できる体制が整っているという見方だ。

東証による要請で自社株買いや持ち合い解消も進み、EPS(1株あたり利益)が改善すれば、これも株価上昇の材料になる。

海外投資家による日本株への注目も高い。中国で景気減速や規制強化などの不透明な環境が続く中、アジア域内での投資先として日本市場への集中が昨年あった。「資産運用立国」を掲げる日本政府による後押しも相まって、この傾向は今年も続くという見通しだ。


新NISAなどがプラス要因

加えて、2024年は注目すべきイベントがいくつかある。

1月にはNISA(少額投資非課税制度)が拡充される。新NISAでは年間投資額が360万円、合計限度額が1800万円に拡充され、期間も恒久化される。これを機に「貯蓄から投資へ」の流れが加速し、約1000兆円ある個人の現預金の一部が株式市場に流れれば株価を上向かせる要因になりうる。

もちろんインフレが進めば、個人消費を冷え込ませる可能性がある。中小企業においても価格転嫁が浸透するなどで適切な賃上げが進み、実質賃金が支えられることが望ましい。その意味で3月頃から明らかになる春闘の結果にも注目だ。

連合は昨年末、ベースアップ分で3%以上、定期昇給相当分を含め5%以上の賃上げを要求する方針を決めた。6月には所得税・住民税の定額減税が始まる。個人消費をどこまで上向かせられるか。

金利の動きも重要だ。日銀は昨年12月の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の維持を決めた。今年はマイナス金利政策の解除など異次元緩和からの出口戦略が重要になってくる。長く続いたゼロ金利の時代が終わり、「金利のある世の中」がやってくるかもしれない。

アメリカでは金利引き下げが議論されている。ただ、為替レートに影響する日米金利差や世界経済への影響を考慮すると、金利上昇幅は大きくならないとの見方が強い。

大和証券グループ本社の中田社長は、「日銀が政策運営判断を変更したとしても、財政負担や住宅ローンへの影響を考えると、短期金利の引き上げは小幅にとどまるとみている」とした。金利が急上昇すれば景気が冷え込み、株価に悪い影響を及ぼすかもしれないが、そうした懸念も限定的というわけだ。

リスク要因はアメリカ大統領選

もちろんリスク要因はある。今年のアメリカ大統領選はその1つだ。

1月に共和党の予備選挙が始まり、11月に本選挙が行われる。現職の民主党・バイデン氏と前大統領の共和党・トランプ氏の争いになる可能性が高いが、選挙後の政策などをめぐって波乱も懸念される。

ウクライナやパレスチナ自治区ガザでは紛争が続いている。緊張状態にある台湾情勢も含め不測の事態が起きれば、市場への影響は当然避けられない。

日経平均が史上最高値をつけてから昨年12月で34年を経過した。大きな波乱さえなければ、2024年は日本株市場にとって「失われた35年」を取り戻す挑戦の年になりそうだ。

(高橋 玲央 : 東洋経済 記者)