オーストラリア時代の齋藤。海外経験を経て「許容範囲がすごく広くなった」。(C)Getty Images

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 ついに年が明け、2024年となった。本稿では、2023年のサッカー界における名場面を『サッカーダイジェストWeb』のヒット記事で振り返る。今回は、元日本代表アタッカーが勝手の違う海外生活を語った記事を再掲する。

記事初掲載:2023年10月3日

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 今夏からベガルタ仙台でプレーする齋藤学は、韓国の水原三星、オーストラリアのニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツでのプレー経験も持つ。同じアジアサッカーの括りの中でも、Jリーグとはあらゆる面で違いを感じたようだ。

 今回は日本代表でも活躍した齋藤が身を持って感じた、海外との差に迫る。

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――齋藤選手は韓国とオーストラリアのクラブにもそれぞれ1シーズン在籍していますね。日本との違いは感じましたか?

「全然違います。日本とは全く違います。韓国はすごくこう、日本への憧れって言うとちょっと語弊がありますけど…日本はちょっと先に進んでるって、多分、韓国の選手たちはすごく思っているので、トレーニングの仕方や考え方を聞きにくる選手が多かったです。

 あと表現がストレートなので、韓国では褒められるシーンが非常に多かったです。『一緒にやれて良かった』『来年もいてほしい』とか、普通に選手が直接言ってくることが多くて、すごく嬉しかったですね。

 試合の後とかにベンチ外の選手がバーって寄ってきて、『マナブのプレーを上から見てて、動きがこんなに戦術的なのはすごく参考になる』『今まで韓国を出てサッカーをやりたいと思ったことはなかったけど、僕はマナブに会って日本でやってみたいなと思えたよ』と言ってくれた選手もいました。若い22、3ぐらいの選手で、『あー良いやつらだな』って思っていました」

【動画】「そりゃあ良い選手だなって(笑)」プロ15年目の齋藤学が挙げたベストゲーム
 
――オーストラリアはどうでしょうか?

「やっぱり国民性として、ラグビーやクリケットだったり、オーストラリアンフットボールがメジャースポーツの1、2、3位に入ってくるので。日本や韓国みたいに、サッカーがメジャースポーツで、1、2を争うわけじゃないんですよ。お客さんがすごく多いかって言われたらそうでもないですし。サッカーをしてるけど、文化的なものも含めて、ラグビーをしてるかのような…。プレーの仕方などはやっぱり違います。サッカーでも国によってこれだけ文化が違うんだなとすごく思いましたね」

――「ラグビーのようなプレー」が少し気になります。

「外が空いてて、外に出すっていうよりかは、とりあえずボランチがドリブルで真ん中に突っ込むみたいな。日本だったらあんまりないというか、そこで取られる時のリスクも考えちゃうけど、とりあえず挑戦で、突っ込むシーンが多くて。僕が1回間で受けて、外にはたいてワンツーでもらおうと思ったら、『外じゃなくて、自分で真ん中を割いていけ』みたいな感じでした。割いていけというか、『真ん中でもっと行けるだろう』って言われて。その考えは自分の中にはなかったので、なるほどね、そんな考え方もあるんだなって。

 僕が行けたのはヨーロッパとかみたいにサッカーの最先端じゃないですけど、韓国やオーストラリアという違う国でプレーすることで、サッカーとしての知らない文化を多く知れました。僕の中で、サッカーをするうえでの許容範囲がすごく広くなったなと思います」

――ピッチ外も含めて、特に驚いた出来事は何でしょうか?

「試合後の食事がピザとか。オーストラリアも韓国もそうでした。オーストラリアはピザとかハンバーガー。韓国はピザとキンパ(韓国風海苔巻き)とかだったので、ほとんど食べなかったかな」

――日本だとどういったものが出てくるのでしょうか?

「チームによりますけど、日本だったら普通のお弁当が出てきます。向こうでは多分、食べやすいから、試合をして疲れてるから、なるべく食べろって意味で、それだと思うんですけど。食文化がちょっと違うのでなんとも言えないですけど、『ああそうなんだ。ピザか』って思ったことはありました」
 
――ピザでいえば、海外の代表チームのロッカールームに、ピザの箱が散乱している写真を見たことがあります。一方、日本では後片付けが世界から度々称賛されていますね。

「勝ったらみんな絶対に水をかけるので、それは汚くなりますよ。別にそんな悪気も何もないです。ただ勝ったからロッカーでみんなでお祝いをしようって。勝って、イエーイってやって、写真を撮って、何が入ってるか分からないボトルとかで、水の掛け合いをする文化なので、あの人たちは別にロッカーを汚くしようなんて思ってないですよ。ただ、やった後、汚いなってだけで」

――あえて、Jリーグとの具体的な違いも教えてください。 

「秀でているところで言ったら、韓国もオーストラリアもフィジカル的な能力。走るとか飛ぶ、ヘディング、キックの飛距離とかだったら、オーストラリアも韓国も、日本より上だと思います。ただ、サッカー的なもので言ったら、全然日本のほうが勝ってるかなと。Jリーグのほうが勝ってることが多いかなと思います」
――人気度で言うとどうですか?

「Jリーグのほうが全然人気だと思います。水原は人気クラブでしたけど、(観客数の)平均で言ったら仙台のほうが入ってるんじゃないかな。J2、J1の間ぐらいかな。オーストラリアは入って、4500から6000、7000ぐらい…そんないったかな? いってないぐらいなので。

 応援は自由です。応援はあるけど、ないに等しいし、盛り上がる時は本当、海外みたいに『わーっ』て、プレミアリーグみたいな。ただ、ああいう声や、地響きじゃないですけど、そういう感じは、オーストラリアとかはビールを飲んで叫ぶ文化なので、熱狂的です。

 それに試合が終わって、オーストラリアでは子どもたちがピッチに入れる時間があるんです。だから、勝っても負けてもめっちゃサインするんですよ。もうみんな乱入。最悪、大人が来てもいいんですよ。なので、普通に子どもの親とかも入ってきてるし。終わって4、50分ずっとサイン会みたいな。負けて本当に悔しいやつはすぐロッカールームに戻っちゃうけど、基本は子どもたちにひたすらサイン。それとかはすごく良い文化だなと思います。

 韓国ではそういう文化はないですけど、とても熱狂的です。水原は特にサポーターが熱いクラブだったので、僕はすごく好きなクラブです。負けた時のブーイングもそうですし、勝った時の喜びがより…多分、表現する力はやっぱり韓国人のほうが強いのかな。日本人より強いと思うので、勝った時に一緒に喜んでくれて、『ワーっ』ていうのはより感じますね」
 
――韓国では日本と同様に、野球も非常に盛んです。国内でのサッカーと野球の人気度はどのようなバランスなのでしょうか?

「野球のほうが人気なのかな…。でも、差はちょっとだと思います。韓国人はそこまでリーグに興味がないと思うんですよ。やっぱり代表戦とかなんですよ。大きいクラブ、大きい代表戦とかのほうが盛り上がる。入れ替え戦とか。水原でそういう時には1万 2000ぐらい入ったのかな。だから分かんないです。サッカーとそんなに変わらないんじゃないですかね。

 日本もサッカーと野球で行ったり来たりしますもんね。分からないですけど、それこそオーストラリアは、さっきサッカーの人気度は低いって言いましたけど、野球も思っていたよりは低いので。WBCをやってる時、日本とオーストラリアの試合の話もニュースもあまり耳に入ってこなくて。だから大谷翔平選手を知らないし、イチローさんも意外と知られていない。

『マナブ、明日の休みは何すんの?』って聞かれて、『決勝を見るよ』って答えたら、『え、何の決勝?』って。『野球。今、ワールドカップみたいなのやってんだよ、野球の』って言ったら、『そうなの? マナブ明日、野球見んだってさ!』みたいな。周りも『えー野球!』みたいな。大会が開催されていること自体、知らない人もいて、面白かったです。イチローさん、大谷選手を全く知らない人たちもいるので、もし誰にも知られていない場所で暮らしたいと思ったら、オーストラリアに住んだほうがいいかもしれません(笑)」

取材・構成●有園僚真(サッカーダイジェストWeb編集部)