最初は困惑した日本人の温かさ WBCで話題の“お菓子記者”が味より記憶に残る文化共有と親切心
【独占インタビュー後編】WBCで日本の食・文化を発信して話題になったクレア記者
野球日本代表「侍ジャパン」が列島を熱狂に包み込んだワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。大谷翔平投手らの大活躍が国民を勇気づけた一方、日本の食や文化を積極的に発信し、虜となったMLB公式のマイケル・クレア記者も野球ファンに愛される存在となった。
東京ラウンドから帰国後、オフィスでは「お菓子で有名な男のお出ましだ」と出迎えられたという。あれから9か月。「THE ANSWER」はクリスマス休暇直前のクレア記者に独占インタビュー。来日時の思い出や、日本のお菓子が繋いだ縁を今、改めて振り返ってもらった。後編は帰国後も続く日本のお菓子愛について。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久真大)
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「まだ日本のセブンイレブンのたまごサラダサンドイッチを探しているんだ。ここにも日系ベーカリーがあるんだけど、パンが違うんだよね」
ニューヨークの自宅からオンライン取材に応じたクレア記者は、満面の笑みを浮かべて懐かしんだ。WBC東京ラウンドの取材のため、3月に初来日。満喫した日本のスナック菓子やコンビニスイーツなどを自身のツイッター(現X)で発信すると、瞬く間に注目を集める存在になった。
投稿を見たファンや関係者から差し入れをもらうことも。「僕は特別な人じゃないのに」。思わぬ反響に最初は困惑したが、日本の文化を楽しんでほしい、と願う人たちの思いに共感を覚えた。
「自分たちの文化を共有したいと思うのは素晴らしいよね。最近チェコ代表の選手がニューヨークに来たから、彼を連れてビールを飲みに行ったりしたんだ。『気に入ってもらえるかは分からないけど、これが僕たちの好きなもの。あなたはどう思う?』という感じでね。同じように、お気に入りのものを僕と共有したいと思ってくれる人たちがいたのはとても素敵だった。試してほしいものは何だって喜んでトライするよ」
オープンな姿勢で異国の文化に挑戦した。お気に入りは「カルビーの全て」。ピザポテトやポテトチップスに心奪われ、帰国後は好奇心からじゃがりこと熱湯を混ぜてマッシュポテトを作ってみたことも。「スティック状のままのほうが好きだったね。バター風味で美味しかったけど、やっぱりそのままが一番だね」と屈託なく笑った。
日本で食べたイチゴクリームサンドイッチも忘れられず、自作に挑戦。再現は難しかった。「僕のキッチンでの能力はたかが知れているんだ」。あの味を、もう一度。来年11月開催の「第3回 WBSC プレミア12」での再来日を切望している。
お菓子の味より記憶に残る「日本人の温かさ」
反響は日本だけに留まらなかった。WBC東京ラウンドから帰国後、オフィスに戻ると同僚たちから「さあ、お菓子で有名な男のお出ましだ」と茶化されたという。「みんな僕がお菓子であれだけ注目を集めていたことを面白がっていたんだ」。日本から持ち帰ったお菓子を配ると、一気にオフィスは活気づいた。
それまであまり面識がなかった同僚も「日本のスナックがあると聞いたんだけど……」とクレア記者のデスクを訪れた。「もちろんさ! 試してみる?」。日本のお菓子をシェアし、新たなコミュニケーションが生まれた。「みんなとても気に入っていた。みんな新しいことに挑戦するのが大好きで、ハマっていたんだ」。職場で“日本菓子ブーム”の火付け役になった。
心奪われた日本のお菓子を、今も日系スーパーに立ち寄って定期的に購入している。「名前をド忘れしちゃったけど、小さなライスクラッカー(おせんべい)」が最近のお気に入り。中には「僕にはスパイシー過ぎた」という生姜チップスなど口に合わなかったものもあるが、日本文化に積極的に手を伸ばしている。
日本での滞在期間は「振り返ってみると、夢のようだったね。現実とは思えない、あまりに素敵な時間だった」と回顧。食べ物の思い出も忘れられないが、一番印象に残っているのは、それを紹介してくれた人たちだ。
「食べ物も覚えているけど、何よりも記憶に残っているのは、誰と一緒に食べたか、その時何をしていたかだね」
日本の食や文化を楽しんでもらいたい――。そんな思いで差し入れしたり、居酒屋に連れて行ってくれたりした人たち。9か月経った今でも、親切にしてくれた日本人への感謝の気持ちは忘れない。
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro-Muku)