「間違ってレモンサワーを頼んだのもあの日だ」 WBCから9か月、米記者が今も驚く日本の野球文化
【独占インタビュー前編】WBCで日本の食・文化を発信して話題になったクレア記者
野球日本代表「侍ジャパン」が列島を熱狂に包み込んだワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。大谷翔平投手らの大活躍が国民を勇気づけた一方、日本の食や文化を積極的に発信し、虜となったMLB公式のマイケル・クレア記者も野球ファンに愛される存在となった。
東京ラウンドから帰国後、オフィスでは「お菓子で有名な男のお出ましだ」と出迎えられたという。あれから9か月。「THE ANSWER」はクリスマス休暇直前のクレア記者に独占インタビュー。来日時の思い出や、日本のお菓子が繋いだ縁を今、改めて振り返ってもらった。前編は驚かされた日本の野球文化について。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久真大)
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大阪のファンが初来日のクレア記者を驚かせた。宮崎の強化合宿から「侍ジャパン」を追いかけていた同記者は、3月6日に京セラドームで行われた阪神との強化試合も現地で取材。大谷翔平投手(現ドジャース)が合流後、初めて実戦出場するとあって多くの注目を集めたが、贔屓球団を応援する声は世界を代表するスターにも負けないものだった。
「実のところビックリしたんだ。大阪のファンがこんなにも地元のチームを愛しているなんて。オオタニが現れたら、みんな熱狂して声援を送ると思っていたんだ。でも、声援はホームチームに対するもののほうが大きかった。素敵だと思ったよ。『オオタニは素晴らしいけど、私たちは自分のチームを応援するよ』って感じでね」
ニューヨークの自宅からオンライン取材に応じてくれたクレア記者は、にこやかな表情で日本での日々を振り返った。「間違ってアルコールドリンクを頼んでしまったのもあの日だったね」。球場内で販売されているレモンサワーをレモネードと勘違いして注文してしまった失敗談も笑い草だ。大阪ではたこ焼きも満喫。人生初の新幹線に乗って、決戦の地、東京に移動した。
東京ラウンドでの思い出話を始めると止まらない。「野球に関する話だと、傑出した瞬間が2つあるんだ」。そう切り出し、まず挙げたのは3月10日の中国戦でチェコ代表のマーティン・ムジク内野手が9回に放った逆転3ラン。さらに「オオタニの打撃練習。相手チームの選手も含めて、全員が座って見ていた。韓国とのライバル対決の前にも、韓国の選手たちが彼の打撃練習を見るためだけにグラウンド上に座っていた。それはずっと忘れられないね」と続けた。話はこの2つに収まらなかった。
東京ドームでの意外な思い出「国歌が演奏された後に…」
「オオタニが自分の看板近くに当てた豪州戦でのホームラン。さらに素晴らしかったのは、そこのファンが格別だったこと。ボールをキャッチした女性が、みんなが触れられるようにと周囲の人にボールを回していたんだ。私はその女性に取材もしたんだけど、アメリカだったら取り合いになるだろうし、誰かが盗んでしまうと思う。でも、そこではみんながボールを見られるように、写真を撮影できるようにしていた。信じられないよ。
オンジェイ・サトリア(チェコ)がオオタニから三振を奪った瞬間も際立っていたね。その後のやり取りも良かった。ロウキ・ササキ(佐々木朗希・ロッテ)がウィリー・エスカラ(チェコ)に死球を当てた後も同様だった。あとは豪州代表のティム・ケネリーの娘さんが『レッツゴー・ダディ!』と叫んだときに、日本のファンが一緒に応援していたことも覚えているね。とっても印象に残っているよ」
各国の戦いぶりはもちろん、選手同士の敬意に満ちた交流や、ファンの分け隔てのない声援がWBCを特別なものにしたと同記者は強調する。「野球のフィールド上で起こったことだけど、肝心なのはみんながどんな反応を見せたか。例えば、日本代表がチェコ代表に見せたリスペクト。オオタニが彼らの帽子を被ったり、サインを書いてあげたりね。そして、ビジターチームにも送られた声援。素敵だったね」。懐かしそうに目を細めた。
もう1つ、東京ドームには忘れられない意外な思い出があった。「毎日、毎試合、両チームの国歌が演奏された後に、シャキーラの曲がドームの中で流れていたんだ。いつも同じ曲でね。だから私の頭の中では、国歌を聞いたら『あれ? シャキーラの曲はいつ始まるの?』という感じになってしまったよ」。WBC期間中に日本の応援歌、特に村上宗隆内野手(ヤクルト)の応援歌にハマったクレア記者だったが、他にも耳にこびりついて離れない曲があったようだ。
来日中には自身のツイッター(現X)で次々に日本のお菓子や文化を発信し、大きな話題になった。帰国後のオフィスでは同僚から「さあ、お菓子で有名な男のお出ましだ」と茶化されたという。後編では、そんなクレア記者に日本のお菓子や食に対する愛を語ってもらった。
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro-Muku)