銀座コージーコーナーの店舗(写真は西友練馬店)。約430店舗を展開しており、今後も拡大の予定だ(写真:銀座コージーコーナー)

クリスマスと言えば外せないのがケーキだ。とくに子どもの頃に家族で囲んだデコレーションケーキが記憶に残っている人は多いだろう。

75周年を迎えた「銀座コージーコーナー」

ケーキの入手先としては、個人のケーキ店や著名パティシエのいる専門店などいろいろあるが、お父さんやお母さんが仕事帰りに買ってくるイメージが強いのは、アクセスのよい場所にあり、コストパフォーマンスがよいチェーン店だろう。

その1つとして、2023年に75周年を迎えた銀座コージーコーナー。1948年に銀座に第1号店をオープンし、1963年に大規模な洋菓子の工場生産を開始した。現在、埼玉県の川口市、鶴ヶ島市、神奈川県清川村の3工場の生産体制で、生ケーキから焼き菓子まで幅広く生産。

定番の「ジャンボシュークリーム」は1985年に誕生し空前の大ヒットとなった商品で、現在までに累計9億個を販売している。

店舗数は全国に約430店舗。白と赤のロゴが目立つ店舗は、郊外の駅前風景としておなじみだ。なお、2008年にロッテホールディングス、2022年にロッテの傘下に入っている。

ほかの洋菓子チェーンと比べてみると


苺サンドショート(直径15cm、4500円)。生クリームにいちごが映える、デコレーションケーキの定番だ(撮影:尾形文繁)

クリスマスなどの洋風なイベントだけでなく、ひな祭りや七五三などの昔ながらのイベント用にもデコレーションケーキを発売しており、高級感のある地名を冠したブランド名に反し、親しみやすさがある。


大ヒット商品、「ジャンボシュークリーム」(ホイップ&カスタード 162円)。片手で持てないほど大きく、ずっしりと中身が詰まっているのが嬉しい(撮影:尾形文繁)

ちなみに洋菓子チェーンとしてはほかに、不二家(1910年創業、949店舗)、シャトレーゼ(1954年、約790店舗)がある。それぞれチェーンとしての特徴があるが、シュークリームの価格を比べると、コージーコーナーのジャンボシュークリーム(162円)、不二家の窯焼きダブルシュークリーム(330円)、シャトレーゼのダブルシュークリーム(129円)。

コージーコーナーのジャンボシュークリームはその大きさも考えると、コスパのよさで人気のシャトレーゼにもひけをとらない価格設定と言える。


2023年のクリスマス向けに銀座コージーコーナーが発売した、15台限定の「クロンヌ ドゥ フレーズ」(5万4000円)。中央がいちごのショートケーキ、周囲がホワイトチョコムースの2重構造になっており、2つの味が楽しめる(撮影:尾形文繁)

このように、親しみやすさとコストパフォーマンスのよさが特徴となっている銀座コージーコーナー。そんな同ブランドが2023年のクリスマスに向けて、5万4000円の超高級クリスマスケーキを発売した。

「クロンヌ ドゥ フレーズ」、フランス語で「いちごの王冠」という意味を持つこのケーキは、クリスマスリースをイメージしたものだそう。表面を飾るたくさんのいちごやベリー、周囲を囲むピンク色のいちごジャム入りクリームがリースっぽさを演出している。


宮殿のように見える、クロンヌ ドゥ フレーズの断面(写真:銀座コージーコーナー)

しかしその真の美しさが現れるのは、ナイフを入れた瞬間だ。中央はいちごのショートケーキ、周辺がホワイトチョコムースの2重構造となっており、断面が尖塔を備えた宮殿のように見えるのだ。

職人の技術やこだわりをすべて込めたケーキ

直径約24cm、高さ約17cm、重さ約3kgというサイズ感で、15〜18人分を想定。15台限定で、予約受付は11月30日までで終了している。

コロナがほぼ収束したとは言え、物価高で財布の紐がかたくなっている昨今。銀座コージーコーナーはなぜ、この商品を発売したのだろうか。代表取締役社長の船田知秀氏に聞いた。

「当社は全国に手頃な価格で多くの商品を提供しているが、工場では職人が、当社ならではの技術を磨いてきた。その技術をきちんと世に知ってもらいたいという思いがあった。そこでこのたび、当社の職人の技術や素材へのこだわりをすべて込めた商品として発売した」(船田氏)


一番人気の「苺のショートケーキ」(529円)。いちごが美しく見える断面も、職人のこだわりだ(撮影:尾形文繁)

工場とはいっても、具材をスポンジに挟む、ケーキに生クリームを絞るなど、職人が手作業で行う工程も多い。トレンドを取り入れながら、どこまで機械で作り、どこから職人が作るかのバランスを考えるのも、開発では重要だという。

全国の店で同じものを、求めやすい価格で提供するには、当然ながら機械でできる部分を多くすることになる。それでいて、洋菓子らしい美しさ、繊細さがなくてはならない。両者を両立させるのが、コージーコーナーならではの職人の技術だそうだ。

今回の高級ケーキプロジェクトは、こうした職人の技術、こだわりなどを思う存分発揮できるよう、船田氏の号令で実現した。

職人には、「好きな素材を使うように」と指示し、自由に発想できるよう、価格も設定しなかったという。

表面のトッピングや中身にぜいたくに使われたいちごは茨城県産のブランドいちご。さらに素材同士の、味のバランスにこだわった。

例えば中心のいちごのショートケーキ部分を囲むように配されているムース、チョコプレートに使われているのがフランス産のホワイトチョコレート。乳味とコクがあり、いちごやラズベリーとの相性がよいという。

今後も高級ケーキを販売予定

12月23〜25日の間、銀座1丁目本店で受け取れる。かさも重さも結構あり、下手に持ち運び崩れてしまっては一大事。店舗から運搬する人は責任重大だ。

予約状況を聞いてみると、「11月のスタートよりお問合せを頂戴していたが、実際に予約が入り始めたのは11月後半になってから」だった。どんな人が購入したかは気になるところだが、購入者が限られているだけに、お客の情報は教えてもらえなかった。

船田氏によると、特注で2万円台のケーキも販売しており、高級ケーキの需要はあると考えていたそうだ。来年以降もクリスマス企画として続ける予定で、今回の反響も測ったうえで、次年度以降の計画も考えていくという。

上記の高級クリスマスケーキは、これまでの「銀座コージーコーナー」のイメージとは異なる、思い切った戦略だ。

しかし実は同社ではほかにも、小さなイメージチェンジが行われてきているようだ。


「ピスタチオベリース」(直径13.5cm、4300円)。濃厚なピスタチオのクリーム、甘酸っぱいベリームース、ココアスポンジと、味わいのバランスが絶妙な、どこか大人っぽいクリスマスケーキ(撮影:尾形文繁)

例えば一般予約のクリスマス用デコレーションケーキも、「ピスタチオベリース」(4300円)、「熊本県産和栗のスペシャルモンブラン」(5000円)など、ちょっと尖った印象のケーキをそろえている。

また、さまざまなカットケーキを組み合わせた「6つのクリスマスアソート」(3500円)は、イベント時にデコレーションではなくカットケーキの需要が増えているという市場に合わせて発売されたものだ。


6つのクリスマスアソート(直径15cm、3500円)。苺ショート、チョコレートケーキ、オレンジショコラ、抹茶のシフォン、苺のミルクレープ、栗のショートケーキの詰め合わせ(写真:銀座コージーコーナー)

ニーズの多様化に合わせ、品ぞろえも工夫

「当社は従来、お客さまから見ると『万人受け』というイメージが強かったのではないか。ニーズが多様化する中、いろいろなシーンで選んでもらえるよう、品ぞろえも工夫しているところだ」(船田氏)

とくに課題となっているのが、若い客層の取り込みだ。そのために同社が力を入れているのが「プチケーキ」。サイズが小さく、いろいろな種類を食べられることで昔から人気の商品だ。それぞれ種類の違う9個セットで販売しているが、ここ1〜2年は、1つのコンセプトでケーキを組み合わせるようになった。


熊本県産和栗のスペシャルモンブラン(直径13.5cm、5000円)※数量限定で、すでに販売終了(写真:銀座コージーコーナー)

例えば11月までの期間限定商品が「フクロウさんと冬じたく」(2916円)。白フクロウや森の木の実、果物、クマの川魚とりなど、秋の森の様子をそれぞれケーキに仕立てた。折って絵本にできる、ストーリーブックも添えられている。

最近では誕生日ケーキとしての需要も高い。プチケーキのセットにバースデーのプレートをのせて、カラオケボックスでお祝いをするのだという。

人気キャラクターとコラボすることも多い。クリスマスに向け販売されているのが「ディズニー/ピクサー クリスマスコレクション」(3200円)。キャラクターの姿をそのまま表したものならありがちだが、ミッキー、ミニー、『アラジン』のジャスミンなどのイメージをプチケーキで表している。ケーキを囲んで会話が広がりそうだ。


ノエルミルクレープ(518円)。抹茶スポンジの上に、カスタード入りクリームを挟んだクレープ、苺クリームをはさんだ苺風味のクレープを重ねたクリスマスカラーのミルクレープ(撮影:尾形文繁)

ゴールデンウィークにはポケモンとのコラボ商品を発売し、かつてない反響があったという。

「母の日まで販売を予定していたが、予想以上の反響をいただき、早期に完売してしまった。コラボ商品はこれまでの客層とは違うお客様に裾野を広げられるという意味で、期待している」(船田氏)

ニーズの多様化に加え、コンビニのスイーツも高品質化するなど、洋菓子の市場は厳しくなっている。その中で同社としてはどう競争力を維持していくのだろうか。

スイーツを囲む楽しさを追求していく役割

「トレンドは変わるが、スイーツに求める大きなニーズは変わらない。やっぱり多くのお客様は、定番の安心できる味を求めている。われわれの役割はそのうえでスイーツを囲む楽しさを追求していくことだと考えている。洋菓子専門店として、お客様のニーズに合わせた提案が大事だ。コンビニには身近さでは敵わないが、旬やトレンドを取り入れながら購入していただける頻度を上げていく。その意味でまだまだ市場を広げる余地があると考えている」(船田氏)


銀座コージーコーナー代表取締役社長の船田知秀氏は2022年4月に現職に就任。高級クリスマスケーキは同氏の発案だという(撮影:尾形文繁)

どこでも課題となっている原料費の高騰への対策としては、8月に値上げを行ったが、引き続き品質を維持しつつ、効率化によるさらなるコストダウンも進めていくという。工程の機械化、省人化がポイントとなる。

店舗数は増加しており、全国的にパートナー企業による運営店が増えている傾向にある。全国展開するうえで、地域の企業との連携が欠かせないためだ。今後も店舗数は増やしていきたいと考えており、まだ本格的に展開できていない、中国、九州への出店をまずは目指すという。

特別な日に食べるケーキは幸せの象徴だ。そのイメージを維持するためにも、老舗としての安定した経営が重要だろう。一方で、多様なニーズに対応し若い層を取り込んでいくために、挑戦も必要だ。5万4000円のクリスマスケーキに、銀座コージーコーナーとしての気概を感じた。

(圓岡 志麻 : フリーライター)