コンビニ流通の撤退を決めた日販。雑誌の売上高が激減する中での決断だったという(記者撮影)

出版取次(卸)大手の日販グループホールディングス(HD)が、2023年後半に入って業界を騒がせている。11月24日、コンビニ大手のローソンとファミリーマートへの雑誌流通から2025年2月末をめどに撤退すると正式発表したのだ。

10月には、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も出資する子会社が、「TSUTAYA」などのフランチャイズ事業をCCCから譲受。ほかにも東京・溜池山王駅に完全無人書店を開業するなど、書店ビジネスにおける取り組みも活発だ。

赤字に苦しむ中、足元では「日販が人員削減に踏み込んだ」(複数の業界関係者)という噂も飛び交う。一連の動きの背景やリストラの真偽について、中核子会社・日本出版販売の社長も兼ねる日販グループHDの奧村景二専務を直撃した(インタビューは11月中旬に実施)。

コンビニ流通をやめる決定的理由

――コンビニ流通から撤退を決め、業界に衝撃が走っています。

この10年間、800億円あったコンビニ取引の売上高が300億円まで後退している。一方、うちでカバーしているコンビニの軒数は約3万で高止まりだ。運賃はコンビニの軒数に応じて支払っているため、売り上げは減ってもコストは固定化してしまっている。

もちろん、他の固定費を削ってきたが、運賃は年々上がってきており相殺されてしまう。営業赤字がどんどんと膨らんでいくことから、2023年1月にコンビニ側と(雑誌流通の撤退について)話を始めた。

「それでも続けろ」「日販がやめるとは何事だ」と言う人が(出版社の中に)いることも事実だ。

――セブン-イレブンを担当する取次2強の一角・トーハンが、2025年中に日販のコンビニ流通網を引き継ぐと表明しました。ただ、移行に際して空白期間が発生する懸念も浮上しています。

引き継ぎを表明した取次(トーハン)が、(日販が撤退する直後の)2025年3月ではなく、7月からやりますと言った。じゃあ、3〜6月はどうするの?という話だ。結局、6月30日までは空白期間が生じないように、何らかの形で日販として取り組むことになった。

「この状況を作ったのは日販だ」というふうになっているが、いやいや、ちょっと待ってくださいと。次やる人が「3月」って言えばいいんじゃないの?というのが本音だ。あとは、トーハンさんに7月開始を守ってもらいたい。

――業界内では「日販が人員削減に踏み込んだ」という声も聞こえます。

10月に社内で早期退職支援を発表した。今、たくさん(新規事業などの)チャレンジはしているが、うちの将来を考えたときに、規模が大幅に拡大することはないだろう。それならば、事業に合わせた体制に変えていかないといけない。

対象範囲や規模、支援内容は開示できないが、新しい人生へと踏み出す社員のためにも、早めにキャリア支援をしてあげたほうがいい、という考え方だ。


奥村景二(おくむら・けいじ)/1964年大阪府出身。1987年関西大学経済学部卒業、日本出版販売(現・日販グループホールディングス)入社。大阪支店長、関西・岡山支社長、主要グループ会社であるMPD社長などを経て、2020年から現職(撮影:今井康一)

――10月、日販が51%、CCCが49%を出資する商材流通の子会社「CX(カルチュア・エクスペリエンス)」が、CCCからTSUTAYAなどのフランチャイズ事業を受け入れました。一部の業界関係者の間では、「この動きを受けた玉突き的なリストラだったのでは」と見る向きもあります。

CCCからCXへの出向者は約500人に増加したが、それとこれとは関係ない。いろんなことを言われるが、たいがい間違っている(笑)。

TSUTAYA事業を受け入れた真意

――1986年に業務提携して以来、CCCと深い結びつきを持つ日販とはいえ、TSUTAYAなどのフランチャイズ事業を連結子会社で受け入れるメリットは判然としません。

去年ヤス君(CCCの郄橋誉則社長)が、CCCの構造改革に伴い新しいTSUTAYAにしていきたいと(合弁会社への事業移管のプランを)説明してくれた。僕もびっくりしたんだけど、「あっ、(その手は)あるなあ」と思って。


デジタル化などの影響で業績低迷が続くTSUTAYA。写真は7月に閉店した武蔵小金井店(記者撮影)

僕自身もMPD(合弁会社の旧社名)を担当していたことがあるが、CCCのフランチャイズ本部のSV(スーパーバイザー)から日販の営業、MPDの営業までがTSUTAYA店舗に訪問するなど、重複業務が発生していた。

こうした面の効率化はもちろん、「店舗での体験価値についても、一緒に考えればいいんじゃないの?」というヤス君の話はスッと入ってきた。

――収益低迷が続くTSUTAYAは、将来的な展望も厳しいと思います。日販の取次事業がTSUTAYAの店舗網に依拠している関係性から、業界内では「CCCから押し付けられたのでは」と邪推する声も上がっていますが。

(TSUTAYAなどのFC事業は)今はまだ赤字ではない。

ただ、レンタルなど既存事業はもっと悪くなっていくし、トレカなどの新しい商材、(コワーキングスペースの)シェアラウンジや(フィットネスジムの)コンディショニングといった新業態の収益拡大にも時間を要する。

来期はちょっと(黒字維持が)危ないんじゃないかな、といった懸念こそあるが、さまざまな効率化によって黒字化する計画は立てられた。押し付けられたというよりは、今までは伴走者でしかなかったTSUTAYAに、当事者として関われるようになっていいかなと思った。


11月、出版社に向けて開催されたブックセラーズ&カンパニーの方針説明会(撮影:梅谷秀司)

――同じく10月、紀伊國屋書店が40%、日販とCCCが30%ずつ出資する共同仕入れの合弁会社「ブックセラーズ&カンパニー」も発足しました。これはTSUTAYAのフランチャイズ事業受け入れとひも付いた動きなのでしょうか。

やや意味合いが異なる。こちらはCCCの増田宗昭会長と郄橋社長が、紀伊國屋書店の高井昌史会長に「TSUTAYAと一緒に(書店が取次を介さずに、出版社から直接出版物を仕入れることで収益性を上げる)直取引で協業できるんじゃないか」と持ちかけたのが取っ掛かりだ。

各社が個別に現状の課題感を共有する中で、3月頃から3社での本格的な議論を始めた。

競合に劣っているとは思わない

――ブックセラーズ&カンパニーで日販は、出版物の販売実績に収益を左右される従来の取次モデルではなく、出版物の物流・精算業務を受託し、利益を創出できるだけの手数料を得るスキームを目指します。

「メーカーから仕入れて、小売りに卸すのが取次だ」という観念が抜けきっていなかったが、そればかりやっていたら(出版物の販売実績に連動するマージンがますます縮小し)儲からない。

すべての取引がここ(ブックセラーズ&カンパニー)に乗っかるわけではないが、一部分だけでもちゃんと儲かる姿にしつつ、従来の取次も施設の再編などコスト削減・効率化を進める。こうしたほうが、事業の持続可能性を担保できるとにらんだ。


――2023年3月期は4期ぶりの最終赤字となりました。直近では、日販と関係の深いトップカルチャー(CCCのFC大手)が第三者割当増資でトーハンを筆頭株主に迎え入れ、取次も日販からトーハンに乗り換えるといった動きも出ています。

(取引条件などの)差はない。物流やシステム、人材などの面で劣っているともまったく思っておらず、優位性はずっと担保できている。

彼らの判断の中で将来計画をどう立てたか、というだけの話かなと思う。あとは嫌われているか。

――一部の書店からは、「CCCとばかり新しいことに取り組み、ほかの書店が後回しになっている」といった不満も上がっています。

TSUTAYAは友好的なビジネスパートナーなので、言わんとすることはその通りかもしれない。TSUTAYAがほかの書店など、いろんな立場の人たちから毛嫌いされているのも知っている。

でも、TSUTAYAに寄り添うことを悪だとは思っていないし、僕らの戦略でもある。「TSUTAYAとは一緒に仕事しません」とは絶対言えないし、言わない。

もちろんCCC以外の書店にも、一緒に持続的な形をつくっていくため、今後もさまざまな施策を提案する。誠心誠意お付き合いさせてもらいたい。

陰で悪口を言われているのはよく知っているが、僕らは別に弱くなっているわけではない。取引構造や事業構造を変えて、取次機能を残していく。パートナーと組んで新しい事業もどんどん強化する。

「(日販がコンビニだけでなく)書店ルートの配送もやめる」という風説も立っているようだが、やめるわけがない。そんなことは絶対しないし、それを守るためにコンビニからの撤退を決断した。2〜3年経ったら、「あ、そうだったのか」と答えがわかるんじゃないか。

文具では「日本一の卸」を目指す

――実際に9月、書店へ提案する業態のモデル店舗として完全無人書店の「ほんたす」を開業し、注目を集めました。

本屋を守るために、いろいろとチャレンジしている一環だ。

今、書店業が成り立たない要因は家賃と人件費。その人件費なしで成り立つのであれば、と既存の書店からもすごく興味を寄せられている。業態としてパッケージで販売できるだろうし、何より(出版物の)商流を作ることができる。本屋さんじゃないところと組む可能性もある。


9月に開業した完全無人書店「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」(記者撮影)

――近年、出版物より採算性の高い文具の卸事業を強化し、一次卸となりました。7月には学研ホールディングスから知育玩具や文具のメーカーも買収しています。

本屋さんの中で、(収益の)けっこうな部分を文具が占めてきており、まだ伸びしろがある。コクヨや三菱鉛筆の社長とも、いろいろと話をできる関係になった。日販が取次を担う書店はもちろん、文具店や量販店などにも進出し、日本一の文具卸になりたい。

――中長期的な日販のグループ像をどのように描いていますか。

既存の取次事業が黒字で成立していて、新規事業も儲けが増えていくイメージだ。2025年度には、まあまあの(最終)黒字を計画している。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)