「誰が勝つかわからない」解説者・町田樹、例年以上にハイレベルなGPファイナル“勝負のポイント”を解説
12月7日(木)、フィギュアスケートのグランプリファイナルが中国・北京で開幕する。
日本勢は、世界王者・宇野昌磨を筆頭に男子3名(宇野、鍵山優真、三浦佳生)、世界女王・坂本花織を中心に女子3名(坂本、吉田陽菜、住吉りをん)が出場する。
大会を放送するテレビ朝日の動画配信サービス・テレ朝動画では、解説者・町田樹氏のスペシャルトーク映像を配信中。グランプリファイナルの展望を聞いている。
テレ朝POSTは、このインタビューの模様を2回に分けて紹介。1回目の本記事は「男子シングルの勝負のポイント」に迫る。
◆群雄割拠の男子。日本勢の前に強力なライバル
――いよいよグランプリファイナルが開幕します。男子はアダム・シャオ イム ファ、イリア・マリニン、三浦佳生、鍵山優真、宇野昌磨、ケビン・エイモズの6名が進出ということで、ハイレベルな顔ぶれですね。
町田:「相変わらず日本の強さが見えますよね。毎回ファイナルに日本から複数人選手が派遣されていますから」
連覇がかかる宇野、怪我から復帰した鍵山、2年連続進出の三浦が出場を決めた今大会。日本勢の層の厚さを世界に示した格好だが、立ちはだかるライバルの壁は厚い。
まずは、初戦・アメリカ大会でいきなり“300点超え”を果たした「4回転の神」ことイリア・マリニン(アメリカ)。
写真:AP/アフロ
町田:「ショートもフリーもほとんどミスなくまとめて、とりわけフリーの後半に難しい4回転のコンビネーションジャンプを盛り込んで206点というハイスコアを叩き出しました。総合得点310.47は、グランプリシリーズ6戦の中で男子の最高得点です」
――ちなみにマリニン選手、まだ4回転アクセルは入れていない構成ですよね。
町田:「彼は今シーズンジャンプを少しセーブして、表現力を強化するという方針です。4回転アクセルという秘技をセーブした状態でこの得点なんですね」
そんなマリニンをフランス大会で制したのが、アダム・シャオ イム ファ(フランス)だ。ともに300点超えの超ハイレベルな戦いで力を見せつけた。
写真:毎日新聞社/アフロ
町田:「(フランス大会は)今年のグランプリシリーズのハイライトでしたね。マリニン選手が圧倒的に4回転の種類が多いし精度も高いから、群を抜いていると思われていたところ、ダークホースかのごとくシャオ イム ファ選手がグングンと伸びて、一気に周りの選手を下した。間違いなくファイナルもこの2人のつばぜり合いになると思いますよ」
――シリーズの一戦で300点超えが2人いるというのはなかなかないですからね。
町田:「すごかった。そこに復帰した鍵山選手も入ってきて、まだジャンプ構成は落としながらも、GOEをたくさん獲得できるハイクオリティーのジャンプを決めて、堂々たる3位。今後のいい展望が見えるような演技でした」
写真:松尾/アフロスポーツ
――シャオ イム ファ選手は、昨シーズンもヨーロッパ選手権で優勝するなど結果を出していましたけど、「今年はかなりすごいぞ」と思わせてくれました。中国大会でも世界王者・宇野選手を上回って優勝しました。
町田:「宇野選手、ショートは堂々たる王者の風格という感じだったのですが、フリーでミスが出てシャオ イム ファ選手に1位を譲ってしまいました」
――宇野選手はこの試合が今シーズン最初の試合だったこともありましたが、シャオ イム ファ選手はこの大会も総合得点300点近いですし、安定感も相当高いです。
町田氏:「シャオ イム ファ選手は、4回転の神と言われるマリニン選手と世界王者の宇野選手、2戦連戦して両者を下すという、一気に男子フィギュアスケートの覇権を握るようなことをやってしまいましたね。しかし、宇野選手も今シーズン初戦でしたし、自己分析力や演技の修正力が抜群の選手ですから、今後さらにプログラムや技術を洗練させてくるのではないかと期待しています」
◆下剋上もありえる! GPファイナル注目ポイント
――では、町田さんが考える今回のグランプリファイナルの注目ポイントを見ていきましょう。まずひとつ目のポイントは、「ひとつの失敗が順位を大きく左右する」。
町田:「これは当たり前なことですが、ここまでハイレベルな戦いになったらみんなミスしない。そうなるとやはりミスした選手が負けていくという当たり前の結果になると思います。
そのなかで、今までのグランプリシリーズ2戦の平均得点を見ると、3群に分けられるのではないかと思います。まず1群は、300点超えを果たしているシャオ イム ファ選手とマリニン選手。そして 2群は280点台の鍵山選手と宇野選手。260点台の三浦選手とエイモズ選手が3群という形で、それぞれおよそ20点ずつ差が開いています。
写真:Mathieu Belanger/アフロ
この2戦の平均得点のデータで考えると、1群がトップ争い、2群が銅メダル争い、3群がその下に来ると予想されますが、注目してほしいのは2群の鍵山選手と宇野選手。ともに280点台ですが、まず鍵山選手は復調しきっていません。彼にとってはまだ最高度の構成にはなっていませんし、まだまだ難しい構成にする力を持っているので余力があります」
――実際シリーズ2戦目の日本大会(NHK杯)では、ショートで4回転を1本増やしたそうです。伸びていますからね。
町田:「はい、伸び代があるわけです。ファイナルで構成を上げてくると、いよいよ300点に手が届いて1群に迫る可能性が大いにある。宇野選手も(NHK杯では)回転不足の減点が響いてしまいこの点数になっていますが、パーソナルベストは300点台ですし、歴代最高得点の上位にいる。300点超えを狙える力を十分に持っているので、2群の選手が2人とも1群に乗り込んでいくという展開は大いにあり得えますね」
写真:毎日新聞社/アフロ
――鍵山選手も北京オリンピックで300点超えしていますし、6人中4人が自己ベスト300点以上というのは、かつてないぐらいレベルが高いですよね。
町田氏:「ただし、三浦選手とエイモズ選手が後れをとっているかというとそうではなく、上位陣がひとつでもミスすれば下克上で一気に畳みかけて順位が逆転することは大いにあります。三浦選手は世界屈指のジャンプクオリティーを持つ選手ですし、エイモズ選手も芸術性豊かなプログラムで、世界最高クラスの演技構成点を獲得できる選手です。結局何が言いたいかというと、誰が勝つかわからないということです」
――誰がどのジャンプを決めるかどうか、一つひとつが勝負の分かれ目になるということですね。
町田:「はい、今4回転を成功させることは普通なんです。みんな複数本入れて、みんな確率よく成功させられる。私たちの時代は成功するか否かみたいな感じで、成功すればものすごいアドバンテージをもらえました。でもみんなが普通に跳んでいる以上、それだけではダメで、クオリティをいかに高めるかが勝敗の鍵を握るわけです。
ジャンプやスピン、ステップのクオリティはGOEで評価されます。いわゆる出来栄え点と呼ばれているもので、難しい技をやればやるほどGOEで獲得できる点数は高くなる。昨今は、このGOEをどれぐらい稼ぐかという勝負になってきました。逆にクオリティが低かったら、GOEは減点されてしまいます。グランプリファイナルに登場するスケーターたちは全員、クオリティーの高い技を持っていますし、どの選手も練りに練ったプログラムを用意してきています。白熱した勝負になることが予想されますので、ぜひどの選手も応援してください」
町田樹氏へのインタビュー、次回は「女子シングルの見どころ」を語る。