2022年の大納会のゲストは脚本家の三谷幸喜氏で岸田首相も出席。2023年は東京会場では「2023WBC日本代表監督」栗山英樹氏の予定だ(撮影:梅谷秀司)

筆者は、日経平均株価は2024年中に3万6000円へと上昇すると予想する。それはアメリカ経済のソフトランディング達成が実現しつつある中、半導体市況の回復と円安が追い風となり、企業収益の拡大が引き続き期待されることが大きい。

同時に日本企業の賃金・価格スタンスがデフレ期から明確な変化を遂げ、拡大均衡を目指す方針に転換しつつある。これが株式市場に心地良いインフレの風を吹かすだろう。その間、日銀は先進国で唯一緩和的な金融政策を継続すると予想され、株価上昇を支持しよう。

ソフトランディングの定義を「景気後退を回避しつつ、インフレ沈静化に成功する」とするならば、アメリカ経済はすでにその状態にあると言ってもいいだろう。

GDP成長率は7〜9月期に前期比年率5%近い高成長を達成するなど、景気後退には程遠い状況にある。金融引き締め効果によって失業率が3%台後半へとやや水準を切り上げる中、インフレは顕著に減速し、今や家賃・食料・エネルギーを除いたベースでのCPI(消費者物価指数)は2%近傍まで低下している。

ウォラーFRB理事が示す「利下げシナリオ」とは?

インフレの原因として最後まで残存していた賃金についても、転職活動の活発度合いを示す自発的離職率が低下するなど、いろいろな指標が正常値に戻りつつある。これらに鑑みると、インフレ率を再び押し上げるには至らないと判断される。

こうしたデータが集まる下で、11月28日にはタカ派で知られているFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)のクリストファー・ウォラー理事が「あと数カ月、3カ月か4カ月か5カ月かはわからない。だがディスインフレが続き、インフレ率が本当に低下方向に向かっていると確信が持てれば、景気回復などとは無関係に、インフレ率が低下したという理由のみで政策金利を引き下げ始めることができる」と発言した。

一方、重要な半導体市況については好転が期待できる状況になってきた。日本の鉱工業生産をみる限り、半導体関連(電子部品・デバイスや半導体製造装置)の生産はいまだ上向いていないが、IT関連財の生産集積地である韓国や台湾ではすでに回復の兆候が散見される。

そこで韓国の製造業PMI(購買担当者景気指数)に目を向けると10月時点では49.8と小幅に50を下回っているとはいえ、1〜3カ月先の生産活動を読むうえで有用な新規受注・在庫バランスは夏場以降に明確な改善基調にあり、先行きの生産復調を示唆している。

世界的にスマホ販売は依然として低調であるが、半導体を含む電子部品の在庫調整が進展する下で、韓国においては半導体生産が上向き始めているのだろう。鉱工業生産における半導体生産は前年比で2割近い増加基調にある。

次に台湾に目を向けると、こちらも底打ちが明確化しつつある。11月20日に発表された10月の輸出受注は前年比マイナス4.6%へとマイナス幅が縮小し、2023年3月のマイナス25.7%から明確に底打ちしている。主力の電子製品がマイナス0.3%へとプラス圏が目前に迫り、情報通信技術(ICT)製品もマイナス5.2%と、やはり回復が明確化している。

円安進行が日本の株価指数を上昇に導く仕組みとは?

また台湾の電子部品の出荷と在庫の前年比差分をとった出荷・在庫バランスは3月のマイナス41.6%から急速に切り返し、直近値の8月はプラス0.4%と26カ月ぶりにプラス圏に回帰した。

今後、生成AI向けの先端半導体に加え、コロナ初期局面にあたる2020年に購入されたPCの一部が買い替え期に差しかかるなどして需要が持ち直せば、シリコンサイクルは次なる上昇局面を迎える蓋然性が高まる。中国経済の回復は遅々としているものの、IT関連財の在庫調整が進展し、製品需給が均衡点に向かいつつあると判断される。

円安も株価の押し上げ要因であると理解している。日本経済全体として円安がプラスに働くか否かは甲乙つけがたいが、ドル建て資産を豊富に有する企業(もちろん非製造業も含む)や輸出を手がける企業にとって、大半の場合は増益要因となる。

GDPに占める製造業のウェートは約2割にすぎないいっぽう、株価指数に占める割合はTOPIX(時価総額)でも日経平均(採用銘柄数)でも約6割と大きく、恩恵が及びやすい。円安局面において日本株がアメリカ株に対して相対優位となる傾向が見て取れるのは、それが一因だろう。

また、名目GDPが(付加価値の単価とも言うべき)GDPデフレーターの上昇を伴って拡大し、なおかつ長期金利の水準を上回っていることは注目に値する。直近4四半期において名目GDPは4%超の増加基調にあり、一気に600兆円の大台を視野に捉えている。GDPデフレーターの上昇は、輸入物価上昇を積極的に価格転嫁されていることに加えて、労働コスト増加が効いている。

毎月勤労統計ベースの所定内給与は1%台後半にすぎないものの、それでも約30年ぶりの上昇率であり、デフレ脱却を象徴する数値だ。この間、日銀が粘り強く金融緩和を継続していることで、名目GDP成長率と10年金利の差は拡大しており、マクロ的にみれば「調達金利を上回る投資機会が豊富に存在する」状態になりつつある。

もしその状態が長く続くと人々が確信するなら、企業は借り入れを増やし投資・雇用を拡大し、同時に投資家は株式の購入を進めるのが最適解になる。投資家の取ったリスクが報われやすい環境であると換言することもできるだろう。

年間9兆円強ペースの自己株買いが株価上昇に貢献

日銀が大幅な利上げを実施すれば一気に話は変わってくるが、現在得られている情報から判断すると、2024年の賃金上昇率は良くも悪くも2023年と同程度が見込まれている。その程度の賃金インフレであれば、利上げにつながる可能性は低い。したがって、「名目成長率>長期金利」の関係が続く可能性が高い。

そして忘れてならないのが、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの危機から脱却したい企業を中心に、資本効率の改善が期待されることだ。直近1年半程度、東証の要請が奏功する形で、日本企業は年間9兆円強のペースで自己株買いを実施し、需給、バリュエーションの両面で株価上昇に貢献している。

アメリカ経済が景気後退に陥るなど事業環境が大幅に悪化しない限り、こうした傾向は2024年も持続が期待される。そのようなマクロ環境の下でTOPIXのEPS(予想1株利益)成長率は1年、2年先ともに10%をやや下回る伸び率がコンセンサスとなっている。その通りに進捗すれば、日経平均の3万6000円は十分に達成可能と考えられる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(藤代 宏一 : 第一生命経済研究所 主席エコノミスト)