LVMHの最新の買収である、カリフォルニアに拠点を置くアイウェアブランドのバートン・ペレイラ(Barton Perreira)の買収は、ラグジュアリーの入り口となる商品やラグジュアリーカテゴリーの成長に着目し、製品の品質を介して差別化を図り、「静かなラグジュアリー」に注力することを反映している。

11月6日、LVMHは、設立6年のアイウェア部門テリオス(Thélios)がバートン・ペレイラを買収したと発表した。買収額は8000万ドル(約119.5億円)と報じられている。テリオスはLVMHとアイウェア・グループのマルコリン(Marcolin)との合弁事業としてスタートし、2021年以降はLVMHの単独所有となっている。同社は、ディオール(Dior)、ロエベ(Loewe)、フェンディ(Fendi)、セリーヌ(Celine)などLVMHのファッションブランド向けに、サングラスや眼鏡のフレームのデザイン、製造、販売を行っている。バートン・ペレイラに先立ち、テリオスは9月にフランスのアウトドア・アイウェアブランド、ヴュアルネ(Vuarnet)と、イタリアのアイウェアメーカー、サフィロ・グループ(Safilo Group)のロンガローネにある製造施設を買収している。

100%日本製で限定生産を行うメガネブランド



バートン・ペレイラは、オリバーピープルズ(Oliver Peoples )でCEOを務めていたビル・バートン氏と、同社のヘッドデザイナーだったパティ・ペレイラ氏が2007年に創業したブランドだ。2006年にオリバーピープルズをオークリー(Oakley)が買収した後、ふたりは同社を去っている。翌年、オークリーはルックスオティカ・グループ(Luxottica Group)に21億ドル(約3136.2億円)で買収された。2022年、アイウェアのリーダーであるエシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)の売上高は245億ユーロ(約4兆円)で、年間14%の伸びを記録している。エシロールルックスオティカは、レイバン(Ray-Ban)、シャネル(Chanel)、プラダ(Prada)を含む150以上のブランドのアイウェアを所有またはライセンス供与している。テリオスのCEO、アレッサンドロ・ザナルド氏はルックスオティカの出身である。

バートン・ペレイラCEOのビル・バートン氏は、ブランドをローンチしたきっかけについて次のように語る。「(オリバーピープルズで)やっていたことを、さらに高めることができると思っていた。つねに非常に高いレベルで製品を手がけるという信念があるので、ローンチした際にはどのような形であれ、製品に妥協しないと固く決意した」。

バートン氏は、ペレイラのデザイン力と100%日本での生産体制が、このブランドの製品第一主義を牽引していると語る。日本のメーカーとの関係は1988年までさかのぼるという。バートン・ペレイラのメガネは限定生産で、そのほとんどが400ドル(約5万9700円)から500ドル(約7万4600円)で販売されている。フィア・オブ・ゴッド(Fear of God)や「ジェームズ・ボンド」などのブランドとコラボレーションし、リピーターや若い買い物客が増えているとバートン氏は述べた。

LVMHは新規および現在の市場における成長機会を模索



LVMHにとって重要なセールスポイントは、バートン・ペレイラの日本での製造に加え、新しい市場や現在の市場における成長機会だった。バートン・ペレイラは現在、米国、カナダ、ヨーロッパで販売しているが、アジアではまだ販売していない。バートン・ペレイラにとって、テリオスのマーケティングに関するコミットメントと、ブランドの伝統を反映した「すばらしい製品」、そして米国とヨーロッパに近々バートン・ペレイラの新店舗をオープンする計画は魅力的だった。そしてもちろん、そこには安心感という要素もあった。

「私たちは小さな会社だったが、いまは大きくなっている。そして私が引退した後も、このブランドが大きな存在であり続けるだろうと思うと安心する」とバートン氏は話す。バートン氏とペレイラ氏、そしてチームメンバーの役割は買収後も変わることはない。また、今回発表された契約は11月中に締結された。

バートン・ペレイラは、ニューヨーク、アスペン、バートン氏の故郷であるカンザスシティなど米国で5店舗を展開している。だが、その売上の大半は卸売りパートナー経由である。また、バートン氏が長年培ってきた人間関係から、このブランドはローンチしてすぐにバーニーズ(Barneys)、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)、サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)、バーグドルフ・グッドマンのバイヤーに購入されている。

「光学製品以外の商品を扱うこうした百貨店に受け入れられることは独立系ブランドでは前例がない。シャネルやディオールに対抗することになるからだ」とバートン氏。「だが、これらの小売パートナーは私たちの成功にきわめて重要だった」。

とはいえ、同ブランドの売上の大部分は、眼鏡店、検眼士、眼科医によって販売されている眼鏡フレームである。

買収後も大量生産されることのない「静かなラグジュアリー」



ロロ・ピアーナ(Loro Piana)やベルルッティ(Berluti)などのいくつかのLVMHブランドは、ここ数年で人気の「静かなラグジュアリー」に分類される。同様に、バートン・ペレイラもこのカテゴリーに当てはまる。

ブランドが意図的にトレンドを避けていることについて、バートン氏は「私たちのフレームには不必要な装飾などはない」と言及した。「製品のフィット感とバランスを重視しており、パティはその外観のためにデザインしている。私たちは彼女のデザインに対するする純粋さを愛している。自分たちの方向性があり、それに耳を傾け、信頼しなくてはならない」。この春、ブランドはリムのないフレームを発表し、その後カテゴリーを拡大した。

LVMHの優先順位は一致している。「LVMHはラグジュアリー、つまり美しいラグジュアリーブランドを持ち、その可能性を最大限に引き出すことに本当に力を入れている」とバートン氏は言う。「LVMHはバートン・ペレイラがレイバンになることは求めていない。私たちのフレームが大量生産されることは決してないだろう」。

アイウェアを買収する大手ラグジュアリーブランド



独立系アイウェアブランドにとって、エシロールルックスオティカの規模は小売環境を厳しいものにしている。たとえば、オリバーピープルズの創業者ラリー・ライト氏の息子であるギャレット・ライト氏は2021年、成長資金の必要性を理由に、当時創業11年だったギャレット・ライト・カリフォルニア・オプティカル(Garrett Leight California Optical)の株式の過半数を売却している。

ギャレット・ライト氏は、11月初めのGlossyポッドキャストのエピソードで、「当社は多くのブランドよりも手が届きやすいが、同等の品質の製品を手に入れることができる」と語っている。「シャネル、プラダ、グッチといったラグジュアリーなデザインメゾンやブランドのなかには、当社よりも200ドル(約3万円)も高い眼鏡を販売しているところもある。しかも大量生産されている」。

一方、2014年に設立されたケリング(Kering)のケリング・アイウェア(Kering Eyewear)は、2021年以降、デンマークのアイウェアブランド、リンドバーグ(Lindberg)と米国を拠点とするブランド、マウイ・ジム(Maui Ji)、そしてフランスのアイウェアメーカー、UNTを買収している。

LVMHは10月に発表した最新の四半期決算で、売上高が前年同期比9%増とアナリストの予想を下回り、成長が鈍化したことを報告した。その後、LVMHの株価は今年最低水準まで下落した。

世界のアイウェア市場は、2022年には1070億ドル(約16兆円)だったと報じられており、2030年には一桁台の成長率で3238億ドル(約48.3兆円)に達すると予測されている。

テリオス以前、バートン・ペレイラには4人のオーナーがいた。バートン氏とペレイラ氏に加え、ブランドのCFO兼COOのロバート・フィドラー氏、元社内マーケターのティム・カディエンテ氏である。

[原文:Luxury Briefing: LVMH’s newly acquired ‘quiet luxury’ brand provides opportunity for growth]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)