佐久長聖高校からデビューした6人組グループ「7限目のフルール」。左から、片岡和さん、高柳咲彩さん、竹内花春さん、岡澤唯さん、丸山心優さん、勝見奏花さん(写真:松原大輔)

アイドルグループ「7限目のフルール」6人組の正統派アイドルだ。

同時にこのグループのメンバーは全員、佐久長聖高校の高校生という異色のアイドルグループとなる。

この春、佐久長聖高校に新設された「パフォーミングアーツコース」(アイドル育成コース)よりデビューした高校生たち。

高校生アイドルは数あれど、アイドルになるために高校の専門コースに入学し、日々研鑽を磨く彼女たちは今、高校生として、アイドルとしての新しい道を切り開こうとしている。

そんな「7限目のフルール」に迫ってみた。

*この記事のつづき:「『"教育としてのアイドル"1期生』に"本音"を聞いてみた」

長野市でデビューした6名の高校生アイドル

2023年8月10日、長野市でデビューした6名の高校生アイドルがいる。

彼女たちのグループ名は「7限目のフルール」全員黒髪、制服をモチーフとした衣装のいわゆる正統派ライブアイドルだ。

そして彼女たちは全員、佐久長聖高校・パフォーミングアーツコースの現役高校生なのである。

パフォーミングアーツコースというとわかりづらいが、今現在、同コースを端的に表すとアイドル育成コース」となる。つまりアイドルになるために設置されたコースだ。

近年、高校でも学べることの専門性が高まり、全国的にさまざまなコースや学科ができている。たとえば、eスポーツやプログラミングに関して学べたり、もちろん芸能に特化した高校もある。

ただ、その多くは通信制のサポート高校が多く、朝から学校に登校して授業を受ける形の全日制で設けているところはほとんどない

全日制の芸能科でいうと堀越高校のトレイトコース(芸能コース)などは有名なところだろう。堀越高校などは、すでに芸能活動を行っている学生が多く通っている

だが、「7限目のフルール」の彼女たちは、そもそもタレントでもなければアイドルでもなかった

まだ何者でもない女性たちがアイドルになるために、佐久長聖高校に入学したわけである。

通常、アイドルになるためには芸能・音楽事務所などのオーディションを受け、合格した人がデビューできる。

事務所もコンセプトもさまざまあるが、その大半が都市部を中心としている。もちろん、地方にも「ご当地アイドル」と呼ばれる地域密着型のアイドルは存在しているので、そういったところのオーディションを受け、アイドルになるのも選択肢のひとつだ。

今回、佐久長聖高校に新設されたパフォーミングアーツコースは、この流れに「新たな選択肢」として加わった形となる。

アイドルになるために佐久長聖高校の同コースに入学するという選択肢だ。


ステージデビューしてから4カ月あまりで、まだ初々しさも残る(写真:松原大輔)

全員長野県出身の1期生6名

今年、1期生としてアイドルになるために入学したのは6名。

岡澤唯(おかざわ・ゆい)さん(佐久市出身)
片岡和(かたおか・にこ)さん(長野市出身)
勝見奏花(かつみ・そな)さん(飯田市出身)
高柳咲彩(たかやなぎ・さあや)さん(中川村出身)
竹内花春(たけうち・はる)さん(佐久市出身)
丸山心優(まるやま・みゆう)さん(松本市出身)

いずれも長野県内出身。そして当然だがアイドル経験はゼロである。

入学した動機はさまざまだ。例えば、高柳さんはこう語る。


憧れのアイドルになり、3年間を楽しみたいという高柳咲彩さん(写真:松原大輔)

「小学生の頃から乃木坂46さんに憧れていて、いつかアイドルになりたいと思っていました。中学のときにニュースで佐久長聖高校のこのコースのことを知り入学を決めました。親も納得して応援してくれました

本人の「アイドルになりたい」という強い意志両親も「佐久長聖高校なら」という安心感が見事にマッチした。

対照的に竹内さんは、入学の動機は実にふわっとしていた。

「もともとはっきりとアイドルになりたいと思ったことはなくて……。でも、アイドルになれば、たくさんの人を笑顔にできるかなと思ったのがきっかけです。とくにやりたいことがなくて、それを見つけるために入学しました


アイドルになりたいことを伝えたとき、両親は驚いていたという竹内花春さん(写真:松原大輔)

アイドルになりたい!」「アイドルとして成功したい!」そんな確固たる意志があるわけではない。

しかし、ここに入れば何かきっかけをつかめるかもしれない。そんな想いで入学した。

アイドル活動が「学業の延長線上」にある

通常、事務所のオーディションではそのアイドル候補生が将来的にどれだけ売れるか、ビジネス的に価値を見いだせるかを優先に考えられる。

しかし、彼女たちの活動はあくまでも高校のコースの一環。つまり学業の延長線上にあると考えている。

ともすると、プロ養成コースと間違われやすいが、アイドルエリートを生み出すためのコースではなく、あくまでもアイドル活動を通してさまざまな可能性を探るというのが同校のシステムなのだ。

では実際に彼女たちはどういった日々を過ごしているのか。これは彼女たちのおおよそのスケジュールだ。


週間スケジュールのイメージ(佐久長聖高等学校HPより)

夕方までは通常の授業を受け、夕方以降、学校内にあるレッスン室にてダンスやボーカルのレッスンを行う。

土日はライブやさまざまなイベントに出演。都内での活動が多いため、その際は引率の先生が「高校のバス」を運転して都内の会場まで移動し、終わり次第、帰宅する

放課後に練習して、土日は試合という運動部のスケジュールを想像してもらえるとわかりやすいだろう。

アイドル部」ではなない

ここだけみると「それは『アイドル部』なのでは?」と思う方もいるだろう。事実、筆者も取材中そう思った。

だが、アイドル部ではないという。その違いはどこにあるのか。

そのひとつとして、アイドルは「プロとしての側面」も持ち合わせているということがあげられる。

土日の活動は課外授業の一環として先生が引率するが、あくまでダンスや歌のレッスン、ライブのブッキングなどはプロではないため、実際の運営は(株)オルファスに委託しており、そこからプロの講師陣がきて指導する仕組みをとっている。

また、ライブ活動は、通常のライブアイドルと同じく、物販での金銭の授受が発生したり、出演料が出ることもある。

ゆえに、間に民間企業が入ることでプロ、ビジネスとしての側面を解消する狙いがあるようだ。通常の部活動ではそうないことだろう。


左から岡澤唯さん、丸山心優さん、勝見奏花さん(写真:松原大輔)

そして、最もわかりやすいのは目標の設定だ。

部活動であれば、全国大会など各大会での好成績を目指し頑張る。また文化部では展示発表などもあるだろう。

「目指すべき目標」があえて曖昧なアイドル

では、彼女たちの目標はどこにあるのだろうか。

まず、グループとしての目標を運営を担うオルファス担当者に伺った。

「彼女たちがアイドルとして活動するのは、おそらく3年生の夏までです。そこでいわゆる卒業公演を行う予定ですが、その会場をどこにできるのかというのが、ひとつの目標設定としてあります」

デビューは地元長野市で300人を集めて行った。つまり、目標としてはそれを超えるライブを、たとえば都内の大型の会場で行えるかどうかということになる。

メンバー自身も「武道館でライブを行う」といった大きなものではなく、今自分自身がアイドルとして少しでも成長することに必死な様子だ。

たとえば、高柳さんは「乃木坂46さんに憧れているので少しでも近づけるように頑張りたい」と話す。

アイドルとしてデビューした彼女たちだが、アイドルである以前にそもそも全員が佐久長聖高校の生徒である。

メンバー6人は同じ教室で毎日授業を受け、放課後になればレッスン、土日にはライブという日々を送る。

高校生アイドルをしている人は大勢いるが、現状のライブアイドル界においては特殊な高校生アイドルと言えるだろう。

アイドルでありながら同時に「佐久長聖高校」の看板を背負ってステージに立っていることになる。

「佐久長聖高校の生徒である意識はあります。だからこそ礼儀、挨拶や感謝はつねに忘れないようにしています」

この点について勝見さんはこう話してくれた。

ほかのメンバーも同様に話しており、佐久長聖高校の教えのひとつとしてこの「礼儀」「感謝」が非常に浸透しているのがわかる。

「佐久長聖高校発」のジレンマもある

一方で、佐久長聖高校発のアイドルであることにジレンマを抱えはじめてもいる。

「確かに佐久長聖高校のアイドルとしてその看板は背負っている感じなのですが、『佐久長聖高校だから』ではなく、もっとアイドル『7限目のフルール』という名前を知ってほしいんです」

片岡さんは今の想いを素直に語ってくれた。

確かに、今現在彼女たちのトピックは“佐久長聖高校発のアイドルであることが優先される。あくまでもアイドル「7限目のフルール」として知ってほしい。「グループ名の知名度を上げたい」というのが率直な思いとなる。

とはいえ、現実的に彼女たちの活動は“学業との両立”や“週末のみの出演制限”など、非常に悩ましい問題だろう。

また特筆すべきは、彼女たちはライブアイドルという存在をみな一様に知らなかったことにある。

いわゆるメジャーの乃木坂46やAKB48の存在は知っており、ライブも行ったことがあるメンバーもいたが、ライブハウスでのライブ活動をメインとするアイドルのライブは行ったことがなかったのだ。

つまり、憧れていたアイドルと現在地との乖離が大きい状態にある。

高校のバスにゆられ、都内のライブハウスでほかのアイドルたちとの対バンライブ(複数のアイドルが決められた持ち時間で出演するライブイベント)に出演する。

かたや、事務所所属やフリーでファン獲得や売上達成のために日々必死になっているライブアイドルたち。かたや、アイドルコースの生徒として3年間頑張る」高校生たち

その立ち位置の違いは明確だろう。

高校生として学びのある充実した3年間を過ごす」ことを目的とするため、究極的には「売上を達成しなくてもいい」わけである。


左から片岡和さん、高柳咲彩さん、竹内花春さん(写真:松原大輔)

「最高の高校生活」の延長線上にあるアイドル活動

佐久長聖高校の佐藤康校長も次のように話してくれた。

「大人たちは子どもたちに夢を持てと言いながら、夢の中身によっては否定するという矛盾があります。夢はアイドル、それは典型ですね。その矛盾を親も子も解消できるコースと考えています。3年間頑張ることで、引き続きアイドルとして活動を続けたいメンバーは夢の継続、または、そこから派生する新たな目標ができたメンバーは次の夢も見られることになりますし、方向転換も計れます。そんな高校生活が送れれば最高と思っています」

彼女たちの夢は3年後もアイドルであるのか、それとも違うものになるのかそれはまだわからない。

だからこそ「新しい形のアイドルを見せてくれるのでは」という期待値も膨らむ。

アイドルにかける青春

言葉にするのは簡単だが、3年生の夏、彼女たちが見る景色は間違いなく青春そのものになるだろう。

*この記事のつづき:「『"教育としてのアイドル"1期生』に"本音"を聞いてみた」

(松原 大輔 : 編集者・ライター)