七五三のお金事情とは?(写真: プリンセススタジオ /PIXTA)

11月は七五三のシーズンですが、七五三にはどのくらいのお金がかかるのでしょうか?今さら聞けない七五三のお金事情について、山陰地方(鳥取・島根)で呉服店「和想館」を経営、『君よ知るや着物の国』の著作がある、着物と日本文化の専門家の池田訓之氏が解説します。

七五三の主な出費項目というと、主に神様への祈願代、衣装代、記念写真代、祝宴代になりますが、各代金の幅はかなりあります。

それぞれにどのくらいのお金をかければよいのか?それはこれからお話しする七五三という儀式の意味を知り、また相場を知れば、楽しく算出できると思います。

乳幼児が生き延びるのは大変だった

そもそも七五三は何のための行事なのでしょうか。今でこそ乳幼児は育って当たり前ですが、昔は「7歳までは神頼み」と言って、7歳まで生き延びるのは大変なことでした。

現在の乳幼児の死亡率は3%程度ですが、江戸時代にはなんと50%を超えていたのです。例えば、江戸時代の徳川11代将軍家斉公は40人の側室との間に55人の子供をもうけましたが、15歳以上生存者は21人、なんと34人(62%)が2歳未満で亡くなっています。

一般の家庭ではより生き延びるのは大変、死因のほとんどが天然痘やはしかなどの伝染病でした。7歳を超えてはじめて村の台帳に名前を登録したそうです。

そもそも数字には、奇数と偶数がありますが、数字は奇数から始まるので、奇数が陽の数で力が強いと信じられてきました。

そして最初の奇数の年、1歳のときには初誕生祝をします。明治になるまでは、年齢は数えで計算し、お正月がくるごとに1歳ずつ年齢を重ねていくので、誕生日の祝いは本来しませんでした。

しかし1歳だけは例外的に誕生した日に、餅を背負わせて、長く生きながらえるように祈願しました。その後、3、5、7と奇数年ごとに、神頼みを繰り返すのが七五三なのです。11月15日に参るのは「鬼宿」といって鬼が休む日で縁起がいいからです。

男女で儀式が異なる七五三

そして、七五三は、具体的にはそれぞれに儀式が異なります。まず3歳は、髪置きの祝いと呼ばれていて男女児ともに祝います。例えば平安時代には、男女とも生まれて7日目に産毛を剃り、3歳まで坊主頭でした。衛生状態が悪く髪の毛から病気を呼び込む危険が高かったからです。そして当日は、頭にぽんと白い綿帽子を置き、白髪になるまで生きながらえるようにと祈るのです。

5歳は、袴着の祝いと呼ばれ、男児だけが行います。男児の正装である、羽織、袴を身に着け、碁盤の上に立たせます、そして四方を拝み、碁盤から飛び降ります。碁盤が勝負を現し、勝負を制することができるように願をかけるのです。

7歳は、紐落としや帯解きの儀と呼ばれる女児だけの儀式。女子が、紐付きの着物から本仕立ての着物を、帯は着つけ帯をはずして大人と同じように帯を締め始めるのです。

これらの儀式とともに、神社に詣で、氏神様のご助力を請うのが、七五三の主な行事です。

このように、七五三は神事ですから、衣装は礼装着です。男児は黒紋付の着物と羽織に袴、女児は振袖に袋帯となります。サイズは、3歳と5歳は一つ身か三つ身、7歳は四つ身という大きさになります。女児の3歳は、まだ袋帯が大きすぎるので、軽く半巾帯を結び帯隠しに被布コートという上物を羽織るスタイルが多いです。

そして、礼装の着物には本来は家紋を入れます。五つ紋が一番正式で、背中の家紋にはご先祖様が、両胸の家紋にはご両親(父、母)が、外袖には兄弟、姉妹が宿るという意味が込められています。背や胸の家紋の位置は急所であり、家紋は着る人を守るお守りでもあるのです。

つまり、ご先祖、ご両親、兄弟姉妹を呼び込み、祝うために、紋入りの着物を着るのです。また家紋は家のルーツを現しており、暗黙に互いに礼をつくすという役割もあります。

そして、この七五三の着物は、男児なら夫方、女児なら嫁方のご祖父が作ってプレゼントしてきたものでした。しかし、最近はレンタルで済ますご家庭も増えています。相場は1万円くらいからです。買ってもあとあと着る機会がない、後始末が大変ということを理由にされているようです。

どうやって着物を長く着る?

しかしレンタルだと家紋がお家の家紋じゃないのでご先祖様とつながらなくなります。また七五三用に作った着物ですが、それ以外にも着る機会はいくらでもあります。礼装着とは洋服でいうとスーツ。スーツを着る場面で着物を着るのもよいのではないでしょうか。

また、着物を着ると帯でお腹をしめるので、自然に下腹(丹田)に氣が落ちて、心が落ち着くと言われています。帯で背筋が伸びる、草履で足裏から土踏まずの筋肉が刺激される、絹のたんぱく質は人肌と似ていると言われており、情緒が落ち着くといった効果もあるようです。着物は子供の心身を豊かにしてくれるのです。

着物は直線裁ちなので、糸を解けば一枚の反物に戻すことができます。長く着る予定がないときは解いてきれいに洗い布にもどし、また後々に仕立て直せば、保管は簡単だし末代まで使えます。

一式揃えれば少なくとも5万円くらいはかかりますが、何十年にもわたって着ることができて、最後は端切れとして使いきるとすれば決して高い買い物ではないのではないでしょうか。

7歳の命の峠を越えるための神頼みが七五三における一番大切な行事になります。祈願してもらうためのお代である初穂料は、5000円から1万円くらいです。

せっかくですから晴れの姿をきれいな写真に残したいですよね。スタジオ撮影であれば、台紙タイプからアルバム型まで、1万円くらいから10万円くらいまでいろいろあります。

さらに、より自然なかわいさを残すためにロケ撮影をされるご家族も増えているようです。最後のページには家族写真を1枚入れられることをお勧めいたします。ご家族も礼装着の着物姿だとより写真が映えるのではないでしょうか。

以上のように、七五三とは、子供が7歳の命の峠を越えきるための大切な儀式なのです。ですから、一連の儀式を済ませた最後には、親戚縁者をよんで盛大に祝うご家庭もあります。

特に千葉や茨城の農村地帯では、跡取りの披露を兼ねて、結婚式の披露宴ばりに、子供と親が座る高砂席が設けられ、親戚縁者をよんで、祝いの宴を開く風習があります。

100万円超える七五三もある


お色直しから余興まで、結婚披露宴と同じような手順で開催されるので、七五三披露宴と呼ばれています。ここまですると、七五三にかかる費用は100万円を超えることもあるようです。

親から子へそして孫へと、語り継がれ繰り返し行われてきた日本の風習、それが大戦での敗戦そして戦後教育により、プツンと糸が切られてしまい、どんどん形骸化してしまっています。七五三もその一例で、昨今は本来の意味も知らずに、通過儀礼として済まされていることが多いように感じます。

改めて七五三の意味を知っていただき、1000年以上にわたって続いてきた日本の文化を末代まで受けついでほしいと願っています。
 
(注:ここに記述した風習は地域によって異なることがあります。)

(池田 訓之 : 株式会社和想 代表取締役社長)