「ラグビー黄金世代」注目の大学生12人 リーチ2世、松島幸太朗2世など逸材多数
9月に始まった関東・関西の大学ラグビーも、開幕からそれぞれ4〜5試合ほどを消化した。対抗戦では日本一連覇を目指す帝京大、昨季ファイナリストの早稲田大、100周年を迎えている明治大がいずれも好調で、関東リーグ戦1部では東海大、関西Aリーグでは京都産業大も白星を積み重ねている。
そのなかで注目したいのは、今季から大学ラグビーに足を踏み入れたルーキーたちだ。
早稲田大の矢崎由高は「黄金世代」の筆頭格 photo by Saito Kenji
進学先の強豪校でも、いきなり戦力として重宝されている。今回はすでに公式戦で結果を残しているルーキーたちを紹介したい。
まずは、早稲田大1年のFB矢崎由高(やざき・よしたか)。身長180cm、体重85kgと恵まれた体躯を誇り、スピードとステップワークに長けたランナーだ。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
大阪から神奈川の桐蔭学園に進学した矢崎は、高校1年からレギュラーとして花園連覇に貢献。優秀選手にも選ばれ、同校の先輩になぞらえて「松島幸太朗2世」と称された。高校3年時は花園出場を逃したが、高校日本代表として躍動。そして今季から早稲田大に進学すると、春季大会では早明戦でデビューを果たし、2戦目の東洋大戦ではハットトリックを達成した。
【ワイルドナイツの練習場が遊び場だった】今年7月には高校日本代表からひとりだけ飛び級でU20日本代表に選ばれ、U20世代の世界大会に出場。5試合すべてに出場し、海外ラグビーサイトで「ベスト15」に選出される活躍を見せた。
「(U20の世界大会は)プロ選手が多くて一気にレベルが上がった。通用するところもあって、高いレベルのフィジカルやスピードを経験できたことが大きかった。大学選手権では『荒ぶる(早稲田大が優勝時のみ歌う第二部歌)』を歌えるように成長していきたい」
桐蔭学園の3つ上の先輩である早稲田大のキャプテンSO/CTB伊藤大祐(4年)は、矢崎にとって憧れの存在。伊藤と大学で同じグラウンドに立つことができるのは今季かぎり。「もう一緒にプレーできる時間は半年もない。練習のなかで吸収していきたい」と語気を強めた。
矢崎は来年もU20日本代表として世界で経験を積むことができる。今後の活躍次第では日本代表への招集、そして2027年ワールドカップの可能性も見えてくる。「まだ(W杯に)出たいとかではない。ひとつひとつクリアして、階段を登っていきたい」と語るとおり、まずは早稲田大「アカクロ」のエースへと成長してほしい。
一方、2023年ワールドカップ日本代表メンバーに卒業生を7人も送り込んだ王者・帝京大にも、注目すべきルーキーがいる。春季大会の開幕戦でいきなりデビュー&トライを挙げて、対抗戦でも活躍しているWTB/FB青柳潤之介(あおやぎ・じゅんのすけ)だ。
父はかつて三洋電機でプレーしたFLで、のちに大東文化大ラグビー部の監督を務め、現在は埼玉パナソニックワイルドナイツでFWコーチを務める青柳勝彦氏。息子の潤之介は小さい頃、群馬県太田市にあるワイルドナイツの練習場を庭のようにして育った。憧れはワイルドナイツのWTB竹山晃暉だ。
高校は自宅から通える強豪校・國學院栃木に進学。明治大に進んだSO伊藤龍之介とは「ノスケ」コンビと注目され、2年時は栃木県勢初となる花園決勝進出の大きな原動力となった。
【セブンズとの二刀流でオリンピックも目指す】進路は父と相談した結果、兄(CTB/WTB青柳龍之介3年)も在籍する帝京大に進学。ルーキーながら春から試合出場を重ねており、「強みは1対1。ボールを持てば行ける自信がある」と話す。その言葉どおり、対抗戦デビューとなった成蹊大戦ではハットトリックを飾っている。
帝京大は才能ある1年生を積極的に起用することでも知られる。ステップと判断力に優れ、スペース感覚も秀でている身長177cmのランナーに白羽の矢を立てた。今季はWTBとして出場しているが、今後はFBやSOへのコンバートも視野に入っており、将来はリーダーとして「紅き旋風」を引っ張っていくだろう。
3人目は、昨季の大学選手権でベスト4に入った筑波大から紹介したい。大学1年生ながら「国立大の雄」のエースとなりつつあるWTB/CTB/FB飯岡健人(いいおか・けんと)だ。
茨城県つくば市出身の飯岡は3歳から競技を始め、高校は千葉・流通経済大柏に進学。主にCTBとしてプレーし、花園や高校日本代表でも注目を集めた逸材である。184cmの長身で、力強いランだけでなくハイボールにも強く、セブンズのユースアカデミーにも選ばれている。好きな選手は元ニュージーランド代表のソニー ビル・ウィリアムズ。セブンズ日本代表にもチャレンジしてほしいタレントである。
今年4月の東日本大学セブンズに出場。東海大大阪仰星から入部した同じく1年生のWTB/FB増山将(ますやま・しょう)とともに、得意のランで9年ぶり4度目の優勝に貢献した。「いつかオリンピックに出てみたい!」と声を弾ませる、強くて速いランナー飯岡は、今後も注目の存在だ。
創部100周年を迎える明治大は今季、高校日本代表10人が入部した。そんな厚い選手層のなかでも、今年のルーキーは早くも出場の機会を得ている。
明治大ヘッドコーチを務める伊藤宏明の息子であるSO伊藤利江人(いとう・りえと)、FB竹之下仁吾(たけのした・じんご)、スピードスターのWTB海老澤琥珀(えびさわ・こはく)とHO木谷光(きたに・ひかる)が試合出場数を増やしており、報徳学園出身者が台頭しつつある。
【リーチも期待する京都産業大の新世代LO】対抗戦で巻き返しを図りたい慶應義塾大では、桐蔭学園出身のCTB/WTB/FB松田怜大(まつだ・りょうた)が面白い存在だ。
対する関西では、リーグ3連覇を目指す京都産業大のLO石橋チューカに注目したい。今季すでに出場時間を増やして気を吐いている。昨季は報徳学園の高校2冠に貢献して「リーチ マイケル2世」とも呼ばれた石橋。アメリカ・ニューヨークでナイジェリア人の父と日本人の母の間に生まれ、中学時代は相撲部でも足腰を鍛えた。
高校入学時は190cmの身長に対し、体重は70kgにも満たなかったという。それを高校3年時には90kgまで増やし、「関西屈指のNo.8」にまで成長した。大学ではLOとしてプレーするが、将来はFLへの転向も視野に入れている。憧れは、自身と同じくナイジェリアにルーツを持つイングランド代表FLマロ・イトジェだ。
「スピードと運動量が武器なので、そこだけは負けないようにしたい。『リーチ2世』と言っていただいていますが、(リーチを)見て学んで、それ以上のプレーをして日本代表になりたい!」
リーチからは「線が細いので、体つきや背中(の筋肉)を大きくして」とのアドバイスを受けたという。大学で最もトレーニングが厳しいと言われる京都産業大で体重を110kgにすることを目標としつつ、さらなる高みを目指す。
今季の関西リーグには、ほかにも楽しみな1年生がいる。トンガ出身で青森山田から入部した天理大のFBサイア・フィリモネ、立命館慶祥出身の立命館大WTB三浦遼太郎(みうら・りょうたろう)が早くも定位置を確保し、チームに欠かせない存在となっている。
日本ラグビーには何年かの周期で好選手の固まる世代がやってくる。今季の大学1年生たちが近い将来、「大畑世代(1975年度生まれ)」や「リーチ・田村世代(1988年度生まれ)」のように、日本代表を支える世代となる可能性は十二分にあるだろう。