真ん中高めの156キロ、力のあるストレートを阪神の5番シェルドン・ノイジーに捉えられると、高く上がった打球はライトポール際に飛び込んだ。

 オリックスにとって2勝3敗で迎えた日本シリーズ第6戦は2回、先発したエース・山本由伸が先制点を奪われるという展開で幕を開けた。


日本シリーズ第6戦で阪神打線から14三振を奪い、完投勝利を挙げたオリックス・山本由伸 photo by Kyodo News

【第1戦との違い】

「1回はいい感じで抑えて、2回はね。ホームランを打たれてちょっと動揺したのかなという感じはありましたけど、それ以外は本当に完璧でしたし」

 捕手の若月健矢がそう振り返ったように、初回を三者凡退で抑えた山本は2回一死からノイジーに先制本塁打を許すと、マウンド上で不安げな表情を見せた。

 つづく6番・佐藤輝明、7番・糸原健斗に連打を浴びて一、三塁。王手をかけられたオリックスは負けたら終わりのなか、第1戦を6回途中7失点で降板した山本の姿が脳裏をよぎった。

 阪神は甲子園で第4戦から2連勝し、一気にシリーズ制覇を狙う初回、先頭打者の近本光司が初球のストレートを強振。結果はレフトフライだったが、2回にノイジー、糸原がいずれも速い球を弾き返したように、初戦に続いて山本のストレート狙いだった。

「それは感じていましたけど、コースも高さもいいところだったので、真っすぐでアウトをとれましたし。僕もそこであまり変化球ばかりになるのもあれだなっていうのがあったので」

 試合後に若月はそう話したが、オリックスバッテリーが初戦と同じ轍を踏まなかったのは、真っすぐを生かすピッチングができたからだった。

 ノイジーに先制本塁打を浴びたあとの2回一死一、三塁の場面で、8番・木浪聖也にはフォークを3球続けて追い込むと、内角いっぱいに156キロのストレートを投げ込み見逃し三振。

 9番・坂本誠志郎に死球を与えて満塁とすると、今シリーズ絶好調の1番・近本光司を打席に迎える。初球は外角低めのカーブでカウントを稼ぐと、ストレートを続けてファウル、ボール。そして4球目、外角低めに落ちるフォークを振らせて無失点で切り抜けた。

「4回、5回くらいからすごく調子が取り戻せたので、そこからは思いきっていくだけでした」

 山本がそう話したように、序盤のピンチを凌ぐと尻上がりに調子を上げていった。4回にも一死一、三塁の場面を迎えたが、9番・坂本誠志郎は低めのフォークを3球続けて空振り三振。1番・近本には初球のストレートをライトに大きな当たりを弾き返されたが、森友哉がフェンス際で好捕した。ピンチで低めにフォークを集める集中力と、力のあるストレートは山本らしい姿だった。

「変化球もすごくいいボールが多かったのと、もともとそこまで真っすぐが多いわけではないので。いい感じに1試合を通してバランスをとれたかなと思います」

 初戦との大きな違いはカーブでカウントをとれ、勝負球にも使えたことだった。

【日本シリーズ記録の14奪三振】

 加えて、カットボールもうまく織り交ぜていた。ストレートより10キロ近く遅いカットボールは、ともすれば"半速球"になってバットに当てられるケースもあるが、この日はストレート狙いの阪神打線に有効だった。

 捕手の若月にそうした配球について聞くと、前回の反省を生かすことができたと振り返っている。

「前回はカーブを減らしてしまったけど、(今日は)どんどん使えました。今日に関してはけっこうスライダーも投げましたから。あの球はたぶん頭になかったんだと思いますし、それがよかったのかなと思います」

 スピンをかけて強く投げるという山本のカーブは120キロ台中盤から後半だが、この日は121キロの球もあった。三者凡退に抑えた6回の勝負球はいずれもカーブだった。

 初戦は制球に苦しみ、一度も勝負球として投じられなかったカーブだが、第6戦では試合前に位置づけをうまく整理できたと、若月は明かしている。

「試合前に『そんなに速くなくてもいいから、しっかりカウントだけはとっていこう』っていう話をしていて、カウントがとれていたので。2ストライク後とか、とくに。そこから(うまく使って)いけたのかなと思います」

 最速159キロのスピードボールを誇る山本だが、本人が語るように、1試合のなかで投げるストレートの割合は平均で半分に満たない。言い換えれば、カーブやフォーク、カットボールをうまく織り交ぜながら、すべての球を勝負球にできるのが持ち味だ。その真髄を見せたのが、4対1で迎えた7回だった。

 今シリーズで好調を維持する先頭打者の8番・木浪に対し、初球はカーブが抜けて外れると、フォーク、ストレートで追い込み、4球目は外角低めのフォークを振らせて三振。つづく9番・坂本誠志郎には初球は外角低めのカットボールで空振り、2球目はカーブが外れ、3球目はフォークがファウル。そして4球目は153キロのストレートを真ん中に投げ込み空振りを奪った。

 二死からから1番・近本、2番・中野拓夢にいずれもフォークを打たれて一、二塁となり、打席に迎えたのは3番・森下翔太。ここまで3三振のルーキーに対し、初球は真ん中低めに落ちるフォークでストライク。つづく2球目、今度は内角高めに153キロのストレートを投げ込むと、セカンドフライに打ちとった。フォークとストレートで高低差をうまく使い、ルーキーに格の違いを見せつけた格好だ。

「7回くらいにベンチ裏で球数を数えている時に『(今日は球数の)制限ないよ』と言われました。(中嶋聡監督から?)はい。ちょうど通りかかって。冗談半分ですけどね」

 山本は8回を三者凡退で抑えると、9回もマウンドへ。合計138球を投げて、9安打を打たれながらも日本シリーズ記録の14三振を奪い、1失点で完投勝利を飾った。

「すごくいい感覚を取り戻せましたし、これはいけるなと思ったので、どんどん投げ込むことができました」

 もし次のイニングがあっても続投できるのでは......と思わされるほど、尻上がりに調子を上げていった。

 山本自身にとって、日本シリーズ5度目の先発で初勝利。今シリーズを3勝3敗のタイにしたオリックスにとって、リリーフ陣をひとりも使わずに最終戦へ持ち込めたのは大きい。山本にそう聞くと、頷いたあとにこう答えた。

「そうですね。ブルペンにはすごくいい投手が多いですし、今日投げたとしても2連投なのでいつもどおりかなと思いますし、明日はとにかくみんなで気合を入れてやるだけです」

 オリックスは負けたら終わりのなか、勝利に導いたエースの熱投をどうつなげるか。白熱する今シリーズは、いよいよ最終決戦を迎える。