7回を投げ終えて被安打4で無失点、球数は83球。日本シリーズ第5戦に先発したオリックスの田嶋大樹はストレート、変化球ともに冴えわたり、球数的にはまだ余力を残しているように見えたが、2対0で迎えた8回裏、中嶋聡監督は継投策に出た。阪神打線に芯で捉えられる球が増えてきたことと、リリーフ陣への信頼からだった。

 一方、田嶋を打ちあぐねていた阪神の岡田彰布監督は、そろそろ交代すると考えていた。

「もう代わると思っていたよ。7回(の田嶋の打席)も代打が来るかなとな。(代打で)野口(智哉)が来たら、そこで(同じ左の)島本(浩也)を行く予定やったんよ」

 結果的にはオリックスの継投が裏目に出て、田嶋の好投を勝利に結びつけることはできなかった。


日本シリーズ第5戦、8回に逆転の三塁打を放ちガッツポーズする阪神・森下翔太 photo by Kyodo News

【裏目に出た継投策】

 投手交代で試合の潮目が変わったのではないか。そう聞かれた阪神の7番・坂本誠志郎は、「でも」と即答して続けた。

「オリックスの中継ぎは、山粼(颯一郎)くんも宇田川(優希)くんもそんなに簡単に点をとれるピッチャーではないので。田嶋くんもすごい球がきていたし、ナイスピッチングをしていたけど、そんなこと言ったって点をとらないと勝てないので。みんな、打てないからって引くような選手でもないし。なんとか、どんなピッチャーもこじ開けて......と思っていました」

 2対0とリードしたオリックスは8回、コンディション不良で第3戦から2試合続けてベンチから外れていた山粼を2番手に送った。この日は今シリーズで好投してきた小木田敦也が3連投を避けるためにベンチ外、不調の山岡泰輔もベンチから外れ、中嶋監督は迷いなく山粼を選択した。

 対して阪神は、低めに外れる変化球をうまく見極め、コンパクトなスイングで甘い変化球や強い速球を弾き返すという、今シリーズで徹底している打撃でオリックスのブルペン陣を攻略した。

 先頭打者の8番・木浪聖也はストレートを一二塁間に叩きつけ、内野安打とセカンド・安達了一の悪送球で二塁へ。ここで岡田監督は糸原健斗を代打に送る。

「(逆転劇は)最初、糸原のあれが大きかったな」

 指揮官がそう振り返ったように、ファウルで粘った糸原は7球目のストレートに対してバットを内側からうまく出し、レフト前に落として一、三塁とチャンスを拡大した。

 絶好調の1番・近本光司がライト前タイムリーで1点を返すと、つづく中野拓夢が送りバントを決めて一死二、三塁とする。ここでオリックスの中嶋監督は、3連投となる宇田川にスイッチ。山粼は変化球にキレを欠いていたことに加え、絶体絶命のピンチを切り抜けるために、高めのストレートと鋭く落ちるフォークで三振を狙える宇田川に託したのだろう。

 かたや、岡田監督は3番・森下翔太にセンター返しを意識するように伝えると同時に、代走で出た三塁走者の植田海には「ゴロゴー」のサインを出していた。

【ミスを取り返したい一心】

 甲子園の9割5分を埋める阪神ファンのボルテージが上がるなか、一打逆転の場面で打席が回ってきた森下には是が非でもという強い気持ちがあった。7回表、ライトに飛んできたゴロ(セカンドゴロエラー)を素手で捕りにいき、後逸するという凡ミスで追加点を与えていたからだ。

「エラーしたあとも(木浪)聖也さんとか熊谷(敬宥)さん、いろんな人が声をかけてくれました。『おまえも声出していけよ。必ずチャンスで回ってくるから』って言われていて、本当にチャンスが来たので集中していきました」

 初球は内角高めのフォークが抜け気味でストライクとなり、ストレートが3球続いて2ボール、2ストライク。オリックスバッテリーはフォークを2球続けて空振り三振を狙いにいったが、森下はなんとかバットに当てた。

 勝負の7球目。オリックスの捕手・若月健矢は真ん中高めにストレートを要求したが、宇田川の投じた152キロのスピードボールは引っかかり気味になって低めのボールゾーンに向かう。森下はコンパクトに振り抜くと、打球は右中間を破る三塁打となってふたりが生還。阪神が一気に逆転した。

「ミスを取り返したいっていう思いしかなかったので......。(ガッツポーズは)感情が出ましたね」

 大卒ルーキーは強い気持ちを持つ一方で、ボールの待ち方は冷静だった。

「コントロールは多少アバウトに来ると思っていました。そこまでインコースとは狙わず、フォークか真っすぐか。フォークは(低めを振らないように)高さだけ気をつけながら、真っすぐを打ちました」

 つづく4番・大山悠輔がセンター前タイムリー。オリックスの4番手・阿部翔太から7番・坂本が2点タイムリー三塁打を放ち、阪神はこの回に計6点を奪って試合をひっくり返した。

 最終回は守護神の岩崎優が3人で締めて逃げきり。痛いミスで失点しながら、全員の力でなんとか取り返そうという気持ちを前面に表し、コンパクトでしぶとい打撃でオリックスの強力ブルペンを攻略してみせた。

「明日はちょっとゆっくり休みたいですね」

 前日に続き、勝利監督インタビューの第一声で超満員の阪神ファンを爆笑させた岡田監督は、裏の通路で待ち構える報道陣に対してその意図を説明した。

「こんなに緊張感あるなかでずっと休んでなかったからな。最初から、今日の勝ち負けに関係なく、明日は休もうと思っていたよ。ここまで来て、万全の体勢にしたいしな、明後日(の第6戦)。みんな、気が張り詰めてここまで5試合きたわけやから」

 甲子園での3連戦では地鳴りのような大声援にあと押しされた阪神が1敗のあとに2つ続けて勝ち、3勝2敗で王手をかけた。第4戦で139日ぶりの一軍登板を果たした湯浅京己が5戦目には8回を三者凡退、2奪三振で流れを引き込むなど、いい形で勝利して勢いづいている。

 対して、本拠地・京セラドームに戻るオリックスはどう立て直してくるのか。関西ダービーの頂上決戦は、いよいよクライマックスを迎える。