イングランドは自分たちのやり方で戦い、散った ラグビーW杯、勝ち負けを超えた1点差の名勝負【フォトコラム】
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
連日熱戦が繰り広げられているラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は21日(日本時間22日)に行われた準決勝で南アフリカに15-16で敗れたイングランドから。
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前半19分、南アフリカの攻撃からゴールを守り切ったイングランドのマロ・イトジェが目の前で吠えた。チームの勢いを表す様な雄叫びは、イングランドの勝利を予感させた。王者南アフリカとラグビーの母国イングランドの準決勝。波乱の試合展開を確信し、夢中になってシャッターを切った。
台本通り、筋書き通り、イングランドの思う様な展開に試合は進んだ。堅い守りで南アフリカをゴールに寄せ付けずキックで前進、ペナルティーキックで点数を重ねた。じわりじわりと、ゆっくりと南アフリカを仕留めにいく。
選手たちの表情から伝わってきたのは戦略に対する確固たる自信だった。イングランドの誇り高きプライドを感じさせる試合展開だった。
いい意味で予想外だった。驚きが喜びに変わる。やはりラグビーはやってみないとわからない。イングランドには申し訳ないが、試合前の予想では南アフリカの圧勝だと思っていた。
後半13分、オーウェン・ファレルがドロップゴールで南アフリカを突き放す。ゴールが決まった瞬間のファレルは、勝利を確信したかの様に“ドヤ顔”を見せた。「自信」が「慢心」に変わると、勝利の女神は外方を向く。小さな綻びからトライを許し、劇的なペナルティーキックで逆転された。これがラグビー、これぞラグビー。
試合後のピッチ、「なんてこった。笑っちまうぜ」と言わんばかりの表情を見せるジョー・マーラー。ただその微笑みからはイングランドのラグビーを貫いた誇りが伝わってきた。自分たちのやり方で戦い、散った。勝ち負けを超えたプライドの戦いを見た。文句なしの名勝負だった。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表の試合撮影のほか、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモト アキト / Akito Iwamoto)