左からドコモの前田義晃副社長、井伊基之社長、マネックスグループの松本大会長、清明祐子社長兼CEO

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左からドコモの前田義晃副社長、井伊基之社長、マネックスグループの松本大会長、清明祐子社長兼CEO
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「マネックスグループとNTTドコモの提携」について。

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マネックスグループとNTTドコモが提携。驚きのような納得のような、奇妙な感想を抱いた人が多かったのではないか。両社は資本業務提携を結び、マネックス51%、ドコモ49%の持株会社を設立。ただ取締役の過半数はドコモ側に指名権があり、マネックス証券はその連結子会社となる。

マネックスはSBIと楽天に口座数で大きく負けていた。しかもSBIと楽天は国内株式の手数料を無料化しており、このままでは現状打破の一手がない。

いっぽうドコモは、携帯電話事業でauやソフトバンクと拮抗(きっこう)したまま。通信事業以外の柱を大きく育てるとしたが、金融分野で後れをとり、携帯ユーザーアカウントと金融サービスとの紐(ひも)づけや、ポイントを活用した運営は、いささか他に先行されすぎの感があった。いまや国民の多くがソフトバンク系のPayPayを使い、獲得ポイントで知らぬ間に投資信託を運用しているというのに。

そして、2024年に始まる新NISAに向けても各社は準備万端だ。「このギリギリのタイミングでもマネックスやドコモは動くんだね!」と感じたが、やはり新NISA開始の好機を逃すことはできないのだろう。

新NISAは分配金と譲渡益が非課税になる投資枠が年に360万円、総額上限が1800万円と大きく拡大した。簡単にいえば、たくさん投資しても税金がかからなくなる。これは凄いよね。だって1800万円も貯蓄している家庭ってどのくらいある? その全額をNISAで運用しても非課税になるんだよ。岸田文雄政権の目玉政策ともいえる。証券会社がワショーイと新規顧客を寄せるための祭りを実施中だ。

ドコモからすれば、自社の基盤であるユーザーをマネックスと共有するのは難しい。だから単なる業務提携ではなく、持株会社の子会社化が必要だった。そして提供する金融サービスは、単なる株式や投資信託の売買では差別化ができない。売買に手数料が必要なら、その手数料分の付加価値を感じてもらう必要がある。

差別化や付加価値という意味で、私はマネックスグループに好印象を持っている。株価を読む多数のアプリやツールを提供しているし、セミナーやイベントでユーザーとあれだけ対話をしている(いた)トップは松本大(おおき)さん(マネックスグループ現会長、前CEO)くらいしかいなかったのではないか。

ドコモとすれば、これをdポイント経済圏創出の嚆矢(こうし)としたいところだ。さらにドコモショップという日本津々浦々の最強インフラもある。

ところで最後に、携帯会社と証券会社の方々へ提案。日本の個人金融資産は最新の調査で2043兆円もある。途方もない数字だ。このお金が日本の金融市場に流れ込まねばならない。そうすれば株価の上昇が生活を豊かにすると国民は実感できるだろう。逆に株価を上げられない企業を放置しつづける証券取引所にも、国民は関心を持つだろう。

そこで、全国の携帯ショップで気軽にインデックスファンドを買えるようにしたらいい。「毎日の買い物のお釣りを持ってきてください」と宣伝する。スマホで投資信託を売買できるシニアは多くないが、携帯ショップには行く。法改正は必要だが「シン・通信金融事業」にはこれくらい必要では。

●坂口孝則(Takanori SAKAGUCHI) 
調達・購買コンサルタント。電機メーカー、自動車メーカー勤務を経て、製造業を中心としたコンサルティングを行なう。あらゆる分野で顕在化する「買い負け」という新たな経済問題を現場目線で描いた最新刊『買い負ける日本』(幻冬舎新書)が発売中!

写真/時事通信社