「昭和歌謡」でファンの心をつかむ「myunとyayo〜」(写真:尾形文繁)

ファンに笑顔、幸せを届けるアイドルに年齢制限はない。1960年12月生まれのmyun、1961年3月生まれのyayoによるアイドルユニット「myunとyayo〜」は、今日もステージから愛嬌をふりまく。

たがいに同学年で、2人合わせて「124歳」(2023年9月時点)。コンセプトは「昭和アイドル歌謡」で、ステージでは往年の名曲をカバー、昭和を彷彿とさせるオリジナル曲も歌い上げ、「天国に一番近いアイドル」を自称する。

キャリアは十数年。かつては揃って離婚も経験、50代手前で「人生をもう一度やり直そう」とした2人の歩み、ステージへの原動力とは。

「昭和アイドル歌謡ショー」で全国を奔走

なぜ、2人のインタビューを決めたのか。ある記事で見た「天国に一番近いアイドル、2人合わせて124歳!」というキャッチフレーズに、すぐさま心をつかまれたからだ。

ユニットのX(旧Twitter、以下X)を見ると、2人はじつに忙しい。夏には、全国各地の盆踊りや祭りに引っ張りだこで、8月末に兵庫県の北条鉄道で行われた「ビール列車」では、出演が決まるやいなや「チケットが完売した」(myun)という。

ステージのコンセプトは「昭和アイドル歌謡ショー」だ。南沙織や天地真理、太田裕美といった往年の歌謡曲をカバーし、当時の雰囲気をかもし出すオリジナル曲も披露

どこか懐かしいハーモニーを奏で、既製品をアレンジした「ペアルック風」の衣装振り付けも自分たちで考案する。

1960年12月生まれのmyunと、1961年3月生まれのyayo。たがいに同学年「アラカン(アラウンド還暦)アイドル」で、次にめざすのは「アラ古希アイドル」のポジション。彼女たちの正体に迫る。


インタビュー、写真撮影での息もピッタリ(写真:尾形文繁)

女子アイドルグループ、ユニットは無数にいる。

しかし、ステージ上で司会者に「若さの秘訣は?」と聞かれ、「若い男性の生き血を吸うこと(笑)」とあっさり冗談まじりに返せるのは、この2人しかいない。

もともと、たがいに幼稚園の「ママ友」で、音楽活動をスタートしたのは50代手前離婚を経験した2人は、自然と意気投合した。

離婚の「アクシデント」を乗り越えて

当初は、近所の仲間と組んだ「親父バンド」でヴォーカルを務めていたが、他のメンバーと音楽活動にかける思いがすれ違い、ユニットを組むことに。かれこれ十数年。「アイドル路線で行こう」と決意し、数々のステージに立ってきた。

myunは、中学時代にアイドルへの憧れから芸能活動をスタート


17歳で上京して芸能界入り。道中では「様々な苦労もあった」と振り返るmyun(写真:尾形文繁)

往年の歌謡曲スターのステージを彩るバックダンサー・スクールメイツ、時代劇、FMパーソナリティー……と経歴も豊富ながら、アイドルの夢はつかめなかった

かたや、yayoは20代前半に社内結婚

myunから「親父バンド」に誘われ、音楽活動をはじめるまでは、30年近くにわたり専業主婦として過ごしていた。

62歳の現在、すでに「企業年金をもらっている」(yayo)という。

人生のターニングポイントは、いつやってくるかわからない。

離婚の「アクシデント」はありながら、たがいに「yayoちゃんがついてきてくれたから頑張れた」(myun)、「myunちゃんが生き生きと楽しそうに頑張っているからついてきた」(yayo)とほほ笑み合う2人の絆は、堅い。

2012年8月末に「myunとyayo〜」として、都内のライブハウス・ラドンナ原宿でステージデビュー。

2018年1月に往年の名曲をカバーしたメジャーデビューアルバム『昭和アイドル歌謡ショー〜あの頃のときめき〜』をリリースし、2022年7月にはオリジナル曲のメジャー1stシングル『ちょっとだけ恋』をリリースした。

YouTube「myunとyayo〜/ちょっとだけ恋」(日本コロムビア 公式YouTubeチャンネル)

すでに還暦を超えていても、パワフル。インタビューでは「ダンスレッスンは月に数回。昨日も激しく踊ってきました」(myun)と笑う。

高学歴のファンが青春を取り戻すステージ

2人のステージを待ちわびる、ファンの年齢層はじつに幅広い

下は40代から、上は90代まで。最高齢は「93歳」で、「杖をついて毎回、1人でライブに来てくださるんです」(myun)という。


自身の離婚時、高校時代の恩師に「カリスマ主婦を目指して」とエールをもらったと明かすyayo(写真:尾形文繁)

東京大学やマサチューセッツ工科大学の出身者など、高学歴でステータスが高いとされる職業についている男性ファンが多いとは意外だ。

その理由は、青春時代を取り戻すため。

かつて、勉学に励んでいた当時は追えなかった「昭和アイドル」の面影を、2人に重ねているのだ。

かたや、同世代の女性ファンには勇気を与える存在に。YouTubeの動画をきっかけに知ったファンからは「私たちもまだまだ」と、コメントが寄せられた。

とある60代男性と50代女性の夫婦は、2人のファンクラブで知り合い結婚。婚姻届の証人を求められたときは「離婚しているし、縁起悪いよ(笑)」(myun)と冗談まじりに返したが、夫婦からは「縁結びの神」と感謝された。

アイドルの活動には、夢がある。笑顔でいてくれる人がいるなら「何があっても、全国で認知されたい。みんなが振り向いてくれるまで頑張る」(myun)と話す、その表情は真剣だ。

昭和、平成、令和を生きてきたからこそ、ステージで人の心を揺り動かせる

2人は小学生時代にグループ・サウンズで育ち、井上陽水や吉田拓郎といったフォークソングも体感。ニューミュージックやシティ・ポップ、テクノサウンドもすべてリアルタイムで味わってきた。

世代を超えたアーティストから受けた感動を、今いる目の前のファンに届けたい。その思いも胸に「賞味期限は切れていても、消費期限はまだある」(myun)と意気込み、日々の活動に全力を費やす。

「ふところの深いおばちゃん」同士で笑顔を

ふとしたきっかけで、人生は急転する。

メジャーデビューのチャンスをつかんだのは、男性ムード歌謡コーラスグループ・純烈の人気に火が付いた時期。

たまたま2人のステージを見たレコード会社関係者が「女性2人は珍しいし、ひょっとしたら化けるかもしれない」と、白羽の矢を立てた。

ユニットとしての道のりはまだまだ長い。「人生100年時代で、私は50代手前からmyunさんに引っ張られてここまでやってきた。応援してくれる息子2人も独り立ちして、離婚しなければ今の自分はなかった」と達観するのはyayoだ。

かたや、過去の芸能経験もすべてが現在に通じる「修行」だったと振り返るmyunは、「目の前で涙を流してくれる人たちがいるのはうれしい。『昔を思い出して、泣きたければ泣けばいい』と、ふところが深いおばちゃん2人でこの先もステージに立ち続けられれば」と願う。


活動は遊びではなく「本気」で。息の合ったかけ合いも見せてくれたmyunとyayo〜(写真:尾形文繁)

目の前のファンに元気を届け、幸せを分け与える。それこそがアイドルの本質であり、ステージに立つ上での年齢制限はない

唯一無二の「アラ古希アイドル」をめざして。今日は都内、深夜バスに乗って明日は大阪へ……と忙しないスケジュールを生きる「myunとyayo〜」の正体は、ひたむきに走り続ける「正真正銘のアイドル」だった。


同世代、そして、全世代の「アイドル」として精力的に(写真:尾形文繁)

(カネコ シュウヘイ : 編集者・ライター)