偶然見つけたラグビーW杯の素敵な景色 理屈はいらない、胸を打たれたピッチ外のウォークライ【フォトコラム】
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
連日熱戦が繰り広げられているラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は取材中に胸を打たれたピッチ外のウォークライ。
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期待と興奮に包まれたスタジアム、ピッチで陣形を組んだフィジーのワイセア・ナヤザレブが雄叫びを上げる。呼応するようにフィフティーンが獲物を狙うかのような構えを見せる。男たちの戦いが始まる。鬨(とき)の声が最高潮を迎えた瞬間、フィジアンたちが高く、高く、舞った。
正直、何語なのか、何を言っているのか、何の構えなのかもわからないが、フィジーのウォークライ『シビ』は気持ちが上がる。大きな動きのないシンプルな構えから、クライマックスのジャンプへ。静から動への流れが、興奮を誘う。試合前から最高の気分になった。
本大会は開幕戦のニュージーランドのハカ、ニースで見たトンガのシピタウ、そして日本戦ではサモアのシバタウを撮影した。どのウォークライからもその国のらしさが伝わってくる。歌詞や踊りの意味を理解できれば、もっと彼らの思いを受け止められるだろうに……カメラを構えながら、ずっともどかしさを覚えていた。
ただ、今はその「もどかしさ」はない。それは偶然にも見つけたW杯での素敵な景色があったからだ。
トゥールーズでの日本とサモアの試合後、またもやプレスセンター横の大会ボランティアたちのスペースから歓声が上がった。のぞいてみると、大勢のボランティアたちを前にニュージーランドの高校生たちがウォークライを披露していた。
なぜ!? どういういきさつかはわからないが、そこにはボランティアたちの最高の笑顔と胸を張って踊る勇ましい子どもたちの姿があった。言葉や踊りの意味はわからなくとも、そのパッションは自ずと伝わってくるものだ。顔を真っ赤にして踊る高校生、目を潤ませるボランティア、目の前の景色に胸を打たれた。
理屈はいらない。それでいいんだ。何よりも、感じることが大切だ。W杯がより一層楽しく感じられるようになった。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表の試合撮影のほか、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモトアキト / Akito Iwamoto)