ラグビーW杯でもっと響くはずだった歌声 突然の運用変更、今も客席でアンセムを歌う合唱団の笑顔【フォトコラム】
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
連日熱戦が繰り広げられているラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回はフランスの少年少女合唱団たち。今大会、試合前の国歌やアンセムは児童合唱団の歌声を収めた音源が使用されていたが、一部選手などの批判が上がり、従来の演奏付き音源との選択制に。多くのチームが従来のものを使用しているが、彼らは会場の客席からファンと一緒に歌っている。
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カメラを向けると、いつも最高の笑顔で応えてくれる。彼らのキラキラした目に、W杯はどんな風に映っているのだろう。
カラフルなジャージーが彩るスタジアムの中、彼らはいつも最前列にいる。お揃いの白いジャージー、胸には「La Melee des Choirs」の文字。Meleeはフランス語でスクラム、Choirsは合唱団を意味する。スクラム合唱団? 調べてみると、彼らはW杯でアンセムを歌う少年少女合唱団だとわかった。
パリ、リヨン、トゥールーズ……各スタジアムで彼らの歌声がスタジアムに響くはずだった。合唱を通して選手や観客、大会を盛り上げたい。フランス全土から集まった約7000人の子どもたちの思いは虚しくも散った。
開幕戦からの数試合、録音された彼らの清らかな歌声がスタジアムに流されると、選手やファンから「試合前の雰囲気にそぐわない」との声が上がった。確かにアンセムは緊張と興奮が最高潮に達する瞬間だ。熱のこもった歌声は、選手たちのハートを熱くするもの。組織委員会の判断により、アンセムは選手が観客と大合唱する従来の形に変更された。
W杯のために何か月も練習を重ねたはずだ、きっと悔しさもあるだろう。ただ彼らの表情からはその悲しみは感じられない。最前列から変わらぬ思いでアンセムを歌うその姿に、胸がぐっと熱くなった。
「素晴らしかった!」と伝えたくて、歌い終えた彼らにカメラを向けた。言葉にしなくとも、きっと思いは通じるはず。レンズ越しに最高の笑顔が映っていた。このW杯が彼らにとって良い思い出になってほしい。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモトアキト / Akito Iwamoto)