ドッグフードをそのまま与えてはいけない…愛犬の寿命を縮める「隠れ水分不足」の恐ろしさ
※本稿は、長谷川拓哉『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■飼い主は犬の水分不足に気づかない
飼い主のみなさんには、飼っているワンちゃんの水分が足りていない、という認識はあるでしょうか。
「犬だって喉が渇いたら自分で水を飲むから問題ない」
「動物の本能で、水を飲まないときは体が欲していないだけ」
などと思っている飼い主さんもいるかもしれませんが、経験上、水をあまり飲まないワンちゃんはとても多いのです。
たくさん運動して、喉が渇いて水分を欲して自ら飲む、という状態が理想的ですが、毎日そんな状況をつくるのは難しいでしょう。
普通に生活して、散歩をしているからといって、水を必ず欲するかというと、そうではありません。
犬からすれば、「水分が足りていない」などという自覚はもちろんありません。
水分が足りなくても若い犬であればなんとかなりますが、高齢犬になると、体力も落ちてくるため、水分不足の影響が出てきやすいのです。
■シニア犬が注意すべき「隠れ水分不足」
高齢犬の病気の9割は「隠れ水分不足」が原因。とくに8歳以降のシニア犬には「隠れ水分不足」が多く、水分摂取はとても重要です。
人間でも高齢者になると熱中症で倒れる方が増えます。
圧倒的に体内の水分が足りていないのに、「喉が乾かなかったから全然水を飲んでいなかった」というケースも多いようです。犬も同じなのです。
私は普段、自分のクリニックのほかに夜間救急の動物病院でも診ています。
ある夜のこと、中型の雑種のワンちゃん(12歳・オス)が痙攣(けいれん)を起こしたということで受診に来ました。
高齢だったこともあり血液検査をしましたが、内臓には問題がありませんでした。
ただ、血液検査で循環が悪いことがわかったので、飼い主さんに水分摂取について聞くと、「普段からあまり水を飲みません」と言います。
■目が乾いていれば脱水のサイン
脱水のサインはいくつかあります。
まずワンちゃんの後ろに立ち、首のあたりの皮膚をつまんでみること。そのとき、つまんだ皮膚がすとんと落ちないようであれば、脱水の可能性があります。
次に、目が乾いているかどうかチェックします。目が乾いているかどうかといっても、いわゆるドライアイではなく、目の輝きを診ます。
目に潤いがあると、部屋の蛍光灯がそのまま目に映るくらいきれいに反射します。目に潤いがないと、蛍光灯がゆがんで映ります。
■「口の中が乾いているかどうか」をチェック
そしてもう1つ、これは直接的なサインですが、口の中が乾いていること。
人間もそうですが、口内が乾いていると、唾液がねばねばします。歯茎をさわると、指がピタピタと張り付くような感じです。
これについては、たしかめられる飼い主さんは少ないかもしれませんが、もっともわかりやすいサインです。
中型の雑種のワンちゃんのケースでは、点滴で水分補給をすると痙攣から回復する可能性がありました。
もちろん必要に応じて痙攣の薬を処方することもあります(私のクリニックと違い、夜間救急の病院では薬を処方するのが基本です)。
夜間救急での対応だったのでそのワンちゃんには痙攣の薬を処方しましたが、点滴で水分補給をしたところ症状が治まり、無事帰宅していただくことができました。
■「おしっこの色」が薄い黄色であれば問題なし
大切なのは脱水前のサインを見逃さず、脱水を予防することです。
飼い主さんでもチェックできる初期段階のサインが「おしっこの色」。
おしっこの色は薄い黄色であればまず問題ありません。脱水になるとおしっこの色が濃い、麦色のようになります。
ただし、犬によってはおしっこを溜めこんでから出す子もいます。そういう子は尿の色が濃く見えるので判断が難しくなります。
おしっこのにおいがきつい場合は、膀胱(ぼうこう)炎になっている可能性もあります。
本来は、おしっこはこまめにするほうがいいのです。
人間の場合、おしっこの量が減ると脱水のサインとされることがあります。ただ先ほどお話ししたように、おしっこを溜めてから出す子の場合は量が多いため、量だけでは一概に判断できません。
■水分不足で腎臓病になるケースも
水分不足で怖いのは、腎臓病につながる可能性があることです。
腎臓病というと猫に多いイメージがあるかもしれませんが、犬もなります。
だいたい10〜11歳くらいで見つかる場合が多いです。
腎臓が悪いと、体に老廃物が溜まりやすくなります。それが皮膚病や心臓病につながることもあります。
そうなれば当然、寿命にもかかわってきます。
■エアコンにあたっているだけで水分は抜ける
犬の健康寿命を延ばすためには、水分摂取が欠かせません。
とはいえ、なかなか水を飲んでくれないワンちゃんがいることも事実です。
少しくらい水を飲まなくても、犬自身に困ったことがすぐ起こるわけではないのですが、水は生きる上で必要ですし、代謝にも必要なもの。1、2日飲まなければ命にもかかわります。
犬にも本能があるのだから、水を飲まないのは欲していないだけ、という思い込みは危険です。
野生動物なら本能で体が欲すれば水を飲みますが、ペットで飼われている動物たちは、より人間に近くなっているので、体が欲していても飲まないことがあると思ってください。
室内で長時間エアコンの風に当たっているだけで水分は抜けていきます。
つまり、ペットの動物たちは水を意識して飲まなければならなくなってきているのです。
■「ドッグフードをふやかしておく」だけでもいい
繰り返しになりますが、とくにシニア犬は脱水に注意です。
人間と同じで、若ければ水分が多少足りなくてもなんとかなりますが、シニア犬が脱水になると、回復に時間がかかってしまうのです。
人間もそうですが、喉が渇いてから水を飲むのでは遅いことがあります。
脱水になる前に飲ませることが重要です。
犬に水を飲ませるには「水」だけでなく、煮汁を飲ませる方法もあります。
鶏肉や豚肉、魚を煮たものを水分として飲ませる、手作り食としてつくった「おじや」を食べさせると、水分を摂取できます。
あるいは、水のなかに少し煮汁を入れて風味づけすると、ひきつけられ喜んで飲む犬もいます。
手作り食で作った煮汁を製氷皿に入れて冷凍しておき、1個を水の中に入れて飲ませるのも手です。
ドッグフードがメインの子だったら、フードを水でふやかしておくことで、水分を与えることができます。
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長谷川 拓哉(はせがわ・たくや)
獣医師
北里大学獣医学科卒業後、埼玉・新潟の動物病院で11年勤務。手術件数年間800件以上の病院で高度医療にも携わるが、薬や手術が当たり前の西洋医学に疑問を感じ、東洋医学を研究。その後、新潟県でペットクリニックZero/ペットスキンケアサロンZeroをトリマーの妻と開業。食事療法や体のエネルギー改善を治療の柱とし、免疫力や自然治癒力を高めて動物たちを元気にすることを目指している。著書に『愛犬の健康寿命がのびる本 うちの子がずっと元気に暮らす方法』(青春出版社)。
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(獣医師 長谷川 拓哉)