イングランドが日本戦でかけた魔法の正体 無数の光と大合唱に包まれたW杯カメラマンの気付き
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
8日(日本時間9日)に開幕したラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は17日(同18日)、南仏ニースの会場スタッド・ド・ニースで開催された日本―イングランド戦から。
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響き渡る「Swing Low」、点滅するスタンドのイルミネーション、そしてTony Waymouth。まるでその景色はトゥイッケナム。ニースはイングランドのホームだった。
ラグビーW杯、日本の第2戦が南仏ニースで行われた。結果は34-12、日本はイングランドに力の差を見せつけられた。イングランドとは直近で2018年、そして22年に対戦した。どちらも場所はイングランドのホーム、トゥイッケナム・スタジアム。その2試合を現地で撮影したからこそ、ニースの景色に妙な既視感を覚えた。
「やられた!」―。気づくべきだった。気づいた時には遅かった。試合後、写真を見返す中でその謎が解けた。イングランドがかけた魔法。それは試合前からすでに始まっていた。
いよいよ試合が始まる。ピッチへと歩みを進める選手の背後を、キラキラといくつものライトが照らしていた。灯りの正体はスマートフォンのライト。それはトゥイッケナムでお馴染みのイングランドファンのアクションだ。今思えばこの試合に合わせてウェブ・エリス・カップがあるのも意味深に思えてくる。
魔法がかけられたスタジアムに響くイングランドの応援歌「Swing Low」は、ピッチを包み込むようにつくられた屋根に歌声が反響し、大合唱へと化けた。後半「Swing Low」に飲み込まれていくかのように日本は失点を重ねた。
そして本大会、ニースのスタジアムで撮影するフォトグラファーたちを取りまとめるフォトマネージャーTony Waymouthの存在。彼はトゥイッケナム・スタジアムの名物フォトマネージャーだ。
「いいか、アキト。ここからここまでが動いて良い場所だ。試合前後はこのラインまで撮影OKだ。トゥイッケナムと同じと思え」
フォトグラファーとの的確なコミュニケーション、有能かつ愉快な彼がタクトを振ることで、私の中でニースは本物のトゥイッケナムとなった。
もちろんスタジアムがトゥイッケナムのようだったから日本が敗れたわけではない。ただイングランドにとってはホームのようにプレーしやすい雰囲気であったことは間違いない。19年の日本大会がそうだったように、応援はプレーヤーの力になる。
場の持つ力は偉大だ。日本も魔法使いを育てる必要がありそうだ。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモトアキト / Akito Iwamoto)