勝利より大切な使命があるラグビーW杯 歯科医と二足の草鞋も…アマチュアが大半の国のドラマ
ラグビーW杯フランス大会 カメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラム
8日(日本時間9日)に開幕したラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会。「THE ANSWER」は開幕戦から決勝戦まで現地取材するカメラマン・イワモトアキト氏のフォトコラムを随時掲載する。今回は16日(同17日)に強豪ウェールズに挑んだポルトガルから。
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何度倒されてもなおしがみつく、幾度となくつぶされてもなお、前を向く気高い狼たちがニースのピッチを駆けた。
ウェールズとのW杯初戦に臨んだポルトガル、前半から幾度となくチャンスを作るも得点に結び付けられず、ペナルティーからゴールを狙うも2度もポールに嫌われた。ボーナスポイントを狙いに襲いかかるウェールズに立ち向かうオス・ロボス(ポルトガル語でオオカミ)の背中を支えたのは、ルシタニアの大歓声だった。
28-8、点差以上に力の差を見せつけられた試合だった。ただW杯という場所で戦う意義を感じさせる大切な試合だった。ポルトガル代表は国内のアマチュアクラブでプレーする選手が大半だという。チームのキャプテンを務めるトマス・アップルトンは歯科医とラグビー選手の二足の草鞋を履く一人だ。
強豪国とは一線を画すポルトガルのラグビー。勝つことを目指しながらも、それ以上に国の代表として誇り高く戦うことが彼らの使命のように感じた。ウェールズやニュージーランド、ポルトガルやナミビアのようにそれぞれにとってのラグビーW杯があっていい。
試合後、スタンドに向かうポルトガルの選手たちを家族やファンが愛を持って迎えていた。NO8のハファエル・シモエスはまっすぐ、スタンドで彼を見つめる女性の元へと向かった。
素敵だったわ――。
抱き合う2人、声は聞こえないが彼女がそう伝えていることが表情から伝わってきた。それぞれの国が、それぞれの選手が特別な思いを持ってピッチに立つ。ラグビーW杯という舞台は、ドラマチックだ。
■イワモト アキト / Akito Iwamoto
フォトグラファー、ライター。名古屋市生まれ。明治大を経て2008年に中日新聞入社。記者として街ネタや事件事故、行政など幅広く取材。11年から同社写真部へ異動。18年サッカーW杯ロシア大会、19年ラグビーW杯日本大会を撮影。21年にフリーランスとなり、現在はラグビー日本代表、JAPAN RUGBY LEAGUE ONEオフィシャルフォトグラファーを務める。
(イワモトアキト / Akito Iwamoto)