読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】白い服で食事をすると、汚してしまわないか気になる

うっかり白い服で麺類を食べに行ったときに、服を汚してしまわないか気になってしまいます。実際に汚さなくても、汚してしまわないか気にして食べることがすごくストレスです。(PN.ラムのラムネさん)

【作者さんの回答】UFOにさらわれた気分でいよう

ちょうどつぎの短編小説はなにを書こうかと迷っているときに、「UFO」という名のレストランからインビテーションカードが届いた。

宛名はわたしのペンネームになっていて、カードには日時とイラストが書かれている。どうやらレセプションパーティに呼ばれているようだ。

「UFO…知らない名前だ」

これからオープンするレストランなので知らなくて当然なのだが、そのネーミング・センスに奇妙なものを感じる。というのも、そこはスパゲッティ専門店のようなのだ。

カードに描かれたイラストも、よくわからない。スパゲッティがまるでUFOのように宙を浮かんでいる。そして、その下に光が注いでいて、真下にいる男を照らしているのだ。男の顔は無表情なので、その感情は読みとれない。男の足は、すこしだけ地面から離れている。

吸い込まれるようにおいしいスパゲッティということなのだろうか。それとも、UFOのように不可思議なレストラン…?

「たまには不可思議に絡めとられるのも悪くない」

●不思議なレストランを訪れてみると…

パーティの時間をすこし遅れて店に訪れてみると、すでにたくさんの招待客でにぎわっていた。

店のなかに入ると、立食形式になっていた。数メートルおきに置かれた丸テーブルのあいだで、招待客が談笑している。トレーを持ったウェイターが、せわしなく歩いてはかれらにシャンパンを振る舞っていた。

奇妙な光景だった。皿だけ置かれた丸テーブルのうえを、なにかがふわふわと浮いている。丸いかたまり…スパゲッティだ。プレートを時計回りに回転させ、浮力を起こすことで宙に浮かせているのだ。リニアモーターカーと同じ原理だ。

そして、それをフォークなどは使わず、宙に浮かせたスパゲッティにそのままかぶりつくという趣向である。みんなあちこちに浮いているスパゲッティに好きなタイミングでかぶりついている。

招待客の顔ぶれを見てみると、いわゆる“セレブリティ”のようだ。ふと横を見ると、あごひげを蓄えた端正な顔立ちの男が立っている。

「あなたは作家のR・Kですね。いつも読んでいますよ」

「ありがとうございます。あなたは?」

「わたしは俳優のC・Eです。ほら、去年アカデミー賞をとった」

「すみません、映画は見ないもので」

C・Eは怪訝そうな顔でわたしをのぞきこんでくる。

「去年アカデミー賞をとった『未知との激突!』を見ておられない?」

「ええ、そのほうが興味本位な質問をされないから、あなたも気が楽でしょう」

いたたまれなくなったわたしは、そう言ってかれのそばを離れた。

●コック服を着た男との奇妙な会話

コック服を着た男が、招待客に挨拶して回っている。よく見ると、インビテーションカードに描かれたイラストの男に顔が似ているではないか。かれはわたしのそばにやってくると、微笑みながら話しかけてきた。

「どうでしょうか。わたしの無重力スパゲッティは?」

「いや、こんな技術があるとは。知りませんでした」

「今日発表ですから、知らないでしょうね」

これは笑うタイミングなのかなと思い、わたしは声を出して笑った。そして、つぎのことばに困り、意味もなくレストランの壁に視線を移した。

さっきまでは気がつかなかったが、絵が飾られている。だが、インビテーションカードのイラストではない。なにやら古代ローマを思わせる石造りの神殿に、男性の胸像が並べられていて、それを縫うように植物が茂っている。

「この絵はいったい…?」

「これはピラネージという画家のものです」

「ほう、ピラネージ。まったくもって知りません」

「そうでしょうね」

男は微笑む。そして、わたしの胸もとを見てこう言った。

「ところで服がひどく汚れていますね」

「おや、気づきませんでした」

「申し訳ない。紙エプロンを渡すべきでした」

「いいんです。わたしは言われるまで気がつかなかった。もし、このまま帰っていたら、なにも気にせず洗濯機に入れて、いつも通り洗っていたでしょう。そして、なにも気づかずまた着ていたでしょう」

そのとき、はっとした。この汚れは、今日ついたものなのだろうか。それとも、以前スパゲッティを食べたときにつけたものなのだろうか。記憶があいまいだ。まるでUFOにさらわれたときのように。

わたしはめまいに襲われた。

ほかの招待客の胸もとを見ると、みんな汚れをつけている。それはいったいいつつけたものなのだろうか?

だれにもそのこたえはわからない。

【編集部より】

えーっと、いつ汚れがついたのかはわからないから気にする必要はないってことでしょうか。

汚れがついていたら着るときにだいたい気がつきますし、あたらしい汚れかどうかはそのときに見ればわかりますよね。

シミがその場で落とせる携帯用の洗剤なども売っていますから試してみましょう!

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。