来年も猛暑?今夏がこんなにも「暑くなった」根因
世界各地を熱波が襲っています。その理由とは?(写真:Queserasera99/Getty)
日本だけでなく世界各地を襲う熱波。国連のグテーレス事務総長は「地球沸騰の時代」と表現し、地球温暖化に対する危機感を強めた。
一方、気候変動に関して科学的知見を提供する国際組織の報告書で主執筆者を務めた東京大学の小坂優・准教授は、個々の異常気象の要因は第一には自然変動だと指摘する。ただ、温暖化の進行は、極端な高温の頻度や強度を増していると語る。
いったいなぜ今年の夏は暑いのか?
日中の耐えがたい日射の強さと息苦しい空気。街では日傘をさして歩く男性も多くなった。全国の平均気温は、7月としては100年余りで最も高くなった。東京都心では1年間に観測する猛暑日の日数が過去最多を更新している。
今年の夏の暑さは、ちょっと尋常ではない、と多くの人が感じているのではないだろうか。同時に、この暑さの原因は、地球温暖化が進行しているためなのか、あるいは一時的な自然変動によるものなのだろうか、という疑問も浮かぶ。
気象庁は今月28日に外部の専門家も入れた異常気象分析検討会を開催し、7月後半以降の北および東日本を中心とした顕著な高温の特徴とその原因などについて見解を公表する予定だ。
極端な高温は日本だけでなく、世界各地で同時多発的に発生している。とくに北半球での気温上昇は凄まじい。
世界気象機関(WMO)によると、アメリカのアリゾナ州フェニックスでは、7月の平均気温が39.3度と最も暑い月となった。スペインのカタルーニャ州の都市フィゲラスでは、7月18日に観測史上最高の45.4度(暫定値)を、中国新疆ウイグル自治区トルファン市では7月16日、52.2度をそれぞれ記録した。
WMOとEUの気象観測機関であるコペルニクス気候変動サービスは7月27日、月末を待たずに同月の全世界の平均気温が観測史上、最高になるとの見通しを示した(後に過去最高を記録したことを確認)。
これを受け、グテーレス事務総長は同日、「地球沸騰の時代が到来した」と宣言した。事務総長は「残酷な夏」「地球全体の災害」といった短いフレーズで危機感を訴えたうえで、国連などによる予測や繰り返されてきた警告と「完全に一致する」とも指摘。ただ、「唯一の驚きは、変化のスピードだ」とし、各国の指導者に行動を呼びかけた。
世界の科学者からなる気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年の報告書において、人間の影響が大気、海洋、陸域を温暖化させてきたことは「疑う余地がない」と断言している。
数十年以上の時間軸でみると、温暖化レベルは人類による二酸化炭素(CO2)累積排出量と比例すると言われている。その排出量は増え続け、今も大気中のCO2濃度は上昇し続けている。
熱波は温暖化と自然現象の重ね合わせ
東京大学先端科学技術研究センターの小坂准教授は、「異常気象の背景には、まず自然変動がある」とし、「今起こっている熱波は温暖化のせいですかと聞かれれば、温暖化だけのせいとは言えない」と説明する。
小坂優准教授(筆者撮影)
ただ、温暖化が進むと、極端高温の頻度が増え、より厳しくなる反面、極端低温は減る。「ゼロか100ではなく、両方の影響が足し合わさっている」と語る。温暖化の進展と極端気温の関係を図で示すと以下のようなイメージになる。
(画像:小坂優准教授提供)
小坂氏は自然変動(自然の揺らぎ)と人由来で起こる地球温暖化の2つの影響を融合する研究に取り組んでおり、その功績は国際的にも高く評価されている。
2021年に公表されたIPCC第6次評価報告書・第1作業部会報告書の執筆者は、65カ国から総勢234人に上り、日本からは10名が参加した。小坂氏はそのうちの1人で、第3章(人間が気候システムに及ぼす影響)で主執筆者を務めた。
自然変動をもたらす例としては、エルニーニョ現象などの海水面温度の変動に伴う気温の変化のほか、太陽活動、火山噴火による影響もある。1991年にフィリピンにあるピナツボ火山の大規模噴火後の数年は、地球に達する太陽光が減り地球の平均温度が低下したことが知られている。
これに対して、人由来の温暖化は、経済活動に伴うCO2やメタンなどの温室効果ガスの排出や森林伐採による土地利用などによってもたらされる。一方、人由来でも、大気汚染をもたらすエアロゾルは、地球を冷やす効果があると言われている。
日本の「今夏の暑さ」の原因
小坂氏は、日本だけに関して言えば、今夏の暑さの主因は、偏西風の蛇行と熱帯地域における低気圧活動の影響の「合わせ技」だと指摘する。
これらは自然要因と考えられる。北半球の上空では、風が高気圧周辺では時計回りに、低気圧周辺は反時計回りに吹く。東西に連なる高気圧と低気圧に、中緯度の西から東に向けて吹く偏西風が加わると、南北に波を打ったように蛇行する流れができる。偏西風が北に張り出すところでは、高温な空気に覆われる。今夏の日本はちょうどその部分に該当する。
一方、地表付近では、太平洋高気圧の等圧線が、「クジラの尾」のように西の端で、日本列島付近へと張り出し、暑さをたらしているという。
もう1つの要因として、フィリピン周辺の熱帯地域で、熱帯低気圧が多数発生し雨量が増えると、同地域では低気圧気味になる一方、日本周辺は逆に高気圧気味になるという。これも太平洋高気圧の張り出しを強め、高温に拍車をかけているという。
他方、偏西風の蛇行は、日本だけではなく、南ヨーロッパからアジア、北米に伝播して熱波を発生させている。小坂氏は「これらは基本的には自然変動である」としながらも、「長期的な温暖化が気温を底上げしている」と語る。
工業化前の1850年以降の長期の時間軸で見ると、人由来の気温上昇が顕著である一方、自然変動による寄与は平均すると小さい。しかし、より短い期間で見ると自然変動が地球全体の気温を押し下げたり、押し上げたりしていた時期もあった。
以下のグラフは、1990年代後半から2010年代始めまでの期間、気温上昇がやや遅くなったことを示している(折れ線の赤部分)。
(画像:小坂優准教授提供)
今年と来年は高温になる可能性が高い
この間も、CO2濃度は上がり続けていたため、温暖化に対する懐疑論が高まった。小坂氏は、この10年余りの気温上昇の停滞期には、ラニーニャ現象による熱帯太平洋の水面温度低下が地球の平均表面気温を下げていたことを突き止め、本来であれば人由来の影響で上昇していた気温が一時的に抑えられていたという。このように自然変動は気温上昇を抑制する場合もあり、また逆のケースもある。
平均気温は、2015年から2016年は明確に上昇に転じたが、その後上下を繰り返している。小坂氏は「こうした年々の揺らぎには、自然変動要因が大きい」とみる。また今年と来年について、「世界の年平均気温は結構、高くなる可能性がある」との見方を示す。
その理由として、現在発達中のエルニーニョ現象がある。エルニーニョ現象は通常12月に最大化し、それに遅れて地球全体の平均気温上昇が最大に達する。
地球は大気中に温室効果ガスがあるため、世界で平均すると15℃ぐらいの快適な温度を保っており、仮にそれがないとマイナス19℃ぐらいになると言われている。WMOが8月に発表した過去最高の世界平均気温17℃は、あくまで7月単月の数字だ。
小坂氏によると、7月は世界平均気温が、年間で最も高くなるため、年平均では16℃台に落ち着く可能性があるという。それでも、以下の図が示すように世界平均気温が上昇傾向にあることは間違いない。
(画像:世界気象機関)
毎年変動する特定の季節や地域の気象要因について、自然変動と人為要因とに厳密に切り分けることは難しい。ましてや自然由来の異常気象に対して、人類が直接介入することはできない。
一方、人由来のCO2は、いったん大気に排出されると、自然のプロセスだけでは、何千年もの間、完全には除去されずに大気中にとどまると言われている。
CO2などの排出量の一方的な増加は、環境保全と経済活動の両立が実現していないことを意味している。極端気象の発生を抑えるためには、両者のバランスを考えながら、温室効果ガスの排出を実質ゼロにしていく必要がある。
(伊藤 辰雄 : ジャーナリスト)